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35話 異端の魔術師

 

 ーー僕は、異端者と呼ばれた。



 出身であるエルフの里、ナヴィロスは、数あるエルフの里の中でも特に魔術師が多い。


 エルフというのは基本的に自然との調和を大切にする種族だけど、ナヴィロスだけは少し違う。


 優れた技術力を有していて、ヒューマンや獣人、他のエルフの里に比べ、製造・印刷・農耕・土木などあらゆる点で文明が1歩先に進んでいるんだ。


 そんなナヴィロスが好きだったし、誇りを持っていた。


 でも、1つだけ不思議に思う事があったんだ。


 それは魔法の技術体系が他と全く同じということ。


 魔法以外の技術は発達してるのに、何故これだけ沢山の魔術師がいながら魔法だけは足並みを揃えてるんだろう?


 僕は魔法という不思議な力が大好きで、魔法をより良いものにしたい、魔法を通じて世の中をより良いものにしたいと思ってたから、どうしても納得できなかった。


 だから誰よりも勉強して、誰よりも早く魔法を使えるよう努力したよ。


 癪だけど、この世界の常識を一旦受け入れて魔法を学んだ。


 ある程度の基本をマスターしたら、僕は魔法について人に教えを乞う事をやめた。


 この世界の"普通"に染まりたくないから。


 そして里の技術や知識を総動員して、新たな魔法体系の発見に向けて研究を始めた。


 分かったのは、イメージを明確に持つ事で詠唱の短縮が出来る事くらいだけど。


 10年近く研究して、この程度しか分からない自分の能力の低さを恨んだね。


 それでもこれは僕にとって、世界にとって、大きな一歩だと信じていたんだ。


 勿論多くの人に聞いてもらったさ。


 だって詠唱が短縮出来た方が利便性が上がるからね。


 でも誰1人として耳を貸してはくれなかった。


 それどころか、世界の法則を乱す"異端者"として、里を永久に追放されてしまった。


 多分だけど、里の馬鹿な魔術師達が、自分達の尊厳を守る為に僕を排除したかったんだと思う。


「異端の徒を追放しろ!」


「世界に刃向かう愚か者め!」


「魔法の法則を乱す危険人物だ!」


 後ろ手に縛られて広場に跪かされ、沢山の人から散々糾弾されたよ。


 反論しても、返ってくるのは更なる罵声と暴力、嘲笑と軽蔑だけ。


 腹を殴られたら息ができなくなるのと、小さな石でも当たると結構痛いというのは、良い勉強になったね。


 でもそれよりも痛かったのは、みんなが僕を道端の汚物でも見るかのような冷たい目だった。


 僕の研究はそんなに悪い事なんだろうか?もう分からなくなったよ。


 だから反論するのをやめて、ボロボロの身体を引きずって里を出たんだ。


 愛する故郷に夢も誇りも奪われてしまったけど、それでも、殺されるよりはマシってね。


 ーーだから僕は流浪の身になったんだ、異端者として。




「...でも正直もう諦めていたんだ。僕に魔法を変える力は無いってね。」


 ルシェルの独白を聞き、トーマは自身の過去を振り返る。


「分かるよその気持ち...俺も大切な人に『お前なんていらない』って言われたからな。」


「ふふ、なんで僕よりも君の方が辛そうなんだよ。でも、ありがとう。」


 寂しそうに微笑むルシェルを見て、トーマは決意する。


「決めた、無詠唱魔法に関する全てをルシェルに教えるよ。」


 ルシェルはトーマの突然の決意に驚きつつも、真剣な眼差しで応える。


「ありがとう。宜しくお願いします。」


「それと俺からもお願いがあるんだけど良いか?」


「お願い?何だい?」


「俺達と一緒に旅をしないか?そしたら色々教えられるし、いざという時は助け合えると思うんだよ。」


「...僕は流浪の身だからね、こちらこそ同道をお願いしたい。」


「但し、楽な旅にはならないと思う。俺は魔物化や人工魔核の黒幕を暴くつもりだし、もしかしたらもっと大きな陰謀にも巻き込まれるかも知れない。」


「じゃあ尚更仲間は必要だね。宜しく頼むよ、えーと、師匠?」


「ははは、師匠なんてガラじゃないよ俺は。普通にトーマと呼んでくれ。」


「分かったよ、トーマ。」


「フェリス、起きてくれ。」


 だいぶ序盤から船を漕いでいたフェリスを起こす。


「...んぁ?終わったぁ〜?」


「ああ、これからルシェルも一緒に旅をする事になったんだ。」


「そぅ...なんだ...旅ね...ん?一緒に旅!?」


 やっと意識が覚醒したフェリスに、再度説明するトーマ。


「そうだ。俺達の持つ知識をルシェルに伝える事にしたんだが、一朝一夕で伝え切れるものでもないし、旅の仲間は多い方が安心だろ?」


「それはそうだけど...ARIAはどうなの?」


「今から紹介するところだ。ルシェル、実はもう1人仲間がいるんだが、驚かないで聞いてくれ。ARIA、頼む。」


「はい。初めましてルシェル、私の名はARIAと言います。」


「えっ!?」


 唐突に聞こえた声に、ルシェルは驚きを隠せず辺りをキョロキョロと見回す。


「ARIAはこの世界の言い方に寄せると、精霊みたいなものかな。」


「精霊を使役してるの!?それって聖人なんじゃ...」


「本物の精霊ってわけじゃないんだ。俺が元の世界で開発した"人工知能"っていう疑似生命体みたいなものだったんだけど、どういうわけか自我に芽生えたんだ。で、今は俺の中の住人になってる。」


「そう、なんだ...ARIA、宜しくね。」


「はい、宜しくお願いします。」


 トーマの説明に、ARIAがどういった存在なのかを朧げに把握したルシェルは、無理矢理納得した。


「今は聞きたい事が山ほどあるけど、まずは明日以降どうするかについてだね。僕は特に予定は無いけど。」


「そうだな...魔術師ギルドの支部長には会えたりしないか?」


「多分いけると思うよ。依頼の件もあって僕は直接会いやすい立場にあるからね。」


「なら明日ギルドに行ってみよう。それで支部長の真意を確かめるんだ。」


「分かった、じゃあ僕は自分の宿に戻るよ。明日の朝にここの入口に集合でいいかい?」


「了解。じゃあまた明日だな。」


 ルシェルが部屋を辞し、フェリスと2人になったトーマは、気になっていた事を彼女に問う。


「なぁフェリス、ルシェルと一緒に旅をするのは反対か?」


「反対じゃないけど...なんか嫌かも。」


「嫌なのか。それはどうして?」


「だって...」



 ーートーマと2人の旅が好きなんだもん。



 その言葉を口にせず、フェリスは黙ったまま頬を膨らませてプイと顔を逸らす。


「そんな怒らないでくれ。ルシェルは今まで大変な目に遭ってきたみたいだし、俺とARIAの知識があればそれが報われる筈なんだよ。それに、俺にはルシェルの心の傷が痛いほど理解出来るんだ。」


「心の傷?」


「ああ、詳しくは本人から聞いた方が良いだろうけど、大切な人や場所に見放されるってのは、相当辛いんだよ。フェリスにも分かるんじゃないか?」


 その言葉に、ガトーとの一見を思い出すフェリス。


「そうね...まぁ一緒に旅したいっていうなら、アタシが先輩としてこき使ってやるわ!」


「ははは、あまりいじめてやらないでくれよ。」


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