37話 あの方
「人工魔核について聞いておきたいのはこれくらいですね。色々と貴重なご意見をありがとうございます。」
「いえいえ〜。こう言っては何だけど、製造を未然に防ぐ事は難しいと思うわ。悪い人達って勤勉だから。」
日本でも似たようなセリフがあったなとトーマは思い返す。
「はは、確かにそうですね。これから俺達はこの一連の流れを作り出した"あの方"というヤツについて知る為に旅をする予定です。その人物について心当たりはありませんか?」
「ごめんなさい、知らないわね〜。"あの方"というのはどんな事をしてるの?」
「あくまでも予想でしかないですが、恐らく異世界からの転移者で、自分の都合の良いように他人を無差別に洗脳していると思います。その方法や目的は不明ですが。」
「・・・それなら聞いた事があるわねぇ。神からの啓示を受けた人間を、どこかの領軍が逃しちゃったって。」
(それってケニスから聞いたのと同じじゃないか?)
イザレーアの言葉に、トーマは『あの方=別の転移者』という答えに確信を持つ。
「そうですか...でもこれで色々とハッキリしてきました。ありがとうございます。」
「いえいえ〜。お役に立てて良かったわぁ。」
「じゃあそろそろ行こうか。支部長、また何か分かれば教えてほしい。協力感謝するよ。」
ルシェルの言葉を最後に、トーマ達はイザレーアの自室を後にする。
(ARIA、どう思う?)
『まずイザレーアですが、彼女には底知れない何かを感じました。敵ではなさそうですが、味方でもないと思われます。』
(まぁ確かにな。人工魔核については?)
『彼女の反応等を観測しましたが、概ね事実で間違いないかと思います。但し今回の話で私達に隠している事が無いとは言い切れません。』
(まぁ、こっちに対して害意が無いなら今は良しとしよう。)
「ねぇトーマ、これからどうするの?」
フェリスが今後についてトーマに問う。
「トロングルでの目的は一応達成出来たんだよね?次はテセリにでも向かうのかい?」
ルシェルの言葉に、トーマは暫く考えて答える。
「宿の契約も残ってるし、数日はここに滞在しよう。まだ行ってない場所だらけだしな。」
「じゃあ何日かは観光ね!色々あったから少しはゆっくりしたかったんだ〜。」
尻尾をピンと立ててフェリスが嬉しそうに言う。
「完全な休息じゃないからな。情報収集は引き続きやってくし、長旅を想定した準備も必要だ。」
「じゃあさ、昨日行ったあの店行こうよ!ステーキは食べたけど煮物はまだだし!色んな人がいるから情報も集めやすいんじゃない?」
「フェリス、前半に本音が漏れすぎだ。まぁ確かにあの店だと情報収集しやすいかもな。」
「そうだね。あの店は僕もよく行くし、僕達の目的にはピッタリだよ。」
ルシェルもフェリスに同意する。
「でしょでしょ?そうと決まれば夜まで街を散策ね!」
『この切り替えの早さがフェリスの良いところですね。』
(ああ、そうだな。彼女にはいつも救われてるよ。)
トーマ達はギルドのドアを開けて外に出る。
「うふふ。ルシェル達、大丈夫かしら?」
イザレーアは昏い笑みを浮かべて、ギルドから遠ざかるトーマ達を自室の窓から見ている。
そしてデスクの椅子に座り直し、トーマ達が入室した時と同じように、長い金髪をダラリと流して天を仰ぐ。
「あの子、トーマだったわね。かなり鋭いじゃない。あなたの予想は当たりよ?」
口角を釣り上げ、見る者を不安にさせるような深い笑顔を湛える。
「私は手出ししないわよ?あくまでも中立の観測者だから。でも...きっと近いうちに彼らはあなたと会うことでしょう。」
ーーあなたの力が既に修復不可能なくらいの影響を及ぼしてると知ったら、あの子たちはどうするのかしら。
ーーもっと私に面白いものを見せて頂戴。
ーーねぇ、ナギ。




