クラブクラブ
「お前、クラブクラブって知ってるか?」
私が文化祭のしおりを作っているとダイさんがそう切り出した。
「なんですかそれは、部活紹介専門の部活ですか」
「いやいや、漢字で書くとこうだ」
ダイさんが私からペンを奪って書いたのは[蟹部]
「カニ部? どんな部活ですかそれは」
「一年に一度文化祭の日に表れる非公式の部活でな、一つだけ最高のハサミを作るらしい」
最高のハサミとはまた大層な
「もしかしてなんでも切れるとかですか?」
「そのとおり、一回だけなんでも切れるハサミだってさ」
「なんでも、ですか」
「ああ、なんでもだ」
あれだろうか、これで嫌いな人と縁を切りなさいとかそういう怪しい物だろうか。
「一年に一度とは、大学生には手が出せそうも無いですね」
それにしても去年も一昨年もそんな物あっただろうか、見逃していただけか。
「ん? 値段の話か? それは関係ない」
「と、いいますと?」
「最高のハサミを所持する者はクラブクラブの部長が選ぶんだ」
「選ばれた者が貰えると」
「そういう事だ」
なるほど 、見ないわけだ。
「で、先輩なら何を切りますか?」
そうだな、とダイさんは考えて
「勉強の邪魔をするこの煩悩を切り離したいな」
「またまたご冗談を」
「ばれたか、そんな物まで切れるとは思わないさ……てか俺作業の途中だったわ」
じゃあな、とダイさんは作業に戻った。さて、しおりは何処まで進んでいたかな。
しおり作りも終わり私は帰路についた。
『彼女を誘おうじゃないか』と小さいのがしつこく言うが無視をする。
お前は私では無い。
「やーやーやー、珍しい者を連れているね」
いきなり呼ばれて振り向くとそこには変人がいた。
面識が無いのに変人扱いは中々に失礼であるが少し聞いて欲しい。男の外見を。
上を見れば小さなマゲにサンタのような髭。
下を見ればキラキラのベルトに履き古された下駄。
着物を着てサングラスをかけたチグハグな外見だった。
そう、そんな外見の男が話かけてきたのだ。変人と断定してしまっても仕方ないだろう。
変人には関わらないべし。
立ち去ろうとする私を見て変人はまた声を上げる
「お前さんに言っているのだよ、トーヤ君」
「なっ!」
何故私の名前を知っている、何なんだこの男は
「やっと反応してくるたね、トーヤ君」
「貴方は誰ですか」
男は長い髭を撫でて
「ワタシは神に等しい存在だ」
神? 馬鹿馬鹿しい。私は口調を強くする
「誰だと聞いている!」
「名前を名乗るならば欧月模だ」
「はあ?」
うまく聞き取れない
「オウゲツモだ」
「…………」
「それはよいのだ、それよりそれ、面白いね」
変人が指差した先にいたのは
『お、見えるのか』
小さいのである。この変人は小さいのが見えているのである。
「何者……」
「神に等しい存在だ」
変人はぐいっと顔を近づけて私をまじまじと見て。
「ふむふむ、ほうほう、なるほどね」
と言って顔を離した。
「な、何ですか」
「いやいやなんでもないさ、じゃあまた会おうじゃないか」
私が次の言葉を発する前に変人は歩き去っていった。
「な、何なんだ」
『さあ? 神様じゃないかい?』
「信じるのか?」
『ま、それなりにはな』
不思議な小さいのである。
帰宅した私は小さいのに問う
「おい、小さいの」
『なんだ、大きいの』
「そろそろお前の正体を教えてくれないか?」
『私はお前だ』
「それがわからんのだ」
小さいのは溜息をついた
『ハッキリ言うとな、それをお前に気づかせる為に私がいるのだ』
「……さっぱりだ」
『ならばまだ教えられないな』
「ケチ」
『なんとでも言え、私はお前だ』
テレビでは皮肉のように[まちがいの狂言]が流れていた。
翌日、中庭でごろごろとしていると我が想い人がやって来た。
「トウヤさん、そろそろですよ」
「ん、何かあっただろうか」
「実行委員ですよ、もう少しなんですから」
「ああ、そうだったか」
私は起き上がって呟く。
「もうすぐ文化祭か」
そんな小さな呟きに彼女が答えた。
「はい、文化祭です」
「君は二回目だったな」
「はい、それでも楽しみです」
彼女は心底楽しみな様子だった。




