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38話 情報屋

 

「うふふ、可愛いわねぇ〜。食べちゃいたい!」


「あら、ダメよぉ〜。トーマちゃんはあたしと熱い夜を過ごすんだからぁ〜。」


(どうしてこうなった...)


「ねぇトーマちゃん、あたし達のどっちが好き?」


(すみません、選べません...というか選びません。)


 トーマは現在、再び訪れた定食屋で両手に花である。


「あははは!モテモテじゃんトーマ!」


「僕の事はほっといてくれ...」


 腹を抱えて笑うフェリスと、顔を青くして空気に徹するルシェル。


 トーマの両腕を左右からガッチリと捕まえているのは、筋骨隆々でスキンヘッドのヒューマンの男性2人である。


(異世界にもオネエはいるんだな...誰か助けてくれ。)


 2人の左耳の上には、蛇のタトゥーが彫られている。


(ミナが言ってたのはこれか...確かにフェリスは狙われないわな。)


「あ、まだ自己紹介してなかったわねぇ。あたしはエリゴールよ。こっちはカサンドラ。宜しくねぇ。」


 筋肉ではち切れそうなエリゴールと、それに比べて少し細身でクネクネしているカサンドラ。


 どちらも強烈なインパクトがある。


 彼らはトロングルでも有名なオネエ集団"虹色の蛇"の一員である。


「あの〜、そろそろ離していただけると...」


「あらぁ、まだダメよぉ?あたし達情報屋だからトーマちゃんの役に立てるもの〜。」


 トーマ達はこの店で聞き込み調査をしようと、周りの客にそれとなく話しかけて探りを入れていた。


 そしてその光景を遠くの席から見ていたオネエ2人は、あくまでも親切心からトーマに話しかけ、情報提供を申し出たのだ。


 身体をピッタリ密着させながら。


(太ももをさすらないでぇ!)


「それで、トーマちゃんが知りたいのは転移者の情報ってとこかしらぁ?」


 エリゴールの言葉にトーマはピクリと反応する。


「何故それを?」


「だーかーらっ、あたし達情報屋って言ってるでしょ?昨日トーマちゃんがこの店に来てたのも知ってるし、今日魔術師ギルドに行ったのも知ってるわよ?オネエサン達の情報力を甘く見ないで、ねっ!」


 カサンドラの強烈なウインクと共に、トーマにそう説明する。


「す、凄い情報収集能力ですね...」


「何故かあたし達が聞き込みすると、みんな素直に教えてくれるのよねぇ〜。不思議だわぁ。」


(絶対にそのイカつい見た目と強烈なキャラのせいです!)


 口には出せないので、心の中で強く叫んだ。


 フェリスはトーマ達を見飽きたのか食事に集中し、ルシェルは相変わらず景色と同化しようと試みている。


「だからそれを利用して、情報屋をやってるのよ?あたし達虹色の蛇ってね、実はかなり大規模な組織なの。あなたが通ってきたファネにも諜報員が何人も潜伏してるのよ。」


「そこまで知られてるんですね...じゃあ転移者の情報もあるんですか?」


「勿論あるわよ?た・だ・し、情報っていうのは等価交換が基本だから、あたし達もトーマちゃんから情報を貰うわよ?それと、情報は欲しがる者が先に差し出すっていうのがルールよ。」


(そりゃそうだよな...タダより高いものは無いしな。)


「分かりました。どんな情報を提供すれば良いでしょうか?」


「あなたの旅の目的と、トロングルに向かう途中の宿場町で何があったのか、てとこね。あそこには諜報員がいなかったから詳細を知らないのよ〜。」


「...分かりました。個人名を伏せて良いのであればお教えします。」


「流石トーマちゃん、賢いわね。その選択は正解よ。」


「個人の情報はあたし達情報屋にとってかなり重要なものなのよ。それを言わないのは、こういった交渉の場で優位に立つために必要な振る舞いだわ。」


「それに今回あたし達が教えられる情報はそこまで多くないから、個人名まで手に入れたらこっちが貰いすぎね。」


(意外と誠実な人達なんだな...見た目に騙されてたよ。)


『不良が子猫拾うという心理効果ですね。』


(こら、やめなさい。)


「分かりました。俺達の旅の目的は、この世界の住人を無差別に洗脳して回っている"あの方"という人物を止める事です。宿場町での出来事はーー」



「...なるほど、洗脳と人工魔核ねぇ。」


 エリゴールは難しい顔をして考え込んでいる。


「エリちゃん、どうする?」


(エリちゃん...だと?)


「そうねぇ。まぁ教えてあげても良いんじゃない?ドラちゃんに任せるわぁ。」


(ドラちゃん...)


