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8話 その名はフェリス

 

「まずはどこから来たのか教えてくれ。」


 クロイがメモを取りながらトーマに尋ねる。


「信じる、難しいかもしれない。俺は違う場所から来た。」


「違う場所?他の国からという事か?」


「違う。...この星の名前は?」


「この星はフォーシアだ。何故そんな当たり前の事を聞くんだ?」


 どうやら地球の並行世界であるこの世界は、フォーシアというらしい。


「フォーシア...俺は別のフォーシアから来た。」


「お前まさか、異世界人か!?」


「そう。異世界人。」


 異世界という言葉がクロイから出るあたり、どうやら地球からの旅人はトーマだけではないらしい。


 過去に転移してきた異世界人の痕跡を探る事を新たなる目標のひとつに決め、逸れかけた思考を戻す。


「俄には信じられないな。最後に異世界人が確認されたのは、確か15年程前だった筈だ。」


(ほうほう、15年前と。であればその人物が残した痕跡は何かしらある筈だな。)


「俺も直接見た訳ではないが、最初から言葉は喋れていたみたいだぞ。本当に異世界人なのか?」


(ちょっと待て、じゃあ俺だけ異世界言語翻訳スキルが無いって事か。誰が転移させたのか知らんが、不公平だと訴えてやる。)


「その異世界人だ。名前はトーマ・スズキと言う。」


「確かに聞き慣れない名前ではあるが...」


 そこにマニスから横槍が入る。


「ここじゃトーマの言ってることが本当かどうかは分からん。一度ファネに連れて行って確認すればいいじゃないか。」


「確かにな...まぁそれは後回しにして質問を続けるぞ。」


「わかった。」


 そして、クロイから次々と飛んでくる質問。


 他に仲間はいるのか。


 どこに転移したのか。


 どうやってここに辿り着いたのか。


 この世界の事をどれだけ知っているのか。


 他にも沢山の事を聞かれた。


 それに答えながらも、ARIAのおかげでトーマの言語能力は飛躍的に向上していった。


『現段階で、ネイティブスピーカーとほぼ同じレベルで意思の疎通が出来る事を確認しました。後は敬語などの複雑な表現や、専門用語などを学習すれば完璧です。但し脳への負担を考慮して、そういった表現は改めて定着させる事にします。』


(確かに、少しだけボーっとしてきた。助かるよ。)


 そしてレグルはただ黙って、眠そうに立っている。


(仕事しろよ!)




「成程な、お前の状況は大方把握した。やはりファネで改めて問う事になりそうだ。」


「そうか、仕方ないな。ファネまではクロイが連れてってくれるのか?」


「いや...」


 そう口ごもりながら、視線を四人めの兵士に向ける。


 相変わらず部屋の奥で寝ているサボり魔だ。


「あいつに任せる。」


「あいつで大丈夫か?まともに仕事するとは思えないが...」


 どうやらマニスからの評価は低いようだ。


「彼に何か問題があるのか?」


 トーマの問いにクロイが答える。


「彼女、だ。あいつは元冒険者なんだが、色々あったみたいで冒険者をリタイアして兵士になったんだ。ただ人付き合いが悪いし口も悪い。正直言って俺たちも頭を悩ませてる。」


(女なのか...どおりでクロイ達に比べて華奢に見えるわけだ。)


「ただ腕っぷしはめっぽう強くてな。まだ若いのにファネの街でもあいつに勝てる奴は殆どいないくらいだ。」


「なら護衛としては最適だな。」


「ところでお前、やたら喋りが上手くなってないか?どういうカラクリだ?」


「ははは。まぁ、異世界人の能力、とだけ。」


「そうか。深くは詮索しないでおこう。」


 そう言うと、クロイの取り調べは終わったようで、寝ている女兵士に声をかける。


「おいフェリス、起きろ。」


「...まだ眠い。寝る。」


(ずいぶんとワガママなお嬢さんみたいだな。)


