間話 その名はナギ
ついに黒幕の登場です!
2話ほど彼女のエピソードにお付き合いください!
ーー誰か、私を見て。
我儘な性格なのは自覚してる。
承認欲求も人一倍強いのだろう。
誰かに認めてもらいたくて一生懸命で、それがいつも空回りして"空気読めない"とか"自己中"とか、みんな私を腫れ物のように扱う。
私にとって、この世界は生きづらい。
お金や権力に媚び諂う人。
上辺だけで関わり合う人。
他人を見下す人。
それが世間の普通なのかも知れない。
でも私には到底受け入れられない。
「木下さん、このデータ今日中にまとめといて。」
「...はい。」
最近では周りとの衝突を恐れて、"はい"以外の返事をした記憶は無い。
「木下さんって愛想ないよね...」
「絶対友達いないでしょ...」
聞こえる距離で嫌味が飛び交っている。
ええ、友達はいないわ。SNSですら私と友達になってくれる人は見つからなかったし。
嫌味を言う暇あるならこのデータ代わりにまとめといてよ。
今日も、私は自分を少しずつ削って生きている。
そろそろ限界かも知れない。
押し付けられた仕事を終わらせると、もう終電に近い時間になった。
帰らなきゃ...
ボーッとする頭を無理矢理働かせて、椅子から立ち上がる。
ふいに、抑え込んできた感情が涙となって溢れてくる。
「私...なんで頑張ってるんだろ...」
一度溢れた感情は、抑えられない。
全て自分で抱え込む事ができないから、諦めはやがて恨みに変わってしまった。
「なんで!なんで誰も認めてくれないのよ!私だって頑張ってるのに!褒めてくれなんて頼んでないじゃない!チヤホヤしてなんて頼んでないじゃない!」
頭を掻きむしりながら、止まらない恨み言に身を任せる。
「誰かーー私を見てよ...」
その時、視界が真っ白に染まった。
突然の事に驚いたけど、多分死んだんだと思って、正直少し安堵してしまった。
だけど、どうやら違うみたい。
「こんにちは。突然の事で戸惑ってると思いますが、あなたは別の世界に転移しました。これは既に実行済みの処理であり、取り消す事は出来ません。」
何処からか、そんな声が聞こえる。
随分と自分勝手な物言いだと思いながらも、私はこの状況を受け入れていた。
「そう...私はこれからどうなるの?」
「あなたはこれから我々の世界である『フォーシア』に送られます。地球のパラレルワールドと言えば分かりやすいかと。」
パラレルワールド...並行世界、か。
「何故、私なの?」
「偶然です。最初からあなたを選んで転移させたのではなく、フォーシアの人間達の集合的無意識が、あなたのような人を求めたのです。」
「私のような人って?」
「無意識なので具体的な説明は難しいのですが、フォーシアに何らかの変革をもたらす人物というのが最も分かりやすいかと思います。」
「私、そんな凄い力なんてないわよ?何処にでもいるただのOLだし...」
「あなたは自分が世界に無視されているという意識がありました。そしてそれを変えたいという望みも。その想いの強さが、あなたが転移の対象となった理由です。」
この声の主は、私の事を見透かしているみたい。
確かに私は不要な存在だと思っていたし、それを変えられたらどんなに良いだろうかと妄想もしていた。
「でも...力がないのは事実でしょ?どうしたらいいの?」
「我々は異世界からの転移者に、望みの力を授ける役割を担っています。あなたの望みは何ですか?」
望み?そんなの誰にも聞かれた事なかったなぁ。
「私は...みんなの中心でありたい。みんなに振り向いて欲しい。・・・私という存在を認めて欲しい。」
「分かりました。あなたの名前を教えてください。」
「木下凪。」
