表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/51

30話 危険人物

 

 深夜、トーマが寝る部屋の前に2人の人影が現れる。


 それぞれが手にナイフを握り、殺意を巧妙に隠しながら忍び足でドアの前まで辿り着く。


 足音を立てないようにする為か、両者とも裸足だ。


 鍵は既に手に入れたようで、音を立てないようゆっくりと解錠する。


 少しだけ開けたドアの隙間から中を覗くと、ベッドが盛り上がっているのを確認し、2人は目配せをして静かに侵入する。


 部屋の中に差し込む月明かりが、侵入者をほのかに照らす。


 どこか決意を固めたような表情を湛えたギャボとマイスだ。


 2人はベッドに近づきナイフを高く掲げると、一切の躊躇も見せず振り下ろす。


 何度も、何度も振り下ろす。



「おいおい、いい加減気づけよ。」


 部屋の入り口から2人に向けて呆れる声が届く。


「戦闘に関しては素人ね。普通1回刺したら感触の違いですぐ分かると思うけど?」


 トーマとフェリスである。


「お前達...何故こんな事を...」


 トーマ達の後ろから、ハーマンが驚いた声を上げる。


 トーマは事前にベッドにダミーを作り、保護と監視2つの意味でハーマンを連れてきていた。


 しかしギャボとマイスに慌てた様子は無い。


「フェリス、いつでも動けるように準備してくれ。」


「分かったわ。」


 トーマとフェリスが小声で打ち合わせる。


「チッ!バレていたか。」


「てめぇ、大人しく刺されとけばいいものを。」


 昼間とは別人のように殺意を漲らせてトーマ達を睨む2人に、質問を投げかける。


「折角だから教えて欲しいんだけどさ、何故俺を殺そうとしたんだ?」


「何故殺す相手にそれを教える必要がある?」


 マイスが鋭い視線をトーマに向けて答える。


「まぁそうだよな、教える筈ないか...」


「でもアンタ達、今からどうやってトーマを殺すつもり?勝算なんて無いわよ。」


「ハッ!何の準備も無しでこんな事はしねぇよ!」


 そう言うと、ギャボは懐から透き通った薄紫のビー玉のようなものを取り出した。


「なっ、それは!やめろギャボ!」


 ハーマンが突然叫ぶ。


「もう遅ぇよ!!」


 その玉を口に入れようとした。が、フェリスが一瞬でギャボの前に移動し、指を切り落としてそれを阻止した。


「ぐっ、指が...」


「よく分からないけど、これ飲ませない方が良いんでしょ?」


 薄紫の玉を拾い上げ、フェリスはそれをまじまじと観察している。


「さらばだ、友よ。」


 唐突にマイスがギャボにそう告げると、隠し持っていたもう1つの玉を素早く飲み込んだ。


「マイスやめろ!それは人が使っていい物じゃない!」


 ハーマンが叫ぶが、既にマイスは苦しそうに呻きはじめている。


「ウグゥ、オアアアー!」


 徐々にマイスの身体に変化が現れる。


 筋肉が肥大し、骨が音を立てて変形し、皮膚は裂け、血が全身から滴り落ちる。


「ハーマン!あれはどう言う事だ!?」


「あれは...人工魔核だ...あいつら勝手に持ち出したのか...」


 トーマの問いに、ハーマンは呆然としながら答える。


「自分は研究者だと言っただろ...今はある筋に頼まれて魔核の研究をしているんだ...しかしあんな使い方をする為に研究しているんじゃない!」


 自分の研究を悪用され、ハーマンは驚きと憤りの視線をマイス達に向ける。


「はははは!お前らは終わりだ!魔物化したマイスに只の人間が勝てると思うなよ!」


 ギャボは狂ったように笑っている。


「ねえ!のんびり話してる時間は無さそうよ!アイツが動くわ!」


 フェリスの言葉にハーマンは我に返る。


「すぐに避難を!人工魔核を体内に入れたと言う事は、もうアイツはマイスじゃなくて魔物だ!」


 ハーマンの言葉に呼応するように、マイスがゆっくりと立ち上がる。


 身長は2m程になり、髪は抜け落ち、全身に走る赤黒い血管が脈動し、それは最早人とは呼べない風貌をしている。


「ア...ノカタ...ノ...タメ...ニ...」


 僅かに残った理性でマイスはそう呟き、トーマ達に向かって歩を進める。


「なんかやばそう!打って出るわ!」


 フェリスが両手にナイフを構えてマイスに迫り、首に剣線を走らせる。


「くっ、硬い...」


 しかしその攻撃は致命傷に至らず、首の皮を僅かに切った程度で終わる。


「フェリス!援護は!」


「必要ない!今のトーマじゃコイツは厳しいわ!」


 そう言うが早いか、フェリスはマイスの腹部目掛けて飛び蹴りを放つ。


 しかしこれも効果が薄いのか、マイスは少し後ろに下がっただけで平然としている。


「コ...ロス...」


 突然マイスがフェリスに迫り、残像が残るようなスピードで腕を振るう。


 フェリスはこれを辛うじて避けるが、掠った髪の毛が数本切れる。


(これは本格的にヤバい。ARIA!急いでくれ!)


