33話 繋がる糸
ルシェルの背中を見送った2人は、改めて店を探す。
「闇雲に探しても効率悪いよな...よし、作戦を思いついたから聞いてくれ。」
「トーマの考える作戦ってロクなのが無い気がするけど...」
フェリスがジト目でトーマを見る。
「フェリス、それは違います。トーマの作戦自体は素晴らしいものばかりです。ただいつも予想外の結果になるだけです。」
ARIAが微妙なフォローをする。
「ありがとうARIA、余計に凹んだよ。」
「いえ、お役に立てて光栄です。」
「あははは!ARIAもイジワルなとこあるんだね!」
(もうやめて!トーマのHPはゼロよ!)
トーマが内心で嘆く。
「まぁとにかく聞いてくれ。恐らくこの場所は街の入口に近い事もあって、門番が言ってたような人種による区分けのない場所なんだと思う。だから今後の事も考えて、獣人の区画とヒューマンの区画、そのどちらでもない区画を調べよう。」
「でもどうやって調べるの?」
「ミナに聞くのが1番手っ取り早い。そもそも宿を出る前に聞いておくべきだったんだよな。」
「確かにそうね...じゃあ一旦戻ってミナに聞いてみよ!」
「フェリスちゃんはトロングルに来るのが初めてなのね!いいわ、何でも教えてあげる!」
案の定、ミナはノリノリでフェリスに応対している。
「この街って人種差別が激しいでしょ?さっき2人で晩ご飯を食べに行ったら、どの店も断られちゃったの。だから差別のない店とか区画を教えて欲しいのよ。」
「確かにウチみたいな宿とか店は少ないわね。でもフェリスちゃんを追い出すなんて許せない!」
ミナはあらぬ方向に闘志を滾らせている。
「それはもう良いんだ。俺達もトロングルについて勉強不足だったからな。で、差別意識の低い場所ってあるのか?」
「勿論あるわよ。」
そう言うと、カウンターから街の地図を取り出した。
ミナの説明によると、トロングルは1辺4km程のほぼ正方形で、漢字の"田"のように大きく4つのエリアに分けられる。
左上が獣人の区画、左下が商業や産業の区画、右上がヒューマンの区画、右下がその他雑多な区画。
街の中央は貴族街となっていて、一般人は立ち入り出来ない。
トーマ達が通ってきた門は下部中央にあり、そこから上にまっすぐ行くと猫の爪跡亭に辿り着く。
「この右下の区画はまだマシね。街の人は自由地区と呼んでるわ。ただ貧民街もある場所だから、路地裏とかには行っちゃダメだからね。」
トントンと指で地図を指しながら、ミナが説明する。
「まぁ大丈夫でしょ。アタシ強いもん。」
「きゃーフェリスちゃんカッコいい!!」
ミナはフェリスの手を取り、目をキラキラさせている。
「因みにトーマも強いわよ。魔法も使えるし。」
「へーそうなんだ。じゃあ安心ねー。」
(もはや職人芸にすら思えてくるこの対応の差よ...)
「じゃあそこに行ってみるか。」
「ならその辺りをウロついてるヒューマンのスキンヘッドの連中には注意してね。左耳の上あたりに蛇の入れ墨があるからすぐに分かると思う。」
「ヤバい連中なの?」
フェリスの問いに、ミナは真剣な眼差しで答える。
「ヤバいと言えばヤバい...のかな?フェリスちゃんは大丈夫だけど、トーマさんは狙われる可能性があるわね。」
「そうなのか?まぁ気をつけておくよ。」
(同じ場所に同じタトゥーとか、海外のギャングみたいだな。)
「じゃあ行ってくるね!ありがとうミナ!」
「はーい!気をつけてね!」
ミナの説明に従い、トーマ達は自由地区へと足を踏み入れた。
「この辺りは夜でも結構明るいんだな。」
「トロングルの歓楽街って感じね。」
声を上げて客引きをする者、露出度の高い服で妖艶に誘う者、酒の瓶を持ってフラフラと歩く者、ギターのような楽器で弾き語りをする者など、自由地区という名前に相応しい様相だ。
(なんか歌舞伎町を思い出すな...)
『地理的には難波や北新地が近いと思われます。』
(はは、確かにな。てかそんな事まで学習してたのか?)
『いえ、トーマの長期記憶にありました。ドレスを着た女性に挟まれて嬉しそうなトーマの姿も。』
(あれは取引先の接待だから!違うから!)
