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43話 洗脳の正体

 

「おお〜、なんか京都っぽい!」


『建物の外観はそうでもないですが、区画整理が京都の印象ですね。』


 トーマ達はテセリの門を潜り、街の中へ入った。


 テセリは碁盤目のように整然と区画され、東西南北へ等間隔に道が伸びていた。



 建物自体は和風や洋風など雑多な様相を呈しているが、通りを走る人力車や、和服のようなものを着ている人など、どことなく京都を感じさせるような雰囲気がある。


「ねぇトーマ!あれ何?馬じゃなくて人が引いてる!」


 フェリスが無邪気に人力車を指差し、興奮している。


「あれは人力車だな。こっちではどう呼ぶか知らないけど、俺のいた世界だと百年以上前の移動手段として使われてた筈だ。今は観光名物として残ってる。」


「へぇ〜面白いね。どんなメリットがあるんだろう?」


 一方ルシェルは人力車の存在意義が気になっているようだ。


「確か馬車よりも小回りが効いて安全性が高く、馬が必要ないから運用コストが安かった筈だ。長距離には向いてないけどな。」


「なるほど...理に適ってるんだね。」


「あとテセリの街はどうやら迷いやすいみたいだから、道案内としても機能してるのかもな。」


「確かにどこも同じような道ばかりだもんね。」


「あの服も可愛いね!1枚の布でできてるのかな?」


 フェリスの興味は馬車から、通行人の着ている和服のようなものに移っていた。


「あれは和服...だろうな。ちょっと仕様が違うみたいだけど、あれも昔からの伝統衣装だな。」


「へぇ〜、1着買っておこうかな。似合うと思う?」


 フェリスがキラキラした眼差しでトーマに問う。


(黒髪ちみっ子には抜群に似合うだろうな...)


「黒髪ちみっ子には抜群に似合うだろうな...」


『トーマ、心の声がそのまま漏れてます。』


「あっ...」


「ちみっ子って言うなー!」


 フェリスの口調は怒っているが、表情は満更でもなさそうだ。


「ごめんごめん、心の声がそのまま漏れてた。いや、普通に似合うと思うぞ。フェリスの和服姿を見てみたいな。」


「そお?じゃあ買ってみる!えへへ...」


 フェリスは嬉しそうにニマニマしながら、馬車の外を眺める。


「なんかすっかり和やかな雰囲気だけど、ここが敵地なのは忘れないで欲しいね。」


「ええ、勿論分かってるわ。」


 ルシェルの冷静なツッコミにフェリスが突っかかるかと思われたが、機嫌が良いのか至って普通の返しをした。


(フェリスってば素直で可愛いじゃないか。これはもう...認めるしか無いよな...)



「あ、そう言えば採取した血はどうするんだい?」


「ああ、それについては俺は全然分からん。だからARIAに全部ぶん投げる予定だ。」


「自信満々に言う事じゃないよね?」


「ARIA可哀想。」


『はい、私可哀想です。』


 全員がトーマに非難めいた視線を投げかける。


「だってしょうがないだろ...俺はARIAがいないとただの28歳好青年でしかないからな。」


「「『好青年?』」」


「そこは流すとこな!でもひとつの可能性として、洗脳が何らかの医学的な要因によるものかもしれないとも思ってるんだ。それなら血液を調べれば何か分かるんじゃないか、と。」


『早速解析しますか?』


「え、出来るのか?なら是非お願いします。」


 トーマはルシェルから血液の入った瓶を受け取り、眼前にかざす。


『畏まりました。・・・血中に、魔素と結合した特異な構造体を検出しました。』


「特異な構造体?」


『簡単に言えば、ある種の“感情干渉粒子”です。特定の波長にのみ反応して神経活動を同期させる働きを持ちます。』


「感情干渉粒子か……」


『推定ですが、“あの方”が放つ魔素波長に共鳴して、被感染者の感情を上書きしているようです。さらに、その共鳴を助ける魔素結合ドメインは、ウイルス様のシグネチャを宿した宿主内で増幅される構造をとっています。』


