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7話 言葉の薄い壁

 

「#@△%⚪︎!」


「◼︎◎※*@△◎%!?」


「@#◎◇!@#◎◇!!」




(どうしてこうなった...)




 現在、警備詰め所と思われる建物の前で、トーマは兵士と思われる者たちに取り囲まれ、全力で威嚇を受けている。


 兵士と判断したのは、彼らの装備する革鎧、槍、額当てが同じだからだ。


 それぞれが構えた槍をトーマに向け、未知の言葉で牽制している。


「くぁwせdrftgyふじこlp!」


(おっと、それは俺にも分かるぞ。)


 こんな危機的た状況にも関わらず、トーマは落ち着いていた。


 それは彼の度胸が卓越しているわけでも、勝てると思っているからというわけでもない。


(猫耳だ...尻尾も生えてる...茶トラ、雉トラ、白猫、異世界バンザイ!)


 トーマを取り囲んでいるのは、身長150cmくらいの三人組で、いずれも猫耳と尻尾を持った、所謂猫獣人だからだ。


 耳と尻尾以外の特徴は、爪が少し鋭く瞳孔が縦に割れている点くらいで、あとは人間と何ら変わりは無さそうだ。


 怒っている猫を見ているような気分になり、少しほんわかとした心境になっているが、相変わらず兵士達は、両手を上げて立ち止まっているトーマを威嚇している。


(でもこのままじゃ埒が開かないな。ARIA、ここでひとつ試してみたい事があるんだけど、ここからは全力で翻訳に徹してくれ。)


『畏まりました。』


(まぁ、モノは試しだ。)


 そう言うと、兵士達を刺激しないようゆっくりと手を下ろし、足元に落ちている石で、地面に謎の模様を描き始めた。


 トーマの突然の行動に兵士達は戸惑いと興味を見せ、彼の行動を見守っている。


 そしてその謎の絵を見た兵士が


「@#&?」


 と呟く。


(それだ!ARIA、今の言葉を俺にも使えるようにしてくれ!)


『畏まりました。大脳左半球のブローカ野とウェルニッケ野にアクセスし、発話を可能にします。』


 すると、まだ意味自体は分からないが、先程の言葉がスムーズに出てくるようになった。


 そしてトーマは未だ戸惑っている兵士達の槍を指差し、「@#&?」と言う。


 すると一人の兵士が「...◼︎⭐︎*。」と呟く。


 それをARIAがすぐに解析し、◼︎⭐︎*は槍、もしくは武器だと関連付ける。


 その様子に兵士達もトーマが危険な人物ではないと思ったのか、槍を下げてトーマの言葉を待つ。


「@#&?」


「@#&?」


「@#&?」


「@#&?」


 色んなものを指差してはそれを意味する言葉を兵士達から引き出し、急速に翻訳を進めていく。


 兵士達も相当暇だったのか、トーマの奇行に付き合ってやる事にしたらしく、彼が指差すたびに律儀に答えている。


(猫は好奇心が強いっていうからな。ここで会ったのが猫獣人で助かった。)


 この手法は言語学者のケネス・L・パイクが提唱したもので、未知の言語話者とコミュニケーションを取るための最初の一手として使われていた。


『しかし何故トーマがこの方法を知っているのですか?長期記憶には言語学を専攻したというログはありませんでしたが。』


「昔テレビでやってたんだよ。アマゾンの原住民と交流するために編み出した方法だって。」


『...その記憶は確かめていませんでした。』


 ほんの少しだけ不貞腐れたようなニュアンスで、ARIAが呟く。




『最低限の会話ができるまでにはデータが集まりました。彼らの言語体系は中国語に代表される孤立語で、単語に語形変化がなく語順によって文法的機能を表すようです。意味が変化しない分、翻訳難易度は低めです。』


 最低限会話が成り立つレベルの学習に成功し、ARIAはその学習結果をトーマの大脳左半球にペーストする。


(ありがとう。早速試してみるよ)


「俺、危険、ない。」


「お前言葉#&喋れる◼︎*◇!?」


 兵士の一人が言葉を返す。


「あなた、名前、知る。」


 茶トラ兵士がそれに言葉を返す。


「俺はマニスだ。」


 それに白猫兵士が続く。


「俺はクロイ。」


(白いのにクロイとはこれ如何に...)


 トーマが失礼な事を考えている間に、雉トラ兵士が名乗る。


「俺はレグル。」


「マニス、クロイ、レグル。俺はトーマだ。」


 お互いに名乗り合うと警戒心が薄れるという、心理学的に言うと「自己開示の反報性」の原理を使い、トーマは兵士達とさらに心理的距離を詰める。


 通じるかどうか分からないが、トーマは右手を差し出し握手を求める。


 すると三人にも意味は通じたようで、それぞれ握手を返してくれた。


(おおお〜!異世界人と握手!鈴木透真史上5本の指に入る衝撃的瞬間だ!)


 そんな事を内心で考えながら、トーマは次の質問に移る。


「俺、迷った。ここはどこ?国?」


 それにクロイが答える。


「ここはガリアーク王国のファネだ。」


「ガリアーク王国。この土地ガリアーク王国?」


「土地?島のことか?この島は全部ガリアーク王国の&※¥だ。」


『&※¥は領地という意味で間違いないかと。』


 国と都市の名前を聞きつつも、言語学習を進めていく。


(ありがとうARIA。めちゃくちゃ助かるよ。)


『過信は禁物です。あくまでも一時的に脳に定着させているだけなので、トーマ自身が反復して学習しなければいずれ忘れてしまいます。』


(Oh…流石に都合良すぎるか...)




「どうやらこちらの言葉は分かるようだな。悪いが⭐︎*$%で話を聞かせてくれ。お前の◎〒◇*はその後で考える。」


「わかった。ついていく。」


 そして兵士達と共に、駐在所へと足を踏み入れる。


 駐在所は京町家のような見た目で、やはり気候条件が同じだと建築文化にも強く影響すると、トーマは静かに驚いていた。


 入口を潜ると土間になっていて、そこに簡素な作りの机と椅子が置いてある。おそらくそこで取り調べを受けるのだろう。


 土間の左右には一段上がった木の床が広がり、畳はないようだが日本情緒たっぷりの造りとなっている。


 そして柱のいくつかには、鋭い何かで削ったような跡が幾つもある。


(絶対爪研いでるだろ。ははは。)


 妙なところで猫獣人の習性を知る。


(ん?もう一人いるのか。)


 部屋の奥で仰向けになって寝ている猫獣人を視界の端に写しながら、トーマは土間の椅子に座る。


 対面にはクロイが椅子に座り、トーマの左右にはマニスとレグルが立っている。


 奥で寝ているもう一人に視線を向けていると、クロイは


「ああ、あいつの事は気にするな。」


 と素っ気なく言い放つ。


 そしてトーマの今後を左右する取り調べが始まる。


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