十三話・ティーファの成長日記
五十二日目。
擬似天使化を行った俺は、ティーファに待ちに待ったご飯を与えることが出来た。
指先に勢いよくカブリついたティーファは、俺が気絶するまでMPを吸い続けた。
気絶から目覚めた後、ティーファは一回り大きくなっていた。
脂肪であのクリクリとしていた瞳が埋もれてしまうほどだ。
ティーファファンの間では、あの愛くるしい瞳が消えてしまったことに批判の声が上がり、俺の親権問題にまで発展した。
だが相変わらずティーファが俺にベッタリで、他の人にそれほど懐かないないことから、俺の親権が取り上げられることはなかった。
ティーファのステータスを確認すると軒並み能力が上がっていた。
このペースで上がり続けたら俺の指先はいつかティーファに食い千切られそうだ。
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名前 :ティーファ
年齢 :0
性別 :雌
種族 :神鳥
職業 :銀光の神鳥
レベル: 1
<スキル>
【BP】 0
【HP】390
【MP】700
【SP】430
【筋力】5
【器用】8
【敏捷】5
【頑強】13
【魔力】99
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六十日目。
ダイスの出目は一だった。
進んだ先のマスは茶色だ。
前回の青が良いことがなかったのでそれほどキツイものはではないと思っていた。
茶色のマスの先では鼻の長い薄気味悪お婆さんに拉致されて、状態異常である呪いをかけられた。
今でも呪いをかけ終わった後のお婆さんのドヤ顔が忘れられない。
ゲーム上での呪いの効果は、攻撃時の命中率ダウンやアイテム合成時の失敗率アップなど、確率に関わることに関してマイナス効果があるものだった。
この世界での呪いはゲームの世界での呪いと基本的な効果は同じで、対象に不利な確率が上がるというものらしい。
ステータス画面の呪いの説明にはそう書いていたのだが、この世界での呪いはゲーム時代と比較にならないくらい危険な気がする。
そして案の定、その日から俺はついていなかった。
笑った隙に口の中に虫が飛んで来てそのまま飲み込んでしまったり、俺の顔の上で寝ていたティーファのお腹のせいで窒息死しそうになったりとかだ。
六十二日目。
今回はティーファに餌をあげる前にやるべきことを行った。
呪いの解呪だ。
【神聖魔法】レベル1の【ソロモンの聖水】を使った。
この魔法は状態異常の呪いを解くことが出来る。
ゾッとする話だが、もし魔法を使えていなかったらどうなっていたのか……俺は一生不運な人生を送っていたのかもしれない。
魔法を使った後、相変わらずティーファは勢いよく俺の指にかぶりついてきて、気絶するまでMPを吸い上げられた。
俺が目覚めた時には、体のサイズがヒヨコから脱したと言ってもいいかもしれないサイズになっていた。
その分脂肪はヒヨコの時と同じ程度になって、バランスがとれたように思える。
ふと俺はこの時、疑問に思った。
ティーファって何処まで大きくなるんだろうか?
神鳥っていうくらいだからダチョウくらいにはなるのかな?
この小屋ってあまり丈夫じゃないから、大きくなりすぎると床が抜けてしまいそうで怖いな。
また、ルイスに修理を頼むのか……。
無言であの厳つい目で見つめられるのは辛い。
まあ、その時はちょっと寒いけど、成長したティーファの背中で寝たら良いか。
ティーファのステータスも体の成長に合わせて順調に上がった。
六十六日目。
村長と一緒に昼食を食べていた時、魔族やモンスターの話題になった。
村長は魔族と実際に会ったことがあるらしい。
魔族は人よりも一回り大きな紫色の体に、三股の尻尾、背中には大きな黒い羽が付いていたとのことだ。
頭部には二本の角が生えていて、口を開くと耳元まで大きく割れるらしい。
歯の一つ一つが鋭利な刃物のように尖っていて、人の骨をバリバリと食べていたそうだ。
なんとなく想像してみたけどまるで悪魔みたいな存在だ。
そんなのに間違われる俺って一体何なんだ……。
魔族は基本的にダンジョン内で生息しているらしいのだが、なんとダンジョンから出てくることがあるらしい。
ダンジョンから出てきては人々に災厄を振りまいていくらしいのだ。
モンスターはダンジョン内にしかいないのか、と言われればそれは違うらしい。
ごくごく稀にゴブリンやオークといったモンスターが発見されるとのこと。
五百年前にダンジョンからモンスターが溢れた時があったそうだ。
それは伝説となっている勇者と魔王が活躍した時代のことだ。
その時の生き残りが未だに何処かで繁殖して生き残っているらしい。
まあ、ホルホルの森ではモンスターが出たという話はないらしいので安心だ。
村長から話を聞いている間、ティーファは俺の膝の上でグースカと寝ていた。