「いいから起きろ!お前にはこの男をファネまで護衛してもらう。」


「めんどくさいなぁ...レグルが行けば?」


 そう言って彼女、フェリスは寝返りを打つ。


 まだ起きるつもりは無いようだ。


「そうか、仕方ないな。護衛任務の後はファネで一週間ほど休暇をやろうと思ったが、レグルに行かせるか。」


「待った、一週間の休暇ってマジ?」


 休暇と聞くなり、フェリスが上体を起こしてこちらを見る。


 少しウェーブのかかった黒髪のエアリーボブ。


 頭上にはピクピク動く黒い猫耳。


 美人と言うよりは可愛いと評される整った顔立ち。


 少しタレ目たが、意思の強そうな青色のネコ科の目。


 早い話、トーマのストライクゾーンど真ん中である。性格以外は。


「ああ、護衛任務は危険が付きものだからな。各班リーダーの権限で休暇を与える事が出来る。」


「...行く。」


 現金なものである。


「なぁ、ところでファネの街はみんな猫獣人なのか?」


 トーマはどうしても気になっていた事を聞く。


 猫獣人だけの街ならパラダイスだな、などと思いながら。


「ん?ああ違うぞ。ファネに限らずガリアークは多種族共生国家だからな、色んな種族が暮らしている。勿論トーマのようなヒューマンもいるぞ。」


「猫獣人は兵士に多いって事か?」


「まぁそうだな。俺たち猫獣人族は夜目が効くし、身体能力が高いから警備任務にはもってこいの人材ってわけだ。」


「そうなのか...最初に出会ったのがクロイ達で良かったよ。」


「ははは、おだてても何も出ないぞ。まぁ短い時間ではあるが、お前が危険な人物じゃないことは分かった。ファネまではフェリスが責任持って送るから、安心してくれ。」


「フェリス、ちゃんと仕事しろよ。」


「レグルの癖にうるさい。」


「お前なぁ。仮にも俺は先輩だぞ。」


「はいはいわかりましたよ先輩。」


 どうやらレグルはフェリスに舐められているらしい。


 憎まれ口を叩きながらフェリスが起き上がり、音もなくトーマの前に立つ。


 その軽快な身のこなしは、さながら忍者のようだ。


 クロイ達よりも身長は更に低く、145cmほどだろうか。


 180cm程あるトーマから見たら、視界に入るかも怪しいレベルだ。


 しかし両手を腰に当てて彼を見上げる態度は、誰よりも大きい。


「で、あんた誰?」


「トーマだ。宜しくな、フェリス。」


 自己紹介をすると、フェリスは嫌そうな表情を隠しもせず顔を逸らしてボヤく。


「はぁ...休暇がなければこんな奴の護衛なんて...」


(えらい嫌われようだな。何か理由でもあるんだろうか?しかしここは大人な態度で...)


「まぁそう言わずに頼むよ。俺はこの世界の事を全く知らないんだ。」


「確かにあんたみたいなヒョロヒョロ、この辺にはいないわね。」


「フェリス、挨拶はもう十分だろ。さっさと支度して行くんだ。」


 クロイがそう言うと、彼女は嫌々という態度で準備をする。


「すまんな。口は悪いが仕事はきっちりこなすし、根は真面目なんだ。大目にみてやってくれ。」


「はは、気にしてないよ。さっきクロイが言った通り、彼女にも何か思うところがあるんだろうさ。」


 暫くするとフェリスの準備が終わったようで、小さめのショルダーバッグを持っている。


「これはあんたが持って。」


 バックをトーマに押し付け、先に外へ向かう。




「クロイ、マニス、レグル。色々とありがとう。」


「ああ、道中気をつけてな。」


「落ち着いたらまた来てくれ。」


「フェリス、頼んだぞ。」


 駐在所の前で、トーマはクロイ達に別れを告げ、フェリスと共に歩き出す。


 振り返ると、三人はまだ手を振ってこちらを見ている。


(良い奴らだったな。こんな短時間の出会いで別れるのが寂しいと思うなんて。)


 ファーストコンタクトは最悪だったが、今では彼らを友人のように感じている。


(また会おう、異世界で初めての友人たちよ。)


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