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あふれろ!核☆融☆合  作者: いさな
7/13

☆第7話☆

小金守(こがねもり)~。第86次実験のデータはまとめ終っとるか~」

 深夜2:40。

 メインルームだけに明かりが灯る研究所で、実験を続ける二人。

 狂太郎(きょうたろう)はテンションの低い平坦な声で問いかけた。


「は……、はい…………。今、送りま…す……………」

 眠気も限界の小金守が応える。


 今や核融合実験は佳境も佳境。

 大詰めを迎えている。

 狂太郎は全く睡眠をとらずに実験を続けて12日目。

 小金守はさすがに多少眠っているが、それでも平均睡眠時間3時間の日々が続いていた。


「よし。今回も素晴らしい結果だ……。ふわっ…はっ…はっ…は……」

 さすがの狂太郎も、実験に次ぐ実験の毎日で疲労しているのか、いつもの高笑いにも力がない。


「助手は何をしている?」

量子(りょうこ)さんでしたら……、そちらです……」


 小金守が指さした先のソファーの上で丸くなって眠っている量子。

 彼女は最低でも1日9時間の睡眠時間をとっている。


「ふん。いるならいい……。では、第87次実験の準備についてだ…が……」

 狂太郎は、喋りながら手に持っていたカップから超深入りのコーヒーをすする。

 そして、そのまま時間停止したように動かない。


「…? 幽天橋(ゆうてんばし)さん?」

 小金守が声をかけても不動のままだ。

 その見開かれた強靭な眼光は、一点を見つめたまま微動だにしない。


「どう……、されたんですか?」

 さらに小金守に話しかけられても固まったままの狂太郎。

 規則的な呼吸音だけが静かに聞こえる。

 そのまま数十秒。


「……!!! はっ!!!! 寝てない!!!! 寝てないぞ!!!!!!」

 びくっと動き出し、狂太郎は取り乱す。

 カップが揺れて、コーヒーの雫が舞い散る。


「幽天橋さん、さすがに不眠不休で実験を続けるのは無理があるのでは…? 少しお休みになられてはいかがでしょう? というか、私も眠いので……」

「うむ……。それも…そう、だな……」


 小金守の提案を受けた狂太郎は、ふらふらとした足どりで宿直室に向かう。

 そして、この研究所に来てから初めて、宿直室のベッドにもぐりこんだ。

 狂太郎、遂に眠る。


「ふあ~。よく寝た。今、何時かな? 深夜2:45~。みんな寝てる?」

「ああ、量子さん。お目覚めですか。もちろん、みんな寝てますよ。私もこれから仮眠をとるところです」

「ふーん。ん? あれ? もしかして、狂太郎も寝てる???」

「先ほどお休みになりました。さすがに限界だったようです」

「珍し。狂太郎が寝るなんて」

「そんなに珍しいんですか? 確かに、幽天橋さんはこの研究所に来てから、まともに眠ってはいませんでしたが」

「珍しいよ~。狂太郎、ショートショートスリーパーだし」

「そんな短編小説みたいな」

「いや、この小説も1話ごとのショートショートみたいなものじゃん」

「ちょっと、メタな発言はやめてください」

「ごめんごめん」


 寝起きで意味不明な発言をする量子との会話を切り上げて、小金守も仮眠につく。


「あれ? もしかして、起きてるのあたし一人?」

 誰もいない研究所のメインルーム。

 静寂だけが支配するその部屋。

 量子はソファーから立ち上がり、狂太郎が使っているメインPCを立ち上げる。


「ん。全然わかんないな~」

 そう言いながら、適当に操作する。


「あれ、何か消えた。んー、戻らないな~。まーいっか~」

 不穏な言葉を発した量子は、PCをいじることにあっという間に飽きて、再びソファーに寝転がる。

 そしてそのまま、眠りに落ちていく。


 

 翌朝。

「こ!が!ね!も!り!!!! 第86次実験のデータはどうした!!!!」

 狂太郎の絶叫がこだまする。

「え? 昨夜、送ったはずでは??」

「どこにもないぞ!!!」

「そんなはずは……? では、再送します……。あれ? 私の方のデータも無い……」

「ど~いう、こ~と~だ~!?!?」

「いや……データがですね……、消されてしまったようでして……」


 狂太郎と小金守が騒ぐ中、量子は健やかな寝息を立てていた。


「何て言うことだ……。実験はやり直しか。いや? まてよ……?」

 考え込む狂太郎。


「そうか!!! 小金守! 実験プランを変更するぞ!!!!」

「ええ?!」


「まさか、この幽天橋狂太郎ともあろう者が、勘違いをしていたとは!! 第86次実験の方針転換だ。この重水素の扱いをEパターンに変更すれば、実験手順を大幅に短縮できる!!!」

「これは!!!本当だ!!!なぜ今まで気がつかなかったんだ……!」

「ふわっはっはっはっはっはっはっは!!!! そうと決まれば実験準備だ!!! 小金守!」

「はい!!!」

 天才の中の天才、あらゆる才能を超えた才能をもつ幽天橋狂太郎は、転んでもただでは起きない。

 実験は常温核融合実現に向けて今日も続く。


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