ティーファはこの時間になるとお昼寝をするのが日課なのだ。
七十日目。
ダイスの出目は四、進む先はまたしても茶色だった。
茶色のマスの効果で五マス先が茶色マスに、十マス先が黒マスに変化した。
最悪なことに両方とも元は青マスだったのだ。
呪いはまだ解けていないのかもしれない。
七十二日目。
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名前 :ティーファ
年齢 :0
性別 :雌
種族 :神鳥
職業 :銀光の神鳥
レベル: 1
<スキル>
【BP】 0
【HP】510
【MP】990
【SP】500
【筋力】15
【器用】12
【敏捷】15
【頑強】20
【魔力】141
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これが今のティーファの実力だ。
いつか来るとは思っていたがこんなに早く来るとは思わなかった。
そうだ、全ての能力が俺以上になってしまったのだ。
親を越えていく子供を見るのは嬉しくもあり、悲しくもある、複雑な心境だ。
やっぱり魔力の伸びがいいのは、擬似天使化をした時の俺の能力が影響しているんだろう。
是非ともスキルで魔法を覚えさせたいところだ。
七十五日目。
この村の領主、ミハエル=マッケイ男爵家の行政官がやって来た。
村長の話によるとこの村で起こった奇跡は既に男爵家に伝えていて、今回は目撃者から聞き取り調査を行うらしい。
村長が言うには領主のミハエル=マッケイ男爵は名君と評判らしく、村に不利益なことにはならないだろうとのことだ。
行政官が村に滞在している間、村はいつもよりピリピリとしていて、俺たちも仕事が終わったらさっさと家に帰った。
行政官は村で行われている感謝祭を見てから帰る予定らしい。
七十七日目
不良三人組にまた絡まれた。
今度は俺とティーファが二人で夕食を終えて帰っていたところ、三人が俺の小屋の前で待ち伏せしていた。
俺を囲んで散々悪口を言った後、小屋を蹴っ飛ばして帰って行った。
ティーファはあいつらが言っていることを理解しているのか、あいつらに向かって行こうとしていた。
そんなティーファを抱きかかえて、なんとか事なきを得た。
気分は最悪だったけどティーファが無事でなによりだ。
七十八日目
昨日、不良三人に絡まれたことを村長とルイスに相談した。
村長とルイスは出来る限りの事はすると言ってくれた。
ティーファに人を襲わないように言いつけた。
俺を守ってくれるのは嬉しいけど……。
俺以上の力があるからには、子供を相手に蹴っ飛ばしたら怪我だけでは済まないかもしれないからな。
ティーファは最近頭も良くなってきて、俺の言葉を正確に理解しているようなので多分守ってくれるはず。
八十日目
一日あたりの獲得していくGPポイントはだんだんと減っていって、今は大体10ポイント程度だ。
多分だけど布教活動を怠っているせいだと思う。
今は168ポイントあるので天界に行くたびにダイスを振れているが、このままだと貯金が無くなっていきそうだ。
そろそろ布教活動を再開しないといけない。
次の感謝祭には行政官も居るらしいから良い機会かもしれない。
ティーファにあげるMPを減らして残りのMPで何かするつもりだ。
今回のダイスの結果は四マス進んで青だった。
久しぶりの青に嬉しく思ったが、次のダイスが憂鬱だ。
一マス先と三マス先は茶色。
五マス先は赤。
六マス先は黒という最低なラインナップだ。
今回の青マスの結果は非常に優秀だった。
俺は湖のほとりに飛ばされた。
空が水面に反射して、まるで空を映し出した鏡のような綺麗な湖だった。
湖のほとりには手の平サイズの羽の生えた妖精が飛んでいて、その妖精からアイテム【精霊湖の水】をもらった。
【精霊湖の水】は、一滴飲むだけでその日一日分の栄養を与えてくれて、空腹感を無くしてくれるらしい。
この世界ではいつでも飢えと戦うことになる可能性があるので凄く助かる。
まあ、二センチくらいの小瓶一つ分なのでどれだけ持つのか分からないが。
これで所持アイテムは二つ目だ。
もう一つは何と、【神鳥の卵の欠片】だ。
試しに<アイテム>に入れようとしたら入ってしまったのだ。
効果はないけどかなりの貴重品らしい。
お金に困ったら売るつもりだ。
八十一日目
ルークとエレナとティーファで並んで歩いていると、村の不良三人組が前から歩いて来た。
俺はまた絡まれるのかと思ったが、あいつらは何も言わずに俺たちの横を通り過ぎていった。
村長とルイスが何か対応してくれたのかもしれない。
明日はいよいよ感謝祭中に第三回、ライチ村布教活動を行う日だ。
俺がMPをあげた後、ティーファには森から一人で村長の家に戻ってもらうことにした。
最近は一人でお使いとかさせているし大丈夫だ。
次の布教で、リンカ王国中にアテナス教が広まってくれたら最高だ。




