今際の瞳
窓のガラスに光が反射した。
敷き詰められた赤い絨毯は綿毛を受け止めるように堕ち逝く王妃を待ち構える。
豪華な調度品、王座、脱ぎ捨てられたマント。細い指が伸びる先は。
「お前までも」
疑心に満ちた王。
わたしのあなた。唯一の方、全てを捧げると決めた我が夫。
髭を蓄えた顔が歪む。だから、名も無きこの人はサファイアの瞳から涙を流す。せめて、名を呼んでくれたなら、あなたの心に憎しみがなかったらわたしは喜んで、あなたからの断罪を受け入れられたのに。
初老の王は威厳を持って自分の国を呪う。
「臣も、民も、我も。何もかも、誰も彼も」
王。王。我が王よ、我らの偉大なる慈悲深い王。
おお、おお、おお、おお、おう、わたしのあなた。わたしの憐れで愛しい夫。
黄金の王冠を頭に乗せ、息苦しい服に身を包み、己の人生を投げ打って民の為に、家族の為に王道を貫いた男は小さな刃を握って己の王国を終焉に導いた。例え、その行動の理由が全てからの裏切りだったとしても。
口から真紅を吐き出し、表情を悲壮に支配される王妃。崩れる膝、天を仰ぐように倒れ行く。雪を模したドレスに赤いシミが付いた。魚が浮上して口を動かすように息が漏れた。
「…ぃ…たっ…い」
なぜ?
王様。
あなた。
私達はあなた様に何をしましたか?
反射する、光が部屋を横切り男の姿が影を纏い浮かび上がる。
澄んだ王妃の瞳にその姿が映る。輝きが無くなった茶色の瞳に、呪いを吐き続ける口、嘗ての英知も栄光も絶望に染まる。
薄れる意識の中で王妃は背中が絨毯の毛の先に付いた時も、王に手を伸ばし続けた。上がった手はそのまま永遠を刻む。
王は泣哭の果に、刃を逆手に握り締めて、喉に突き立てる。
初めての小説なので、可笑しな所だらけですが、読んで下さりありがとうございました。