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十九話・百日目、赤く染まる大地

「痛いって、ティーファ。分かった、起きるから突くのを止めろって」


 目を開けるといつものように、ティーファが俺を起こしに来ていた。

 心配そうな顔をしているのは薪割りの時間に寝坊しそうだからかな?


 あれ?


 いつもの家の風景と違う。

 ここは森の中……だよな。

 俺は一体何をしてたんだっけ?


 ……!?


 そうだ俺は『マシュール街の処刑人』の攻撃を受け流して……それから……吹き飛ばされたんだ。

 よくあんなデタラメな攻撃を受け流せたよな。

 下手したら、というか普通に死んでたぞ。

 そういえば『マシュール街の処刑人』は一体どうなったんだ?


 耳を澄まして周囲の物音を拾うが、たまに風に揺れた木木が音を鳴らす程度で至って静かだ。

 シャムズはどこに行ったんだ?


 右の方を見てみると、シャムズが大の字になって寝ている。

 寝ているというか俺と同じで気絶しているのか。

 せっかく命を賭けて助けたのに、このまま放って置くのは何だかなあ。

 正直顔も見たくないんだけどしょうがないよな。


 俺はシャムズに近づくと、顔に何度か往復ビンタを喰らわした。

 強めに叩いたのは、ティーファを食べようとした怒りが薄れていないからだ。


「痛っ、痛っ、もう止めてくれよ父さん」


 寝言のように呟いていたシャムズの声は、次第に大きくなっていく。

 そしてパチリと勢いよく瞼を開いて、俺の目の方に視線を合わしてくる。

 シャムズは苦々しい顔をしながら口を開く。


「お前、いつからあそこに居た?」

「お前が泣き出すずっと前から居たぞ?」


 シャムズは言いようのない感じで顔を大きく歪めた。


「じゃあ、全部聞いていたのか?」

「ああ、聞いてた」

「クソがッ!!」


 シャムズはいきなり大きな声を出して地面を殴りつける。


「馬鹿ッ! 大きな声出すな! またあいつが現れるだろ!」

「あいつって、あの化け物か?」

「そうだ! あいつは音に反応して人を襲うんだ。だから大きな音さえ出さなければ、無事にライチ村まで帰ることができる」

「お前……どうしてそんなこと知っている? それに俺は確かに見たぞ! お前が化け物の攻撃を防いでいる所を」


 なんで知っているのか聞かれても説明できることじゃないだろ。

 ゲームのボスキャラでした、何て言っても理解してもらえないだろうし。


「実は記憶が少し戻ってきて分かったんだが、俺は記憶を失う前は冒険者をやっていたらしい。それであいつのことを知っていたんだ」

「お、お前が冒険者だと?」


 シャムズは俺の言葉を聞いて明らかに動揺している。


「さっきの剣さばきも記憶が戻ったら出来るようになってた」


 本当はやってみたら出来たって感じだな。


「…………どうして散々嫌がらせをしてきた俺を助けた? 俺は下手したらお前を殺してたかもしれないんだぞ?」


 シャムズは苦虫を噛み潰したような表情をする。


「俺は……目の前で困ってる人は助けたい。ただそう思っただけだ」


 本音は別の所にあるが、どうしてもそのことを言う気にはなれなかった。


「チッ、クッサイこと言いやがって。聞いて損したぜ」

「音を出さなければあいつは来ない。お前も元気そうだし、一人で頑張ってライチ村まで帰るんだな」


 俺はこれだけの元気があれば何とかなるだろうと思い、その場を離れようとする。

 ライチ村に早くこの情報を伝えないといけない。


「まっ、待ってくれ! 置いていかないでくれ」


 な、なんだよ。

 ここは俺の背中を見ながらあいつ凄えー、で別れるパターンだろ。


「お前、散々いじめた相手に言う台詞かそれ?」

「お、お前こそ、目の前で困ってる人間は助けるんだろ? 助けろよ!」

「知るか!」


 こいつのどこが昔の俺に似てるんだよ。

 俺は幾ら何でもこんなお調子者じゃないぞ。


「まっ、待ってくれ、俺が悪かった。お前と、お前の飼っている鳥に酷いことをしたこと、謝る。この通りだ!」


 振り返るとシャムズは座った状態で、地面につくほど頭を下げていた。


 ジャムズを許した訳じゃないが、ここまで頼まれて見捨てる気にはなれなかった。

 それにシャムズが俺を見る視線と態度が明らかに変わっていた。

 少し馴れ馴れしいというか、棘がないというか。




「おい、この水を一滴だけ飲んでみろ」


 日も落ちて、先に進むのを止めた俺たちは大樹に背を預けていた。

 シャムズは今日、何も食べていないらしい。

【精霊湖の水】を一滴飲んだシャムズは、不思議そうな顔をして俺を見つめている。


「これでお腹一杯になっただろ?」

「お前……まじで何者なんだ?」

「言っただろ、冒険者だって」

「冒険者か……やっぱり冒険者ってすげーよな」


 シャムズは冒険者に憧れでもあるのか?

