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4話 脱出準備完了

NOVEL DAYSとカクヨムでも投稿を開始しました!


昨日の疲れもあり、一度も起きる事なく日の出まで眠り続けたトーマは、陽の光と引き潮の音で目を覚ます。


砂の上に直接寝ていただけだが、過ごしやすい気温もあり、思いの外快適だったようだ。


(雨、降らなくて良かったな...)


そんな事を考えながら徐に起き上がり、今日の行動計画を脳内で素早く立てる。


「おはようARIA。夜通しの警戒ありがとう。何か変わった事は?」


『おはようございます、トーマ。変わった事は特にありません。』


ARIAの報告を聞き、昨日寝る前に、マスターではなくトーマと呼ぶようにした事を思い出し、少しむず痒いような、照れ臭いような気持ちを覚えた。


「そうか。じゃあ今日はイカダ作りと、水と食料の確保をするよ。食料になりそうなものをリストアップしてくれるか?」


『畏まりました。食料は海沿いの岩場にいる笠貝を天日干しするのが最も効率的です。食物繊維も摂取した方が良いので、森の中にあったツワブキも確保しましょう。水については、竹を加工して水筒を作ればある程度の量を確保出来ます。』


「俺の意見と大体同じだな。しかし食物繊維の事までは考えてなかったよ。」


まるでサバイバルの達人のようなARIAの提案に、笑い出しそうになるのを堪えて、トーマは行動を開始する。




まずは天日干しが必要な笠貝の確保から着手する。


笠貝は外部から刺激を受けると、強い力で岩に張り付いてしまうので、素手で獲ることは難しい。


天然の強力な吸盤である。


勿論トーマはそれを理解しているので、黒曜石のナイフを貝殻と岩の隙間に差し込み、素早く剥がす。


それをひたすら繰り返し、2〜3日分の笠貝を集め、内臓を取り出して、足(吸盤の部分)を天日干しする。


朝から何も食べていない事もあり、少しつまみ食い。


(美味い...笠貝系は可食部多いし、サバイバル向きの食材だな。)


やはり食事は心を落ち着ける効果があるのか、トーマの心は少し軽くなっている。


「次は食物繊維だな。ARIA、ツワブキ以外に食用可能な植物って見てないか?野いちごとかオオタニワタリとか。」


『残念ながら発見出来ていません。それにオオタニワタリは九州以南にしか自生してない筈です。』


オオタニワタリとは、暖かい地域に自生しているシダ植物の仲間で、新芽を食べることが出来る。


その食感や味は昆布のようで、トーマの好物でもある。


「いや、それは分かってんだけどさ、よく分からない世界だしもしかしたらって...」


『データベースにないものなら、幾つか発見しています。』


「え、気づかなかったな。どんなやつ?」


『自走する茶色いキノコ。赤い大きな口を持ち、地面から飛び出してくる花。二足歩行の亀などです。』


「マ⚪︎オじゃねーか!!」




森でツワブキを採集し、下ごしらえを終えた頃には、太陽が高い位置にあった。


「結構時間食ったな。まぁツワブキのついでに蔦も大量にゲットできたし、進捗的には悪くないか。」


『今から日暮れまで約7時間あります。一人乗りのカヌーを作る時間は十分に確保できるかと。』


「確かにな。ただ少しだけ凝った構造にするから、もしかしたらギリギリの完成になるかもな。ARIAさん、俺がどんなカヌーを作ろうとしてるか分かるかい?」


不敵に笑いながらARIAに問いかけるも、ARIAはサラッと正解を導く。


『アウトリガーカヌーですね?ハワイなどで昔から使われていた構造で、カヌー本体側面にアームを伸ばし、本体と並行に浮きを付けた状態のものです。直進性と安定性が増し、転覆しにくくなります。』


「おぉ、やるな。大正解だよ。...もしかして俺の思考って読まれてる?」


内心で冷や汗をかきながらトーマがARIAに問う。


『いえ、トーマの思考を読むことは出来ません。おそらく思考や短期記憶に関わるものはアクセス権限がないと推察します。但し、声に発さず私に呼びかける時などは、その限りではないようです。』


「そうか。ざっくりまとめると、ARIAのデータベースと俺の長期記憶は一部繋がっていて、俺がアクセスを制限してない記憶に関しては覗くことができる。」


『はい、そうなります。』


「俺の思考や短期記憶へのアクセスは基本的に不可能で、脳内で俺から問いかける、つまり一時的にARIAにパスを繋いだ場合のみ、脳内で相互にコミュニケーションを取れる。」


『その解釈で合っています。』


「なるほど、そもそも今の状態がファンタジーなのに、メカニズムはめちゃくちゃ科学的だな。今の段階で他に出来る事ってあるのか?」


内心でちょっと安堵しながらも、この際だからと根掘り葉掘り聞いてみる。


『前頭葉や小脳に一時的にアクセスして、運動能力を飛躍的に向上させることができます。但し身体への負担が大きいので、多用はおすすめしません。』


「戸⚪︎呂弟みたいな感じか。人間は身体を守るために2〜3割程度しか筋力を使わないって聞いた事あるけど、それをリミット解除出来るっていう解釈でOK?」


『おっしゃる通りです。リミッターの解放割合によって、身体へのダメージが異なります。70%まで解放すると、翌日ひどい筋肉痛になります。90%まで解放すると、筋繊維の断裂が始まり、身体中青アザだらけになり、二週間程度は思うように動けません。100%解放すると、身体中の腱が切れて骨が折れ、最悪の場合死に至ります。』


「うわ怖っっわ。頼むからリミッター解除は70%くらいまでにしといて。」


『畏まりました。』


そんな話をしながらも、トーマは淡々とイカダ作りを進めている。


竹の束を蔦で巻いて本体を作り、その横にアウトリガーを組み込んでいく。


途中でARIAに『先端部分の蔦が緩んでいます』『オールはもっと頑丈に作った方が無難です』などとツッコまれながらも、完成に至る。


陽は既に傾きかけていた。


「なんとか完成したな...疲れた。」


『お疲れ様でした。トーマがイカダを作っている間に潮の流れを計算しましたが、途中で流れが早くなる場所を2箇所確認しました。そこを通る時だけリミッター解除する事をお勧めします。』


「そこまで計算してたのか、流石だな。...分かった、ちょっと怖いけどリミッター解除...いや、身体強化を使おう。」


(ちょっと憧れてたんだよな、身体強化ってワード。)


謎の事態に巻き込まれてから初めて、物語は大きく動こうとしていた。


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