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その四


「どひゃあああああああああああああああああああ! 来るな来るな来るなぁぁ!」


 叫んだところで意思疎通が鳴るような相手でもないのに、ローウッドは必死に絶叫を上げながら背後から追ってくる獣に、懇願するように声を上げる。


 返事の代わりは、敵意を剥き出しにした咆哮だ。吼える獣が牙を剥き出しにローウッドの背後に迫る。


 ローウッドは今まさに飛び掛かってきた獣の牙を横に動いて躱し、その無防備になった獣の横っ面に向けて弩の引金を引く。


 パスンっと射出された矢が獣の頭を射抜き、絶命した獣がすごい勢いで石畳の街路を転がったのを横目に、急いで新しい矢を番える作業に入る。


「もうイヤや! なんでわいがこないな目に合わなならんのや――って、うわわまた来た!」


 と愚痴を零している間に、何処からともなく現れた獣がローウッドを見つけ、まるで餌を与えられたように凄まじい勢いで突進してくる。


「ちょ、ちょっ! 待て待て待て待て待ってくれや!」


 焦ってガチャガチャと手元の弩を操作して矢を装填するローウッドは、涙声ながら獣に静止を訴えるも、当然聞いてもらえるわけもない。獣は四苦八苦するローウッドになどお構いなく疾走し、その喉元に食らいつこうと牙を剥いて飛びかかる。


「ほんま勘弁やわ!」


 だが、同時にローウッドのほうもどうにか矢が装填できた。装填が終わると同時にローウッドは今まさに自分に食らいつこうとしていた獣目掛けて矢を射る。


 放たれた矢が、ローウッドに飛び掛かって来た獣の口の中に吸い込まれ――そのまま背後まで貫通する。腹の中に風穴を開けられた獣は、血を撒き散らしながらローウッドの脇をすり抜けて落下し、そのまま動かなくなる。


 その様子を見て、ようやく災難がさったことを痛感したローウッドは、大きく安堵の吐息を零した。


「なんでわいがこないな目に……いっそこのまま逃げたら……あかんな。もしバレてもうたら確実に()られてまう」


 どう転んでも自分が悲惨な目にあるのが容易に想像できるが故に、ローウッドは投げ出すことも逃げ出すこともできず、結果カルケルの街を走り回って、ガイアスの言うところの『役に立つ物』を探しているのである。だが――


「そないな都合の良い(もん)、こんな辺鄙な街にあるやろか……」


 カルケルは、黄昏領は隔てられた世界だ。外界との交流はなく、贄者というたまに招かれる来訪者以外、外界の情報すら手に入らないような場所である。そんな時代錯誤を地で行くような領土に、あの化け物に対して使えそうな便利な代物があると考える方が難しい。


 よしんばそれがあったとしても、だ。それほど便利な代物ともなれば、この世界(クレヴスクルム)では希少極まりない物だろう。そんな物を自分の手で手に入れられるか怪しい次第なのである。


 どうしたものかと改めて項垂れるローウッドは、ふと何気なく視線を彷徨わせた。いつの間にか、見知らぬ場所にまで来てしまっていたらしく、これは一端何処か知っている場所に向かわなければ――と、そこまで考えた時だった。


 ローウッドの視界が、とあるものを見つける。この辺鄙な土地には不釣り合いな金属の扉を携えた倉庫だ。商人の勘か、あるいは単なる好奇心が働いたのか……何気なくその倉庫へ歩み寄り、そしてふと、その倉庫に張られている張り紙を見て、ローウッドはその糸目を見開いた。


「……まさかあるんか……そんなものが」


 そして視線を倉庫の扉に向ける。幸か不幸か。あるいは神か悪魔の悪戯か。何故か倉庫の扉に微かな隙間を見つけた。開いているらしい。


 これは好機と辺りを警戒し、人の目がないことを確認してからそっと忍び込み、倉庫の中を見回す。


 積み重ねられた無数の木箱に樽の山があった。ローウッドはそのうちの一つ、一番手近にあった樽の蓋を開けて中身を覗き――そして口の端を吊り上げた。





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