 そういえばルークも冒険者になりたいって言ってたな。

 まあいいや、寝よ。


「明日も早く出るから俺はもう寝るぞ」

「ああ、分かった。それと……シンヤ、今日は助かった……」


 シャムズから出た言葉はひどく小さかったが、それでも確かに俺の耳に届いた

 。


 翌日も目印のない森の中を、怪我をしたシャムズを支えて歩いた。



 今日は天界の日か……。

 そういえば今日はライチ村に来てから百日目か。

 もう結構長くいるんだな。

 ライチ村では嫌なこともあったけど、それでも俺はライチ村に来れて本当に運が良かった。


 さあ、記念すべき日はどんな色が出るのかなっと!


 一つ先は、黒色のマス。

 二つ先は、青色のマス。

 三つ先は、茶色のマス。

 四つ先は、桃色のマス。

 五つ先は、緑色のマス。

 六つ先は、青色のマス。


 おっ、中々派手なラインナップだな。

 桃色は説明された時から気になってたけど、スキルとかアイテムを売り買いできるんだよな。

 一度は行ってみたいよな。

 まあ、ポイントが無いし何も買えないか。

 スキルとかアイテムを売ったらどうにかなるかもしれないけど。

 それは売値と買値を見てからの話だな。


 一以外、それだけで今回は十分だ。

 来いよッ、来いよッ、来るなよッ。


「そりゃッ!」


 放り投げたダイスはコロコロと転がりながら、道の上を突き進んでいく。


 おいおい、どこまで行くんだよ。


 俺は走って、転がり続けるダイスの後を追っていく。

 しばらく走るとその先は行き止まりになっていた。


 あれ? 俺が選んだ道ってこんなに短いの?


 疑問は残るが、ダイスは急遽ユータンをして来た道を戻っていく。

 ちくしょう、これって元の場所にいたら良かったってことか。


 俺が元の場所に戻った時、先を行くダイスは既に道の上で止まっていた。

 ダイスが止まっていた場所は、俺が最初に立っていた場所から一マスしか進んでいなかった。


 ーー黒


 冷たい何かが背筋から全身に駆け巡っていく。

 ダイスの出目を確認する前に天界アナウンスが響いてくる。


「出た数字は一です」


 あっ……終わった……。

 一体これからどうなるんだ?


 持っているスキルを没収とかか?

 流石にティーファが居なくなるとかは無いよな?


 自然と呼吸が荒くなり、それと同時に全身から脂汗が滲み出る。

 そんな中、俺の視界はブレていった。




 息を乱しながら周囲を確認すると、俺が立っている場所はライチ村だった。

 みんないつものように井戸の周りで会話をして、笑い合っている。

 俺の存在がないかのように、いつものライチ村の風景が流れていった。



 だがーーその風景は突然、終わりを迎える。



 ーーズン



 ーーズンッ



 ーーズンッッ



 あの大地を揺らすような足音、そして所狭しと鳴り響く悲鳴の声。



 ーーグチャッッ!!



「逃げろーー!!」



 ーーベチャッッ!!




「誰か助けてッ!!」

「お父さんっ! お母さんっ!」


 踏み潰されていく。

 皆んな消えていく。


 赤く染まった俺の視界に映るのは、剣を持った村長と大きな斧を持ったルイスだ。


「だ、駄目だっ!! 村長、ルイスさん、逃げないと。頼むから逃げてくれッッ!!」


 村長とルイスさんの前に立って必死に声を上げるが、俺の体をすり抜けて二人は『マシュール街の処刑人』に向けて走っていく。


 それに合わせて『マシュール街の処刑人は』巨大な鉈を振り下ろす。



 ズドッッンッッッッ!!



 巨大な鉈が下りた先では赤い何かが飛び散った。


「……あっ、あっ、あっああぁあああああああああ。もう止めてくれ、頼むからもう止めてくれ」


『マシュール街の処刑人』はそれでも止まらない。

 村中で上がっていた悲鳴は破裂音が鳴るたびに減っていった。


 俺は崩れ落ちそうになる足を思いっきり殴りつけて、ルークとエレナとミルの姿を探して走り出す。

 まず、家に行ってみるがそこには誰もいない。

 今度は赤く染まった大地を走り抜けてパムの畑に向う。



「………あぁああああああ」



 そこには魔物の群れに無残に殺された村人たちと、三人の首が並べてあった。


 俺の意識はそこで途切れてしまう。

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