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序文
もし、貴方が見知らぬ土地にいたのならば。
もし、貴方が終らぬ黄昏に遭遇したならば。
もし、貴方がその領地に囚われたのならば。
それは、運命の選定に選ばれた証。
それは、彼の英雄に認められた証。
それは、黄昏に踏み込める者の証。
しかして選ばれし者、心するべし。
未だかつて、彼の地より生きて帰れた者はおらず。
未だかつて、彼の地の存在を確かめた者はおらず。
ただただ伝承のみが伝わり、その領土の真実を知る者はいない。
知り得ることはほんのわずか。
かつて英雄の手によって栄え、そして――英雄の手によって、世界から葬られたという、ただそれだけ。
そこは黄昏の領土――クレヴスクルム。
今は失われた、永劫の楽土なり。
『ウィルムッドの詩人口伝集』第十七巻 第二十八章より