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47話 テセリの諜報員


 囮作戦を決行する前に、トーマ達は服屋を訪れている。


 この世界の服屋は、オーダーメイドの新品を扱う高級店と、型落ち品や古着などを集めた大衆店があるようだ。


 トーマ達が訪れているのは後者で、季節やジャンル等関係なく、様々な服が所狭しと陳列されている。


(へぇ〜、セカン⚪︎ストリートみたいだな...)


 トーマは日本の古着屋にいるような錯覚を覚える。


「確か白いシャツに茶色のパンツだったよな?暗かったから自信ないけど。」


「え?アタシは亜麻色のシャツに焦茶のパンツに見えたけど。」


 トーマが囮として纏う服装で、意見が割れている。


「猫獣人は夜目が効くからね、フェリスを信じよう。」


 ルシェルは、夜でも見通せる目を持つフェリスを支持した。


「オッケー、じゃあそれでいこう。ちょっと探して来るよ。」


「アタシは別のとこ見てるねー。」



 暫くして、トーマは亜麻色のシャツと焦茶色のパンツを購入した。


「古着なだけあってかなり安かったな。ところでフェリスさん、それは?」


「え?個人的な買い物よ?」


 そう言ってトーマの方を振り向くフェリスは、昨日欲しがっていた和服を身に纏っていた。


 振袖の裾を膝上まで詰めて、動きやすさを重視したような見た目だ。


(コスプレ会場とかでよく見るやつじゃないっすか。でも...)


「やっぱフェリスには和服が似合うな。」


「そぉ?えへへ...」


 トーマの素直な賞賛に、フェリスは黒い尻尾を揺らし、少し照れながら喜んでいる。


「いつもの服とは全然違うけど、確かに似合ってる気がするよ。」


「そう思う?じゃあこれ買おっかなぁ〜。」


 ルシェルもトーマと同じ感想を持ったようで、フェリスは鼻高々といった表情だ。


「ところでさ、囮作戦の成功率が上がるかもしれない方法を思いついたんだが。」


「へぇ、どんな方法だい?」


 トーマの突然の思いつきにルシェルが反応する。


「虹の蛇だよ。バンダナ巻いてたら現地の諜報員からコンタクトがあるって言ってたろ?もしかしたら通り魔についてもなんか情報持ってるかも。」


「あ!そうか!でも彼らは対価として情報を集めてるよね?何の情報を渡したら良いんだろう?」


「ある程度出たとこ勝負になると思うけど、ARIAの事は絶対に知られない方がいい。それ以外なら特に秘匿すべきものは無いかな。」


「え、なんでARIAはダメなの?」


 トーマの言葉に、フェリスが純粋な疑問を投げかけた。


「ARIAはかなり特異な存在だと思う。もしARIAを悪用する方法があったらマズいし、ARIAが狙われるって事はつまり俺が狙われるっていう事だ。怖い。」


「ぶっ!あはは、素直すぎ。」


 ストレートな本音にフェリスが吹き出す。


『たこ焼きソースの製法でも教えますか?』


(それは逆に俺が知りたいです。しかもめちゃくちゃ金になりそう。)




 服屋を出たトーマは、早速エリゴール達から貰ったバンダナを腕に巻いた。


 フェリスは買った服を抱えてニマニマしている。


「適当に歩いてたら良いかな?」


 そう言うと、街の散策がてら諜報員からのコンタクトを待つ。


「お、フェリス。たこ焼きの屋台があ...」


「え、食べたい!ルシェルこれお願い!...すみませーん、たこ焼き8個入りを3つください!」


 トーマが言い終わるよりも早く、フェリスは持ち前の機動力を活かして一瞬で屋台の前に走り、たこ焼きを頼んだ。


「うわ!っとと...」


 抱えていた和服が宙を舞い、ルシェルの前に落ちてくるが、ルシェルはそれを慌てながらもキャッチした。


『トーマがブースト2を使った時よりも速いです。』


(いらないから、その情報。)


「塩とマヨネーズで良いかい?」


「うん!」


「はいよ!ちょっと待っててくれ、すぐに作るから。」


 店主は20歳前後と思われるヒューマンの男で、慣れた手つきで鉄板の上のたこ焼きを素早くひっくり返している。


「美味しそう...」


 フェリスはその様子を穴が開きそうなほど見つめ、今か今かと完成を待っている。


 その間、トーマは店主から情報収集をする。


「店主さん、この辺でも通り魔の事件ってあったりした?」


「ああ、通り魔ねぇ。確か2週間ほど前にこの通りの先で刺されたみたいだよ。物騒だよなぁ...」


「なるほど。被害者はヒューマンの男性?」


「そうそう、お兄さんみたいな背格好の男だったな。夜中だから目撃者はいなかったそうだけど、うちでよくたこ焼きを買ってた人だったんだよ。」


「その人って、何かトラブルを抱えてたりはしてなかった?女関係とか。」


「いや、特にそんな話は聞いてないなぁ。」


(痴情のもつれって線は無い...か?)