「分かったわ。トーマちゃん、実は今情報屋の間で1番高値で取引されてる情報があるの。それがトーマちゃんの追いかけている人物の事だと思うわ。」


「え、そうなんですか?」


「そうよ?なんせ"あの方"の影響によって色んな方面で問題が出始めてるからぁ。ウッズ商会ファネ支店の副支店長も"あの方"の影響下にあったみたいだし、今あの店は混乱してるわよぉ〜。」


 エリゴールからギルの話が出た事で、トーマの気が引き締まる。


「最初に結論を言うと、あたし達でも"あの方"の正体は掴めてないの。でもその足跡はなんとか追えているわ。」


「それはどの程度まで...」


「そうねぇ、最初に"あの方"が出現したと思われるのは、テセリあたりね。そこで2人の冒険者と、1人の商人を洗脳したみたいだわ。」


「全員の名前までは掴めてないけど、派手に動いていた冒険者1人の情報は掴めたのよ。」


「名前を聞いても良いですか?」


「ん〜、トーマちゃんなら良いか。今後の役に立つかも知れないし。その冒険者の名前はガトーと言うの。」


 カサンドラの言葉に、フェリスの手からスプーンが滑り落ちる。


 そしてワナワナと震えながら問う。


「ガトーって...あのガトー!?間違いないの!?」


「ええ、ファネを拠点に活動してた冒険者のガトーで間違いないわ。その時組んでいたパーティメンバーを皆殺しにしたと聞いてるわ。」


「それはちがっ...ムグ...」


 トーマが咄嗟にフェリスの口を押さえて遮る。


「続きを。」


「あら、何かありそうね...まぁいいわ。ガトーはその後暫く"あの方"と行動してたみたいだけど、今は野盗に身をやつしたそうよ。」


(討伐されたという情報はまだ入ってないのか?)


「それはいつ頃の話でしょうか?」


「大体半年くらい前ねぇ。」


「なるほど...いただける情報はこれくらいですかね?」


「あら、物分かりの良い男は好きよ?」


 エリゴールが暑苦しい笑顔でトーマに情報交換の終了を告げる。


「あの〜...情報交換だけではお金にならないと思うんだけど、どうやって組織を運営してるの?」


 ルシェルが恐る恐る2人に問いかける。


「ルシェルちゃんってばそんなにあたし達の事が気になるの?嬉しいわぁ〜。」


 今度はルシェルがオネエ達の標的に変わる。


 トーマから離れてルシェルにピッタリとくっつき、指でルシェルの胸をなぞりながら答える。


「一方的に情報を欲しがるお金持ちのお客さんが沢山いてね?その人達に情報を売ってるのよ〜。勿論、情報源の不利益にならない範囲でね。」


「わ、分かったから離れてくれ...」


「ルシェルちゃんってば照れちゃって可愛い!あたしと熱い夜を過ごさない?うふふ。」


「ダメよエリちゃん!あたしが先に目をつけてたんだからぁ!」


「はぁ〜。すぐそうやって横取りしようとするんだから。どうかと思うわよ?」


「あ?なんだとこのヤロウ!やるってのか!?」


「おう、かかってこいやコラ!ピーピー泣かせてやるよ!」


(いきなり男性ホルモン全開の喧嘩はやめてぇ〜!)


「ちょっと2人とも落ち着いて!周りの人も心の底から怖がってますって!」


 周囲の客達も凍りつき、エリゴールとカサンドラをまるでドラゴンでも来たかのような視線で見ている。


「あらやだ、みんなごめんなさいねぇ〜。」


「みっともないところを見られちゃったわね。ごめんねぇ?」


 間に挟まれていたルシェルは、青を通り越して白くなった顔で意識を手放している。


『トーマ、2人の話を要約すると、"あの方"は半年ほど前にフォーシアに転移し、ガトーと、恐らくギャボとマイスを洗脳したと思われます。そして暫くガトーと行動を共にし、その後彼を残して別の場所へと向かったようですね。』


(そうだな。この情報はかなりデカいぞ。今後も虹色の蛇とは情報交換をやっていった方が良さそうだ。)


「あの、出来れば今後も有益な情報の交換をしたいんですけど、どうでしょう?」


 その提案にエリゴールが応える。


「勿論良いわよ!これからトーマちゃん達は旅に出るだろうから、現地の諜報員と連絡を取る手段を教えておくわね。ところで...そろそろフェリスちゃんから手を離してあげたら?」


 そう言われ、トーマはずっとフェリスの口を押さえている事を思い出し、慌てて離す。


 フェリスはムッとしたような、どこか嬉しそうな表情でそっぽを向いた。


「それで、あたし達との連絡手段だけど、情報交換したい時にこれを目立つところに着けておけば向こうから接触してくる筈よ。」


 そう言ってカサンドラは蛇のロゴの入ったバンダナをトーマに渡した。


「これのお代は...」


「やぁねぇ!サービスよサービス!トーマちゃん達はあたし達虹色の蛇にとって有益な情報をもたらすお得意様になるだろうから、今後も宜しく、ね!」


 カサンドラの強烈なウインクが再び飛んでくる。


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