「ではナギ、あなたに望み通りの力を授けます。あなたが人々の中心でいられる能力、他人の意識をあなたへと向ける能力を。」
そう言うと、私の中に何か不思議な感覚が芽生えたのを自覚した。
まだ具体的な使い方は分からないけど、私の中に新たな力として根付いた事だけは分かる。
「ではあなたをフォーシアへと送ります。今までいた場所に相当する座標にしか送れないので、その点はご了承下さい。ナギ、良い旅を。」
「待って。あなたは誰?」
「我々は世界の意思が具現化した存在。人々は我々をこう呼びますーー神と。」
それを最後に、不思議な声は聞こえなくなった。
直後に私の意識は遠くなり、眠りにつくように瞳を閉ざした。
気がつくと、見たことのない場所にいた。
木漏れ日の差す森の中で、近くに川があるのか、水の流れる音が微かに聞こえる。
自称神が言うには、私が元いた場所と同じところに転移したみたいだから、京都に相当する場所なのは間違いないと思う。
でも辺りに文明の跡は見当たらず、不安になる。
まずは川を目指して移動してみよう。もしかしたら誰かいるかも知れない。
森を歩きながら、これからの事について考える。
混乱はしているけど、ただの夢かも知れないし、もし現実だとしても、元の世界に未練なんて無い。
「夢じゃないといいな...」
暫く歩いていると、川に辿り着いた。
地理的に、多分桂川だと思う。
働いていた会社も桂川に近かったし、川の形も何となく似てる。
一度冷静になろうと思って、河川敷の石に腰掛けていると、突然後ろから人の声がする。
「おいおいお嬢さん、こんな所で一人歩きとは感心しねぇな。」
振り返ると、そこにいたのは黒いダスターコートのようなものに身を包んだ男。
身長は180cmくらいで、長い金髪を1つにまとめている。
腰には剣が見える。
異世界モノにはあまり詳しくないけど、冒険者ってやつかな?明らかに一般人とは違う雰囲気を纏ってるし、荒事に慣れてる感じがする。
逃げた方が良いかな、なんて迷ってると、その男は無遠慮に私に近付いてきた。
どうやら攻撃の意思は無さそうで、とりあえずひと安心。
「迷ったのか?このへんにゃ家も無ぇ筈だし、家出か?」
そう言えば、何で言葉が通じるんだろう?
そんな事を考えていると、男が言葉を重ねる。
「聞いてんのか?ったく...ガキのお守りは嫌いなんだよ。」
「ガキじゃないわ、25歳よ。」
「ハッ!嘘つくんじゃねぇよ。どう見ても15.6歳だろ。」
私の言葉に反応した男は、私が成人している事が信じられないらしい。
それはまぁ良いわ。それより...
「気がついたら近くの森にいたんだけど、ここはどこ?フォーシアって名前は聞いたけど。」
「ハッハッハ!フォーシアか!そりゃちょっとばかり範囲が広いな!」
男は私の発言に豪快に笑って、この場所について教えてくれた。
「フォーシアってのはこの星の事だ。んでこの国がガリアーク、この場所はテセリっていう街の近くだ。」
「テセリ...聞いた事無いわね。やっぱりここは異世界なのね。」
その瞬間、男の視線が鋭くなった。
「もしかしてお前、転移者か?」
「そうなるわね。ついさっきこの世界に飛ばされてきたばっかりよ。」
そう言ったところで、彼の様子が少しおかしくなった事に気づいた。
目が虚ろになって、ボーッと私を見ている。
でもすぐに元に戻って、話を続けた。
「なるほどな...どうやら嘘は言ってねぇみたいだな。よし、それなら俺達がお前を安全な所まで送り届けてやるよ。」
「え、良いの?でもお金なんて持ってないわよ?」
「んなこた分かってるよ。だから出世払いだな。ハッハ!」
具体的な効果は分からないけど、彼に私の能力が影響したという事だけは感覚的に分かった。
「じゃあお言葉に甘えるわ、宜しく。あ、私はナギ。あなたは?」
「俺はガトーだ。」




