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その六


 剛、と曲刀を振るい、ようやく表皮が砕けた。だが、それがどれだけ相手にとって痛手なのかガイアスには判らない。


 判るのは、このままこの行為を繰り返していたら、先に潰えるのは自分の方だということだ。すでに剣を振った回数は百と数十回。そうすることでようやくガーゴイルの身体に傷を負わせることが出来たが、そのために費やした労力は途方もない。


 何よりガイアスの得物である大曲刀が、すでに限界が近いのだ。元々ガイアスの膂力と武器そのものの重量で敵を叩き切るための曲刀である故、刃はそこまで重要視されるようなものではないが、それでもその刀身が罅割れてきている。


 このままでは時期に壊れてしまうだろう。そうなってしまえば、もうガイアスにはこの化け物をこの場に留めることも、ましてや戦うなどということもできなくなってしまう。


 ――あのクソ商人(やくたたず)、何してやがる!


 思わず胸中で悪態を吐く。元々そこまで期待していたわけではないが、もし逃げ隠れてしているのだとしたらただではおかない。ぎったんぎっんにした後、魔物の餌にしてやる! と決めた――その矢先。


「うひゃあああああああああああああああああああああああ!」


 と、間抜けな悲鳴と共に何かが近づいてくる気配に、ガイアスは視線を背後に向けた。


 そこには馬に荷車を引かせ、こちらに向かってもう突進してくるローウッドの姿があった。


 思わず目を丸くするガイアスを余所に、ローウッドは涙目になりながら叫ぶ。


「よよよよよよよ避けてくれぇえええええええええええええええ!」


「阿呆か……っ!」


 どうやら馬を走らせたは良い物の、止められないらしいその様子に思わず毒づくガイアスだが、どうやら本当に止まれないらしく、勢いそのままにこちらに向かって来る馬車を前に、慌てて道を開けるように横に飛び退くと、目の前を馬車が凄まじい勢いで突っ切って行き――あろうことか、馬ごとガーゴイルに突撃したのである。


「うぎゃっ!?」


 情けない悲鳴を上げて馬車からはじき出されたローウッドが目の前に転がり落ちてくる。が、そんなことなど気にも留めず、ガイアスはガーゴイルを見据えた。


 ガーゴイルは突撃してきた馬を無造作に薙ぎ払う。馬はその一撃で絶命し、馬車が引き連れていた荷車が破壊され――同時に荷車に積まれていた幾つもの樽が弾け飛んで、その中身が辺りに巻き散らかる。


 ――なんだ、あれ……黒い粉?


 樽から零れた大量の黒い何かを見上げ、ガイアスは尋ねるようにローウッドを見下ろす。ローウッドもガイアスが言おうとしていることが判っているのか、彼が口を開くよりも先に答えを言った。


「あれ、あれ火薬! 火薬や!」


「はぁ? 火薬だぁ……?」


 ローウッドに言われ、改めてガイアスはガーゴイルを見上げる。どうやら弾き飛ばした樽の中身を頭から被ったらしいガーゴイルが身体は、半分以上が黒い粉に塗れていた。


 そしてローウッドは言った。あれは――火薬だと。


 瞬間、ガイアスは弾かれたようにローウッドに問う。



「火は!?」


「持っとらん!」


「阿呆かぁぁああああ!」


 断言したローウッドに怒声を上げた。ローウッドは慌てて頭を振る。


「せやかてしゃーないやろ! あんだけの火薬んのそばで火種持ち歩くなんて、それこそ阿呆やろ!」


「だからって火がなけりゃ、あんなのただの粉だろうが!」


 思い切りローウッドの頭を殴りつけながら、ガイアスは辺りに視線を向けた。魔術師がいればどうにでもある、と思ったが、残念なことにこの辺りにはもう、魔術を使える人間はいない。いた連中はもう全員血の海に代わっている。


「くそがっ! なんでこれだけの状況で、火の手の一つねぇんだ!」


 せっかくどうにかなりそうなのに、肝心のものがなくては意味がない。


 馬車と火薬をひっかぶったことによって怒っているのか、ガーゴイルは先ほどよりも一層派手に得物を振り回して、辺りを手当たり次第に破壊している。


 ――ちぃ、どうすりゃいい!?


 この状況を切り抜ける手段が見つからず、ガイアスは忌々しげに化け物を睨みつけた。





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