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その十


 ――そして、


「そんな!?」


 此処に来て初めて、ルクレツァが驚愕の声を上げる。それが何でか痛快で、ツェルは声に出して笑った。


 寸前まで嘲笑っていた立場の人間が、逆に嘲笑われる――それはどうやらこの魔女にとってこの上ない屈辱だったらしい。


「……許さないわ……よくも、よくも私の邪魔をしてくれたわね!」


 怒りに肩を震わせた魔女が、殺意に満ちた眼差しでツェルを見据えた。同時に彼女の周囲に大量の炎が顕現する。同時にツェルが叫んだ。


「今だ!」


 ツェルの声と同時。突如魔女の周囲に巨大な氷の塊が顕現した。魔女の携えていた炎と激突し、爆散する。同時に大量の高熱源体と極低温の氷が衝突したことにより生じる蒸気に魔女が呑み込まれる。


 迷わず、ツェルはその上記の中に飛び込んだ。一直線に走り、「何が起きたの!」と驚きの声を上げる魔女に向けて、剣を振るう。


 斬――振り抜いた剣が、魔女の杖を握る腕を切り落とす。腕を切られたことにより、ツェルの接近に気づいた魔女が、怒声と共に炎槍を繰り出した。


 飛来する炎の槍の幾つかが、ツェルの身体を貫く。太腿や腕を貫く激痛と炎の熱さに剣が手から零れ落ち、同時に苦悶の声を上げた。ルクレツァが「ざまぁ見ろ」と言わんばかりの笑みを深めたが――それはツェルも同じだ。


 剣の代わりに手に取ったそれを握り締め、魔女へ肉薄する。そして余裕の笑みを浮かべる魔女の胸に向け――全力で突き立てた。


 ぶしゅ……という肉を潰す音と共に、大量の血が零れ落ちる。


 信じられない――と言う風に目を剥く魔女に向け、ツェルは絞り出すような声で言った。


「ロイの仇……討たせてもらう」


 そう言って、ツェルは突き立てたルクレツァの宝杖から手を離した。胸を貫いた杖を伝って、魔女の血が零れ落ち足元に血溜まりを作る。


 自分の胸に突き立てられた杖を見て、ルクレツァは困惑したように目を剥いた。


「どうして……判ったの?」


「お前は、俺が近づいた時に限って、小規模の術しか使っていなかった。不死を自慢するなら、自分ごと相手を焼けばいい。でも、それをしなかった。だから、そうじゃないかと思ったんだ」


 まあ、賭けだったけどな。そう言って見下すツェルの視線を受け、魔女は空笑いを零す。


「やっぱり……貴方は脅威に、なりうるわ。この黄昏を終わらせかねない……だからこそ、殺しておきたかった」


 残念だわ。と、心から口惜しそうに言う魔女は、何もない虚空――黄昏に染まる空を見上げ、一筋に涙を零した。


「……ああ……リヴェレム様。貴方の統治に……栄光あ……れ」


 その言葉を最後に、魔女はゆっくりと瞳を閉じた。そしてそれっきり、魔女が再び目を覚ますことはなく――


「……せめて……安らかに眠れ。魔女ルクレツァ」


 手向けになるとはとても思えないが、それでもツェルはそう口にし、空を仰いだ。



「終わったよ、ロイ……」



 何が終わったのか、と問われれば、きっと何も終わってはいないのだろうけども。


 ツェルの――ツェルヴェルクの中で、これでようやく一つの区切りがついたのかもしれない。


 そう思うと、何処か肩の荷が下りたような、そんな気がした。




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