その五
腕を切り落とした。だが、すぐに元に戻った。
胸を貫いた。しかしその穴はすぐに塞がった。
幾つもの斬撃を叩き込んでも、傷つけても血の一滴も流さない。
致命傷の数々も、魔女はものともしない様子で受け止めている。
舌打ちと共に再び踏み込み、今度は首を跳ね飛ばした。しかし魔女は平然と笑い、わざわざ自分の手で首を拾って元に戻す。
余裕ぶったその態度で、魔女は嘲笑いながら杖を振るった。猛火が迸り、爆炎が視界を支配する。
それらを《忠義の騎士》で受け流し、《英雄の剣》で斬り消しながら再び肉薄。上段からの切り下し。魔女の頭頂から股下まで一刀の下に両断する。
だが、それでも魔女は死なない。くつくつと嗤いながら、まるで何事もなかったかのように元の姿に戻る。
そして杖を振るい、炎の刃がツェルを襲う。鎌のように振るわれた炎刃を騎士剣で受け止めながら、ツェルは舌打ちを零した。
焦燥が背を駆け抜け、判断力を鈍らせる。
背後に突如生じた爆発に背を打たれた。激痛と熱波に意識を奪われそうになるのを必死に堪えて、魔女を見る。
楽しそうに嗤う魔女の姿に歯ぎしりする。
――くそ。どうすればいい?
焦りが不安を呼び寄せる。
最早何度切り付けたか判らない。なのに、状況は一向に変化しない。それはこの場に限ったことではなく、彼方で繰り広げられている石の化け物の戦いもだ。
打破する方法が見つからない。
一体どうすれば、この魔女を殺せる? ロイシュタットの仇を取れる? この状況を、終わらせることが出来る?
無明の中で迷路を歩かされている気分。問題は、その迷路に出口があるのか否か。
思考しながら、ツェルは動く。止まっていたら、確実に的になるからだ。たとえ殺せなくとも、傷を負わせている間は、この魔女は魔術を使えない。
だから踏込み、切り込む。
ツェルの周囲が炎に彩られるが、それを騎士剣の一閃で吹き飛ばし、前方に跳躍。魔女との距離を詰め、返す刀で剣をもう一薙ぎ。肩口から脇腹へ袈裟に。深々と肉を裂く感触が刃を通してツェルの手に伝わるが、やはり魔女は血の一滴も流さず、にやりと嗤っているだけ。
そう――嗤っているだけで、それ以外なにもしてこない。
瞬間、ツェルは天啓を受けたような感覚を得た。
何故思い到らなかったのだろうと、ほんの少し前までの自分を叱咤する。もう少し早く気付くことだってできただろうにと舌打ちを零しながら、ツェルは思考を巡らせる。
斃す方法は判った。あとは如何にしてその状況に持ち込むかが問題だ。失敗すればその瞬間に詰む。少なくとも二度目を許すような相手ではない。
だからツェルは考える。
考えながら、こちらの考えが悟られないように、今は遮二無二、それこそ莫迦らしく思われるくらい一撃離脱に徹しなければ。