その七
どれくらい意識を失っていたのだろう。そう考えた次の瞬間に、全身を駆け抜ける激痛に顔を顰める。
同時に暖かい光が全身を包んでいるのが判る。
目を開けると、そこには桜色の髪をした少女が短杖を手にこちらを見下ろしていた。
「気が付きましたか?」そう尋ねてくる少女に、コールはどうにか首を縦に振って肯定する。
そして起き上がろうとしたが、出来なかった。あまりの痛みに再び意識を手放しそうにすらなる。
「まだ動かないでください。火傷が酷いので……」
そう言うヘクトの言葉に従いたいのはやまやまだが、そういうわけにもいかない。気配から察するに、戦いはまだ続いているのだ。
視線だけ動かせば、案の定騎士の青年が魔女と対峙していた。無数の爆炎の中、凄まじい動きでそれらに対処し魔女へと攻撃を仕掛けている。
しかし、剣で切り付けたはずの魔女は、まるで何事もなかったように平然としているのだ。
意識を失う寸前、あの魔女が言っていたことが脳裏を過ぎる。
殺しても死なない存在。
どう足掻いても傷つけることが出来ない相手に、何故ああも只管に? そんな疑問が脳裏を過ぎる。だが、同時になんとなくだが青年の行動に納得してしまう自分がいた。
魔女ルクレツァはかなりの魔術の使い手だ。対抗策を考えるにしても、立ち止まっていては相手の良い的にしかならない。そうなるくらいなら、たとえ無意味であっても攻撃をし続けて探り続けるしかないだろう。
手を貸さなければ――そう思っても身体が言うことを利かなかった。何とも歯がゆい。
暗殺者である自分には、戦う以外の価値などない。戦えない、殺しが出来ない暗殺者など誰からも必要とされない。
だから今はいやでも立ち上がらなければならないのに、それが出来ない。
「くそ……」
小さく、短く、だが様々な想いを込めて、コールは毒づく。
せめて何か……今の自分にできることがあれば――そう思って目を伏せた。その時だ。コールの耳が、此処ではない何処かの声を聞いた。
……どうして火の手一つがねぇんだ!
それが誰の声か、コールには理解できた。果たしてその言葉にどのような意味があるのかまでは判らなかったが、必要であることだけは理解できる。
だからコールは、今自分がするべきことがなんであるかを知った。
痛む身体に鞭を打ち、どうにか手を持ち上げる。その手を声の聞こえてきた方向――ガーゴイルが暴れているほうに向けながら、コールは戸惑いの表情を浮かべる少女に向けて口を開いた。