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あふれろ!核☆融☆合  作者: いさな
5/7

☆第5話☆

 私の名は小金守(こがねもり)安人(やすひと)

 国家の威信を賭けた、総理大臣肝入りの事業である核融合発電開発の研究主任だ。


 しかし、開発は難航に次ぐ難航。全く出口の見えないトンネルの中を彷徨っていた。


 正直に言って、最早実現は不可能、私の心は折れ、諦める寸前まで追い詰められていた。


 そんな時、奴が現れた。


 あの、自信満々で、奇矯な声をあげ、異様な存在感を発揮し、全てを知り尽くしたような目をした男。


 幽天橋(ゆうてんばし)狂太郎(きょうたろう)


 奴が来てから、研究はがらりと変わった。


 そもそも、研究方針が変わった。


 奴は、常温での核融合が可能だと宣ったのだ。


 信じられないことだ。常温での核融合は、過去に研究されてはいたが、実現は不可能だということが定説だったからだ。


 それが、なんということだろう。奴のプランに従って実験を繰り返していくうちに、可能なのでは、と思えてくる。


 研究所では、日夜あり得ない実験結果が頻発し、常温核融合も夢ではないないと思えるところまで来ているのだ。


 私は、すっかり奴の手足となり、実験を遂行している。

 奴のあの熱気、驚異的なまでのエネルギー、異様なまでの突破力、超常的なカリスマ性、それは不可能を可能にする圧倒的なパワーとなって、私を含めたすべての研究員を飲み込んで爆走していく。


 今日も、奴の力に吸い込まれるように、私は研究所のメインルームに滑り込んだ。


「おはようございます。小金守主任」

「ああ、おはよう。金崎(かねさき)君」


 金崎君は、この研究所でも最も将来を嘱望される若手研究員だ。

 そんな彼も、今では幽天橋狂太郎の熱狂的な信者の一人だが。

「幽天橋さんはどこだい?」

「幽天橋先生は第3実験棟にて次の実験準備をされています」

「そうか……」


 奴はもう次の実験の準備か。全く、あの男はいつ寝ているんだ。

 24時間、研究所で実験を続けている。家にも帰っていないようだ。


「小金守主任、おはようございます。幽天橋さんが早く実験棟に来るように言っておられました」

「おはよう。伊勢川(いせがわ)君。すぐに行くよ」


 伊勢川君は冷静な分析の能力と、的確なサポートでこの研究所を支えてくれている女性研究員だ。

 奴、幽天橋に対しても、平静に対応できる唯一の研究員と言っていい。

 実に頼りになる。


「おはよ~、こがっち。狂太郎のとこ行くんだったら、アイス買ってきてって言っといてー」

「こがっち……。アイスですね。伝えておきます」


 この女。研究所のソファーに寝ころんで、ゲーム興じているだらしない女、時ヶ峰(ときがみね)量子(りょうこ)は奴の幼なじみらしい。

 すっかりソファーの上を定位置にして、ここに馴染んでいる。


 私が奴のいるという実験棟へ向かうため部屋を出ようとした時、扉が勢いよく開き、奴が入って来た。

「遅いぞ!小金守!!実験を開始するぞ!!!!」

「す、すいません。幽天橋さん」

「準備は出来ている!!!小金守!!!お前はそっちでデータをとれ!!!金崎!!お前はこちらで私を手伝え!」

「はい!!!」

 軍隊ばりの敬礼をして金崎君が奴の所へ走っていく。

 私も自分のPCを立ち上げて、準備をする。


「幽天橋さん。実験内容について確認ですが……」

 伊勢川君が冷静に状況を確認してくれている。


「狂太郎、アイ…」

「ほら、アイスだ」

「お、気がきく」

 量子が言い終わるよりも早く、奴はアイスを渡していた。何と抜かりのない奴だ。


「さて、諸君!!!! これから常温核融合実現に向けた、第23次実験を開始する!!!!!」


 奴の声が響く。

 この声を聞くと不思議と実験が成功するような気がしてくる。


 私は、奴から目を離すことができない。

 奴の持つ謎の魔力に、私も毒されているということか。


 まあいい。このまま常温核融合の実現まで、奴に魅せられ続けるのも悪くない。

 私は奴を真似て、微笑みながら小声でつぶやく。

「ふはっはっはっはっはっはー」


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