☆第1話☆
「ついに、ついに、わかったぞ!助手!!」
「あたし、助手じゃないけど、何がわかったの?狂太郎?」
「この幽天橋狂太郎が、科学の真理にたどり着いたのだ!!!」
「はいはい」
「核融合だよ、核融合!時代は核融合だ!」
「核融合~?」
「そう!それも常温!常温核融合だ!!!私は、世界でただ一人、その方法にたどり着いた!!」
「へー」
「真面目に聞け!助手!」
「だから、あたしは助手じゃないって。量子って名前があるんです」
「よし量子!私は今からこの世紀の大発見、世界を変える大発明、人類を救う大転換を、しかるべき者に伝え、実現せねばならん!ついて来い!!」
「ええ~、めんど」
「うるさい!!!」
その男、幽天橋狂太郎は研究室を出る。助手ではない幼馴染の時ヶ峰量子を連れて。
目指すは、永田町。
「総理、総理!」
「何だ、騒々しい」
「怪しい男が総理に面会を求めております。何でも、自分は常温核融合を完成させたと」
「核融合だと…!ふん!追い返せ!」
その人、この常陸神国において初の女性総理となった佐々道皐月は、榊原良子の様な声で秘書官に言った。
「しかし、我が国の核融合発電の実現に向けた開発は難航しており、今は猫の手でもサルの知恵でも、借りられるものは借りたい状況でございまして…」
「おまえは、何を言っている!サルの知恵を借りて核融合発電ができるか!」
「おっしゃる通りでございます。総理。とはいえ、現状の打開策といたしましては…」
皐月は苦々しく秘書官を睨みつけた。
確かに、公約として掲げた核融合発電の実用化には、まだ至っていない。いや、それどころか、多額の研究費をつぎ込んだにも関わらず、全く実現の目途も立っていない。
このままではその開発は失敗、血税を無駄にした暗君とののしられ、次の選挙での大敗は目に見えている。
そんな皐月に一発逆転を与えるかもしれない超技術、それこそ「常温核融合」だ。
だが、そんなどこの馬の骨とも分らん奴に実現できる技術ではないのだ。
「総理はここか」
「貴様、どうやって官邸に侵入した!警備員、こいつをつまみ出せ!」
「警備員なら休憩中だぜ。秘書官さんよ。さて、総理。俺の名は幽天橋狂太郎。世界で初めて、常温核融合を完成させる男だ」
「ちょっと狂太郎。もう帰ろうよ」
「うるさい量子!ここからがいいところだ!」
190センチの長身に、白衣をまとった狂太郎は、堂々と総理の前に立つ。
「ふん!貴様の様な輩が常温核融合を完成できるだと。馬鹿も休み休みに言え!そもそも通常の核融合ですら難航しておるのだ。それが常温など、不可能だ!!」
「ふわっはっはっはっはっは!!!!これだから科学を知らぬ政治家は!!この!幽天橋狂太郎に!!不可能など!!!ない!!!!!!」
大見得を切る狂太郎。
「はすかしいな~もう」
量子はため息をつく。
「そこまで言うならば、核融合発電開発チームと連絡をつけてやろうではないか。筑波の研究所に行き、小金守研究主任に会ってこい。どうせお前など、何の役にも立たないだろうがな」
皐月は一枚の名刺を差し出す。
〈核融合発電開発主任 小金守安人〉
肩書と名前、そしてQRコードだけが書かれている。
「いいだろう。筑波に行ってやる。ふふっ、貴様はいずれ、私に泣いて感謝することになる!!」
「もう、狂太郎、早く帰ろうよ~」
「ふわっはっはっはっはっは!!!」
高笑いの後、茫然とする秘書官と、不敵な笑みを浮かべる皐月を残して、狂太郎と量子は去っていった。
これが、人類には不可能と言われた常温核融合を成し遂げ、世界のエネルギーに革命を起こす不世出の大天才、幽天橋狂太郎の第一歩であった。