「つまり“あの方”の信号に反応するウイルスみたいなものに感染すると、感情をコントロールされるってことか?」


『はい、その理解で差し支えありません。ただし重要なのは、全員が同じ程度に支配されるわけではない点です。血中に共鳴を阻害する逆相因子を持つ者も存在する筈です。そうした個体を見つけられれば、解決の手がかりになります。』


「はは、まさか風邪と戦う事になるなんてな...」


「ねぇトーマ、1人で納得してないで説明してよ。」


 ARIAとの脳内会議に集中していたトーマに痺れを切らしたフェリスが説明を求める。


 ルシェルも御者席からチラチラと様子を伺っている。


「ああ、悪い。端的に言うと、"あの方"に洗脳されてる奴らは、風邪をひいてるような状態って事だ。風邪はウィルスという目に見えない小さな物が引き起こす症状なんだが、それと似たようなメカニズムで対象を洗脳しているらしい。」


「え、風邪ならほっとけば治るじゃん。」


「風邪と全く同じじゃないから、放置して治るかどうかは分からないな。でもワクチン...風邪薬は作れるかもしれない。」


「どうやったら作れるの?」


「洗脳から自力で解脱した人間の血液を調べるとかかな...」


 ルシェルの問いに、トーマは簡潔に答える。


「ていうか馬車の中くらいARIAが喋っても問題なくない?誰も聞いてないし。」


「畏まりました、フェリス。ここからは音声会話に切り替えます。」


「まだこの感覚に慣れないな...つい声の元を探してしまうよ。」


「ルシェル、混乱させてしまい申し訳ありません。因みに音声の発生場所は半径10m程の範囲内で自由に変える事が出来るようです。」


「そうなのか。それより遠い距離は難しいのか?」


「はい。厳密にいうと不可能ではないですが、魔素消費量が極端に大きくなるようなので、トーマへの負担を鑑みてこの範囲に抑えるべきかと。」


 トーマは、魔素の扱いを覚えて以降のARIAの進化速度に驚きを覚えつつも、自分を気遣う彼女の人間らしさに安心感を覚える。


「もしかして血液検査も事前に準備してたのか?」


「はい。いざという時にスムーズに行えるよう、色々と検証していました。」


「はは、流石だな。でも魔素って一体何なんだろうな?」


「私は魔素を一種の生命体のような物だと考えています。使用者の意思を汲み取り、望む結果を引き起こす為に自然法則に干渉する存在だと。」


「超高度に発達したナノマシンだったりしてな。」


「そうですね...科学的に捉えると、強ち間違いではないのかも知れません。」


「実はここは地球の数万年後の世界で、文明は一度滅びたけどナノマシンだけが生き残ったとかだったらロマンあるなぁ。」


「もしそうなら、私達は転移者ではなくタイムトラベラーですね。」


(これが正解なら、もう戻る事は出来ないってことになるけどな...)


「ところでさ、宿はどうする?僕はテセリにはあまり詳しくないから良い宿を知らないんだ。」


「え、じゃあ今どこに向かってるのよ。」


「とりあえずまっすぐ走らせてるだけさ。」


「はぁ〜、やっぱりダメエルフね...」


「むっ、御者である僕に行き先を告げていないのはそっちじゃないか!」


「なら馬車を走らせる前に聞きなさいよ!」


「言わない方にも責任はあるだろう!」


「知らないなら先に言うべきでしょ!見た目だけじゃなくて頭の中まで幼いわけ!?」


「何だと!考え無しのバカ猫には言われたくないね!」


「あ!また猫って言った!」


 突然ヒートアップするこの光景を、旅のイベントの1つと捉える事にしたトーマは、やんわりと2人を諭す。


「まあまあ2人とも落ち着いてくれ。宿は今から探せば良いだろ?聞き込みも兼ねてその辺の人に聞いてみるよ。」


 その言葉にルシェルはフェリスを一瞥し、道の端に馬車を停めた。


「じゃあちょっと聞いてくるから、2人は待っててくれ。」


「退屈だからアタシも行くわ。」


 フェリスはそう言うと、トーマより先に馬車から降りた。


「オッケー。じゃあ悪いけどルシェルはここにいてくれ。」


「分かったよ。」


 肩をすくめて返事をするルシェルと分かれ、2人はテセリの街へと歩き出した。


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