間話 歪んだ欲望
馬車に揺られる私とガトー。
ガトーは冒険者で、今は他の街からテセリ、日本でいうところの京都に向かっている途中みたい。
馬車の持ち主はマイスとギャボという2人組。
旅商人であるマイスの護衛をギャボが請け負っているそうで、2人は元々の知り合いらしい。
ガトーはたまたま途中で2人に出会い、護衛する代わりに馬車に乗せてくれるように交渉して、今は4人で移動中。
「なぁ、ガトーが言うにはあんたは転移者だって聞いたんだが、そうなのか?」
ギャボが私に問う。
「ええ、そうなるわ。まだこの世界に来て1時間くらいってとこかしら。」
「そうかい。凄えタイミングで出会ったもんだよ。」
「確かにな。最初に出会ったのが俺で良かったな。野盗なんかに出くわしてたら身ぐるみ剥がされて売られてただろうしな。」
それを聞いて、この世界は危険に満ちていると言う事を自覚して、少し怖くなった。
私が不安そうな顔をしていると、ガトーが私を見て話しかける。
「まぁ心配すんな。何があっても俺が守ってやるからよ...ん?守ってやる?」
ガトーは自分の発言が信じられないかのような難しい表情をしていたけど、自分の中で納得したのか、普段通りに戻った。
これって私の能力が影響してるよね、きっと。
なんだか自分の力が不気味に思えたけど、それ以上に感じたのは
ーー心地良い。
今まで誰にも認めてもらえなかったのに、この世界に来た途端に『守ってやる』なんて言われると思わなかった。
「ありがとう。頼りにしてるわね。」
今までの私なら絶対に言わなかったセリフも、何故か自然に口から滑り出た。
この能力ーー人心掌握スキルとでも呼ぼうかなーーのおかげで、早くも私は変わりはじめていると思う。
今まで持てなかった自信が持てるようになった。
卑屈で内向的で、いつも俯いていた今までの私と、今この場で決別しよう。
「ガトーは普段から1人で行動してるの?」
「いや、俺含め8人でパーティを組んでる。ここ数日は単独で別の依頼を受けててな、今は単独行動中だ。」
「へぇ〜そうなんだ。いつか会ってみたいわね。」
「ハッハッハ!きっと気にいると思うぜ!アホだが気のいい連中ばかりだからな!猫獣人の女なんて俺でも勝てるか分からないくらい腕が立つしな!」
ガトーは誇らしげに、自分の仲間達をそう語ってる。
「ガトーの強さは道中でも見たが尋常じゃなかったぞ?それより強いなんて想像つかねぇなぁ。」
「あいつの強さは別格だ。俺も腕っぷしにゃ自信があるが、あれは天才ってヤツなんだろうなぁ。」
「そうかい、低ランク冒険者の俺には想像できない世界だな。」
「ギャボは堅実な戦い方をするからな、俺は信頼しているぞ。ランクなんて関係ないさ。」
卑屈になるギャボに、マイスがそうフォローする。
なんか心地良いな、この3人の関係。
私もここに混ぜてほしいと、強く願った。
すると突然私の中の人心掌握スキルが膨れ上がった気がした。
身体の中から何かが漏れ出ているような奇妙な感覚を覚えて、無意識に両腕で自分をギュッと抱え込んだ。
身体の中で何かが暴れているような、私の願いが辺りに充満しているような、とても変な感じ。
奇妙な感覚が収まってきたから、ホッとして辺りを見回すと、ガトー、ギャボ、マイスの3人がボーッとした顔で私を見つめていた。
「ナギ、俺が守ってやる。」
ギャボが惚けた顔で唐突にそう言うと、マイスも続く。
「ああ。俺達が、だけどな。」
「いっその事、俺達で新たなパーティを組むってのもアリかもなぁ。...ってマイス!前見ろ前!」
馬の手綱を握っていたマイスまでこっちを見ていたから、馬車が街道から脱線しそうになる。
ガトーの言葉に、慌てて馬車を制御し直したマイスがホッと一息ついた頃には、さっきまでの異様な熱気は霧散されていた。
今のって...スキルが暴走した?
いや、私の願いを叶えようとしたのかな...
正直、怖い...
これはスキルの力であって、私の事を本当の意味で見てくれているんだろうか...
もしこのスキルが無くなった時、私は耐えられるだろうか...
でも3人が真剣な眼差しで私を、私だけを見ていた。
私の声が甘く響いて、全員の心を支配する音楽みたいに広がっていく。
背筋に電流が流れるような快楽を覚える。
今までこんなの味わった事が無かった。
これが、私の力...
ーーじゃあどうする?
ーーそんなの決まってる
ーーもう戻れないくらいに
ーー私に依存させればいい
私はもう木下凪じゃない。
『ナギ』として生きるんだ。
まずはガトーが私だけを見るように、今のパーティから抜けてもらうように誘導しよう。
ギャボとマイスも、私の事を第一に考えるように依存させよう。
ああ、なんだか楽しくなってきたわね。
次はどんな出会いが待ってるかな。
私、今とっても幸せよ?




