☆第10話☆
「第99次実験が終了しました」
「よし!! 小金守、結果はどうだ?」
「はい。これは……、成功、成功です!!」
「ふわっはっはっはっは!!! まあ、当然だがな!!!」
常温核融合実現化への実験もいよいよ大詰め。
自信が漲り、溢れんばかりの才気を輝かせる幽天橋狂太郎は、もはや手足の如く付き従う小金守安人と共に、実験結果を確認する。
「残すところは、第100次実験のみです。もはや核融合は実現したも同然ですね!!」
「こーがーねーもーり!!! 貴様はそんなことを言っているから二流なのだ!!! いいか!!!! 実験とは常に成すか成さぬかの一本勝負!!!! やる前から実現したも同然などと宣っていては、成功するものも成功せん!!!! 気を引き締めろ!!!!!!」
「はい!!!!!! 申し訳ありません!!!!」
「よし。伊勢川、第100次実験の準備はどうだ?」
「実験準備は、22時16分現在、95.3%まで完了しています。残りの準備におよそ78分25秒を要する予定ですが、本日中に実験を実行いたしますか?」
「そうか。今日は遅くなったな。よし!!! 明日の朝イチで第100次となる最終実験を実行する!!!! 今日はこれで全員休め」
「了解しました。お疲れ様です」
遂に最終実験が目前となり、研究員たちはそわそわとした気分で帰宅の途につく。
ばらばらと皆が出て行く中、研究所のメインルームの中央に仁王立ちし、モニター画面を凝視している狂太郎。彼だけは微動だにせず、他の者が去っていくのを待っていた。
研究員が去り、狂太郎だけが立つ広い室内。後方の扉がゆっくりと開く。
「来たか。待っていたぞ」
怪しく光る妖刀、「奇琉丸」を携えた金髪の女。加米利也国国務省特殊部隊のキャリー・ターナーが狂太郎の後ろから刀を振り上げる。
「覚悟!」
言うよりも早く、キャリーは「奇琉丸」を振りぬいた。
電光石火。
刀は空を切る。
半身で躱す狂太郎。振り返りざまに拳を放つ。
身を屈め、紙一重で躱すキャリー。
狂太郎は後ろに飛び距離をとる。
キャリーはさらに低い姿勢で刀を構え、獲物を狙う豹の如く狂太郎を睨む。
「ふふっ。やるな、幽天橋狂太郎」
「貴様こそ。異国のお嬢さん。なかなか業物だな、その刀」
ニヤリと笑う狂太郎。
瞬きもせずに見つめるキャリー。
「短地足!」
叫ぶとキャリーは瞬間移動とも思えるほどの速さで距離を詰め、狂太郎に向けて切りかかる。
その斬撃に対し、狂太郎は風に舞い散る木の葉の如く身を躱す。
「その動き、流葉拳か?!」
「いやいや、我流だよ」
「戯言を!!」
振りぬいた刃を切り返し、狂太郎の体躯を両断するべく刀を振り上げるキャリー。
しかし、刀が捉えたのは狂太郎の白衣のみ。
「何!!!」
狂太郎はどこだ? とキャリーが思った瞬間、右わき腹に重い衝撃を受ける。
その衝撃は、キャリーの内臓をグラリと揺らし、さらには脳髄までかき混ぜるように突き抜けた。
「ぐっっっ……はっあっっっああああーーーー!!!!!」
うずくまるキャリー。
「捻動掌だ。立てまい。異国のお嬢さん」
「……常陸神国……、貂家に伝わる、秘伝武術、皇千流……か? まさか……、科学者風情が……?」
「これは!? よくご存じで! そこまで知っているのなら、お前の身体が今どうなっているかも解るだろう。内臓と、小脳をちょいと捻じ曲げている。ふふっ、しばらくはじっとしていることだ」
「ふざけやがって……」
「おっと。無理すると血を吐くぜ」
「くっっ……!」
身動きのとれないキャリーの手から、刀を取り上げる狂太郎。
「おおっと。奇琉丸じゃないの。これは素晴らしい。今日はこいつに免じて赦してやる」
「ぐっはっっっ!!!」
キャリーは、その場に吐血し、転がるようにして逃げて行った。
「何という、何という屈辱……!!! この借りは、必ず、必ず返してもらうからな……!!!」
人気の途絶えた闇夜の道を、血まみれで這いずり復讐を誓うキャリー。
そんな彼女の前に、ベレー帽をかぶる大男が立ちはだかった。
「ターナー君、なんて体たらくだ。君にはもう期待しない」
どす黒く低い声でそう言い放つ男。
「た、隊長!! 私は、私はまだやれます!!!」
懇願するキャリーを見下ろし、さらに頭を踏みつけながら男は言う。
「私が仕事の見本を見せてやる」
男はゆっくりと研究所に向けて歩き出す。




