5. 四つ目のメッセージ
家の中は、埃一つ落ちていなかった。
ピカピカの床や窓で、小汚い俺の部屋とは雲泥の差だ。
少年の部屋は二階にあるらしく、俺達三人は階段を上った。
俺はキョロキョロとメッセージを探していたが、それらしいものは見当たらない。
少年の部屋に入る。
部屋は、とても綺麗だった。
「少年、何か、メッセージみたいなものに心当たりないか?」
俺が訊くと、
「…………」
無視しやがった。
「ねえ、お名前は?」
塔子が訊くと、
「シゲオ」
と答えた。
どうやら、俺の言葉には応えず、塔子の言葉にのみ反応するようだ。
謎だ。
「シゲオくん、矢印の入ったメッセージを何か、預かってないかな」
また俺が訊いたが、
「…………」
また無視した。さすがに怒るぞ、温厚な俺でも。
「シゲオ、本当に矢印の入ったメッセージ、知らない?」
塔子が訊くと、
「おねえちゃんたちは、何のためにそんなものを探してるの?」
塔子にだけ言葉を返す。どうやら俺は嫌われているようだ。
「……そういえば、どうしてなの? 空乃助」
「俺にもよくわからん。だけど、誰かを助けるためだと思う」
夢の中の女の子……なんて言ったら、変な奴だと思われるかな。
でも、夢の中の女の子は、俺のせいで死ぬらしいのだ。
それを救うために走るのは当然のように思えた。
「……おねえちゃん、僕にも手伝わせて。その、誰かを助けるの」
シゲオは言った。
「どうする? 空乃助」
「……ああ、仕方ないな。連れて行こう」
「……おねえちゃん、僕、矢印みたいなものに一つだけ心当たりがあるんだ」
「本当に? じゃあ、そこに行きましょう」
「うん」
「で、それはどこにあるんだ?」
俺が訊くと、
「…………」
また無視ですか……。
「おねえちゃん、付いてきて」
俺何かシゲオの気に障ることしたっけかなぁ……。
俺たちは、階段を下り、外に出た。
♪ ♪ ♪
アスファルトの上を歩く。
少年を先頭にして、しばらく歩くと、
「ここだよ」
少年が立ち止まったのは、青地に白の矢印が描かれた長方形の看板だった。
「これ、一方通行の看板じゃねえか」
『↑ 自転車を除く』
またしても上を指していた。
何の変哲もない一方通行の看板。というか標識。
本来の意味は「自転車を除く車両は直進のみ可能」という意味だろう。
しかし、本来の意味は関係ない気がした。
矢印の指す先を見てみる。そこにあったのは……赤いアドバルーン。
アドバルーンなんて何年ぶりに見ただろうか。
普段あんな場所にアドバルーンなんてものがあった記憶が無いぞ。
アドバルーンがある場所は、たしか駅前にある百貨店だ。
俺が生まれる前からあるくらいの古いビルで、だいたい何でも売っている。
白い曇り空を背景に、アドバルーンの赤が、よく目立った。
「行ってみましょう!」
塔子が言って、俺たちは歩き出す。
目指すは、駅前百貨店。




