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インコンシステント・ラヴ

インコンシステント・ラヴ-死神-

作者: 波邇夜須

「通称、桃原町の切り裂きジャック――霧立咲愛ね」

あたし一人きりの部屋。

誰も居ない筈のあたしの部屋。

その筈なのに、不意にあたしの背後から、響くは暗い少女の声。

あたしは床に散らばる油性マジックのその一本を手に取ると、素早く背後を振り返る。

そこには、黒のショートヘアーに黒い瞳、その体を纏う黒のドレスはまるで喪服。

全体的な雰囲気から、あたしは黒猫を連想する。

「貴女は、私が殺します」

黒猫の言葉にあたしは身の危険を感じた。

あたしは反射的に手に持った油性マジックを黒猫の顔を狙い横に薙ぎ払う。

顔を庇った黒猫の右腕に、黒いインクが掠た。

その瞬間、黒猫の右腕に切り傷が走り、血が流れ出す。

「――これは」

驚きに眼を見開く黒猫に、私は笑みを浮かべる。

あの黒猫が何者で、どうやって入ってきて、何故あたしの命を狙うのか……それは分らない。

だが――関係無い。この能力がある限り、全て殺す。全て壊す。今まで通り。そして――

「これからも」

感情の昂りから、思わず口に出してしまう。

対して、黒猫の表情に焦りが見えた。

しかし、不意に私の背後からオタマジャクシにも似た奇妙な生物(?)が現れる。

そのオタマジャクシは、私に何をするでも無く、黒猫の方へと跳躍し、その肩に乗る。

「調査完了――見えたわ、貴女のウィークポイント」

ほんの一瞬、オタマジャクシと目を合わせると、黒猫はそう言った。

そして、黒猫はあたしの目の前へと直進してくる。

黒猫が右手に何かを持っている――あれは――ペンだ。

床に散らばるマジックペンとは違う――普通のペン。

気のせいだろうか? あたしはあのペンに見覚えがあった。

黒猫が静かにナイフを構える。

そのペンが記憶の『ソレ』と合致した時、黒猫が何を狙っているのかあたし理解した。

「や、やめ――――やめろぉぉぉおおおおおお」

ペンをあたしの瞳に目掛けて突き出す。

あたしは手に持ったマジックのペン先で黒猫の体に線を引く――

インクの線上をなぞる様に傷が開いていく。

普通の人間なら致命傷だ――あたしの、勝ち……

「!?」

黒猫は歩みを止めない。

黒猫が持ったペンの先は――私の左目を貫いた。

「ぎ――ぎぅぁぁあああああああ!!!???」

左目に走る激痛。

痛い、痛い痛い痛い……痛いッ――!

「貴女は幼少時、左目を事故で怪我をしているわよね。今と同じように“このペンで”――グサリと」

左手でクルクルとペンを回しながら、余裕も達成感もなく、ただ淡々と黒猫は告げる。

「それが貴女の『精神的な弱点』一つ目。そして――――」

いつの間に取りだしたのか――黒猫の手には包丁が握られていた。

と、言うよりは、ペンが何時の間にか包丁に変わったように見えた。

黒猫がスッとあたしに近づく――幽霊を思わせる彼女の動きにあたしは恐怖を感じる。

黒猫はニコッと笑みを浮かべると、あたしの左腕にその包丁を――――突き立てた。

激しい痛みが走る――実際に刺された時とは比べ物にならない痛み。

黒猫の攻撃は、あたしの体に対して攻撃しているのではないと言う事に気付く。

「そして、その左腕の怪我――それが貴女の『犯行が失敗した』という『精神的な弱点』二つ目よ」

意識が朦朧としていく。

肉体が――というよりは、精神が砕け散りそうな感覚。

「それじゃ、これでトドメよ」

動かなくなった霧立咲愛の姿を見ても、何の感慨も沸いて来ない。

「キララ――」

私の言葉に、肩に乗った彼女が頷いた。

彼女は中空でクルリと一回転すると、一人の女性の姿へと変わった。

彼女は、死したばかりの霧立咲愛の体から、魂を引きずり出す。

罪に穢れた醜い魂。

私達と同じ、罪を持った魂。

その魂に彼女は喰らいつくと、苦しそうに貪った。

霧立咲愛の魂を食い尽くすと、思いっきり咳き込みながら、吐き気を訴えた。

呻きながら苦しむ彼女を、私は優しく抱きかかえると、その唇に自らの唇を重ねる。

彼女が落ち着きを取り戻したのを確認すると、唇を離し私は告げた。

「さぁ、次に行くわよ」

彼女は頷くと、口元を濡らす涎を拭い、ラヴの姿へと戻り私の中へと入って行った。

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