必死でARIAに弁明していると、どこからか漂ってくる香ばしい香りに誘われ、1軒の飲食店の前に来た。
「肉の焼けるいい匂いだな。フェリス、ここに行ってみないか?ってもう行く気マンマンか。」
フェリスは口を半開きにして、前のめりでフラフラと店の方へ近寄っている。
入店拒否の可能性も念頭に入れ、恐る恐る店のドアを開けるトーマ。
「あのー、ヒューマンと獣人の2人だけど大丈夫?」
近くにいた店員に声をかけると、なんの問題もなく席に通された。
店内は少し高めの椅子と丸テーブルが不規則に配置されていて、自由地区を象徴するような雑多さだ。
周りの客のテーブルには、ステーキかビーフシチューのようなもののどちらかが置かれている。
メニュー表は無いようで、店員が直接注文を聞きに来る。
「今日は牛のステーキか煮込みの2つだよ。どっちも大銅貨2枚ね。」
「じゃあ俺はステーキで。」
「アタシも!ステーキ!」
「飲み物は何にする?エール、ワイン、蒸留酒、水。」
「エールと、フェリスは?」
「ワインちょーだい!」
「はいよ、ちょっと待ってて。」
そう言うと、店員は店の奥に入っていった。
「そういえばフェリスは酒飲めるのか?」
「子供扱いしないでよね!蒸留酒は苦手だけど、ワインは好きよ。トーマはお酒強いの?」
「いや、そこまで強くはないよ。美味しく飲めるのは2〜3杯くらいだな。」
店員が酒を持ってくると、2人は乾杯して料理を待つ。
「そう言えばトロングルでは特に目的も無いよな?」
「そうね、強いて言うなら魔術師ギルドの調査くらいかな?」
「そうか、それがあったな。でもよく考えたらさ、ハーマンが人工魔核は魔道具の出力を上げるために開発したって言ってたよな?」
「あ〜そんな事言ってたかも...」
「じゃあどのタイミングで人工魔核を飲み込んだら魔物化するって分かったんだろ?」
「あっ...そう言われたら確かに...」
「そうなるとハーマンが嘘を吐いてるのか、それとも別の人間の協力があったのか...ん〜分からん。」
「それは僕が依頼を受けて実験したから分かったんだ。」
トーマが頭を悩ませていると、突然背後から声がかかる。
「あ、ルシェル。なんでここにいるんだ?」
「やあ。人工魔核の話が聞こえたから声をかけさせてもらったんだよ。ここにいるのは、この店が僕の行きつけだからさ。」
そこに居たのは、さっき店から追い出されていたエルフのルシェルだ。
「そうなのか...て言うかルシェルがあれの実験をしてたのか!?誰からの依頼だ?」
「魔術師ギルドからだよ。具体的には、トロングル支部長の依頼だね。」
その言葉に、ギルやマイスの言っていた"あの方"の存在を思い出す。
(ARIA、その支部長が"あの方"って可能性はどれくらいあると思う?)
『現状では情報が少ないので正確ではありませんが、20%程の確率かと思います。ギルは偶然出会っただけでトーマを狙っていなかったので、"あの方"は特別な目的無く他者を洗脳しているように感じます。また襲撃計画の杜撰さは、立場ある人間の行動に思えないという理由もあります。転移者を狙うというのであれば、ケニスが言っていた別の転移者の可能性の方が高そうです。』
(ああ、ケニスがそんな事言ってたな。そう考えると、その転移者が旅の途中で無差別に洗脳してるって考えた方が自然かな...)
『まだ確証が無いので決めつけは危険かと。』
(そうだな。みんな等しく容疑者ってか、ははは。)
「トーマ。また考え込んでる。」
フェリスの言葉に我に返ったトーマは、ルシェルに尋ねる。
「ごめんごめん。その支部長からの依頼は具体的にどういうものなんだ?」
「人工魔核が魔道具の進化に役立つのか知りたいから、まずは危険性が無いか調べてくれって言ってたよ。」
「なるほど...支部長は魔道具の発展の為にハーマンに魔核の研究を頼んで、ハーマンは己の知識欲の為に人工魔核を作った。それを知った支部長はその危険性を知りたいとルシェルに調査を依頼した...」
「それって支部長ただの良い人じゃん。」
「かもなぁ。そしてそれを知ったギャボとマイスが悪用した、と。それでルシェルはどうやって検証したんだ?」
「外部から衝撃を与えたり、魔法をぶつけてみたり、魔核を持たないウサギに与えたりしてみた。それでウサギが魔物化したから、それを書面で支部長に報告したんだ。」
「なんとなく全体像が掴めてきたな。」
「因みにその時僕は他の街にいたから、書面は商人のマイスに頼んで送り届けてもらったんだ。君の話を聞いてたら、どうやら支部長に届ける前にマイスがその内容を知って悪用したようだね。」
「わお、全部繋がったな。ナイスだルシェル。」
「よく分からないけど、役に立てて良かったよ。」
それぞれの関係性がルシェルの言葉で浮き彫りになり、トーマの中で1つの確信へと繋がった。
「そうだ、せっかくだしこっちで一緒に食べようぜ。」
「じゃあお言葉に甘えて。すみません、僕もステーキを。」