「お兄さん達も懸賞金目当てで犯人を追ってるのか?」


「いや、俺達の旅の目的に関連がありそうだから調べてるんだ。まぁ懸賞金は欲しいけど。」


「そうかい。深くは聞かないけど、俺達もこの事件の解決を願ってるから、頑張ってくれよな。」


『トーマ、30m程先から視線を感じます。虹の蛇の諜報員ではないでしょうか?』


(早いな。分かった、その方向に向かってみるよ。)


「お待たせ、8個入りが3つ!全部で銅貨12枚だよ!」


「ありがとう!美味しそ〜。」


 フェリスはご機嫌で支払いを済ませ、トーマとルシェルに1つずつ手渡した。


「ありがとう。たこ焼きって初めて食べるよ。」


「食べた事ないの?人生半分損してるわよ!」


「いや、僕の人生の半分がたこ焼きとは思えないんだけど...」


 ルシェルとフェリスのコントのような掛け合いを聞き流しながら、トーマは店主に挨拶をして視線の方へと向かう。


「情報ありがとう。事件解決に向けて頑張ってみるよ。」


「ああ、頼んだ!また来てくれよな!」



「うん、やっぱたこ焼きは美味いな。」


 トーマ達はたこ焼きを食べながら、視線のする方へと向かっている。


「おいひいへ〜。ひょっとあふいはわはまはないほ...」


「こら、食べながら喋らない。」


「わはっは〜。」


「確かに美味しい...正直みくびっていたよ。」


「粉もんは大阪のソウルフードだぞ。覚えておくように。」


 ルシェルもたこ焼きの魅力にしっかりと魅了されたようだ。


「おおさか?トーマの元いた世界の話かい?」


「ああ、場所的にはトロングルあたりになる。」


「トーマのいた世界と地形が一緒なの?」


 今まで地球の事について深く考えてなかったフェリスだが、大阪の話を聞いて興味を持ったようだ。


「そう言えば言ってなかったか?フォーシアは俺のいた地球という世界の並行世界だと思うんだ。どこかの時間軸で枝分かれして、別の進化を遂げたんじゃないかな?」


「へぇ〜、そんな事が起こり得るんだね。どちらかが未来の世界っていう可能性は無いの?」


「お、その概念はフォーシアでもあるんだな。」


「突然姿を消した人が、数十年後に当時と同じ姿で現れたなんて逸話もあるくらいだからね。」


「神隠しってやつか。確かにその可能性はあるけど、何が正しいかなんて確かめようもないからな。何となく並行世界なんじゃないかって思ってる程度の話だよ。実はよく似ただけの全然違う星かも知れないしな。」


 その時、トーマの背後から声がかかる。


「へぇ、あんたは異世界人なのか。地球って事はここの領主と同郷だな。」


 その言葉にフェリスは腰のナイフに手を添え、たこ焼きを口に含んだまま何とも締まらない状態で警戒体勢に入った。


「おっと、刺さないでくれよ。俺は虹の蛇の諜報員だ。」


 男は両手を上げ、無抵抗をアピールしている。


(聞かれてたか...ミスったな。)


『すみません、彼の気配を認識出来ませんでした。』


(て事は結構な手練れなわけだ。)


 トーマの表情が少し強張る。


「しかし流石だな。俺の視線に気づいてこっちに向かってきたんだろ?」


「ああ、そうだ。聞きたい事があったんでな。」


 トーマは男にそう返す。


 諜報員の男はこれといった特徴も無い細身のヒューマンで、人の良さそうな笑顔を浮かべている。


 スキンヘッドのエリゴールやカサンドラと違い、髪の毛をコームオーバーにしているが、左耳の上に蛇のタトゥーが入っているあたり、どうやら本物の諜報員らしい。


「大方予想はついてる。通り魔についてだろ?」


「流石諜報員だな。俺達は通り魔が"あの方"の影響を受けてるのか知りたいんだ。」


 トーマがそう言うと、男の視線が鋭くなる。


「...分かった。じゃあ早速情報交換といこうか。」


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