 しかしARIAから反応は無い。


 その間もマイスは攻撃を続ける。


 ただ乱暴に腕を振り回しているだけだが、家具は吹き飛び、窓は割れ、床に穴を空ける。


「いいぞマイス!コイツらを八つ裂きにしてやれ!ははは!」


 部屋の端でギャボがそう叫ぶと、理性を失ったマイスは彼に標的を変え、乱暴に腕を振り下ろす。


「おい!ちがっ...」


 それがギャボの最期の言葉となった。


 脳天から振り下ろされた拳はギャボを押し潰し、原型を留めないほどのダメージを与えた。


「ここじゃ戦いづらい!外に出るわ!」


 そう言うと、フェリスはマイスの注意を自分に向けさせ、窓から外に出た。


 マイスも壁を破壊してそれを追う。


「ハーマン、行くぞ!効果のありそうな魔法をアイツに使ってくれ!」


「わ、分かった。行こう。」



 トーマ達が追いつくと、相変わらずマイスの攻撃を紙一重で避けながら、ナイフで幾度も切り付けているフェリスの姿があった。


「ハーマン!足止めに使える魔法を!」


「ああ!...世界を司る理よ、我が声に応じその力を顕現せよ。全てを凍てつかせる氷の枷よ、我が敵を捕らえよ。アイスバインド!」


 ハーマンが詠唱すると、マイスの足元から氷の塊が出現し、徐々にマイスの下半身を凍り付かせていく。


 数秒でマイスの下半身は完全に氷に包まれ、身動きを封じた。


「よし!フェリス!弱点はありそうか!?」


「ダメね、殆ど刃が通らないわ!多分焼き殺すのが1番よ!」


 マイスから少し距離を取り、息を整えながらフェリスが答える。


「だそうだ。炎の魔法は使えるのか?」


「すまん、使えない。使える属性と規模は魔術師によって違う。自分は火魔法が使えないんだ。それに火魔法は使える場所が限定的すぎる。それと魔法を連続行使すると身体への負担が大きい。次はちゃんと発動するか分からないぞ...」


(どうする?考えろ...)


 そうしている間に、マイスは氷の枷を殴って破壊し始めた。


「ウガオオォォ!コロス!」


「くっ、もう一度だ!全てを司る理よ--」


 ハーマンが詠唱を始めたが、氷を完全に砕いたマイスがフェリスに迫る。


 水平に振られた腕をフェリスはしゃがんで避けたが、直後に放たれた蹴りを避けられず、正面から受けて声もなく吹き飛んだ。


「フェリス!!」


 トーマは無意識にフェリスの方へと駆け出すが、マイスの方が早く到着する。


「トーマ!お待たせしました!魔法を行使出来ます!最適化した魔法理論をトーマの脳にペーストします!」


 唐突にARIAからそう言われたトーマは、脳にペーストされた膨大な情報に一瞬目が眩むが、次の瞬間から魔法が呼吸と同じくらいの自然な物になったという感覚を覚えた。



(ナイスだARIA!)


 そしてトーマはマイスに向かって魔法を使う。


(大気中の水素と酸素を集めて、温度を500℃以上に上げる!フェリスを巻き込まないよう小さな爆発に抑えるんだ!)


 すると、マイスの眼前で爆発が起きる。


 風圧でマイスは後方に吹き飛び、横たわるフェリスも身体を2度ほど転がす。


(ヤバい、フェリスにも爆風が!)


「あの程度であれば身体的損傷はほぼ無いと判断します。」


「今はマイスが先だ!ARIA、マイスを倒すにはどうしたら良い?」


「生物である以上高熱には耐えられないかと。周囲の原子そのものの位置を振動させれば、マイスは高温で焼かれる筈です。但し原子核内部の核子だけを狙うと放射線が生まれるので、あくまでも原子全体の運動を増やすイメージです。」


「分かった!やってみる!」


 トーマはマイスの周囲の空気に狙いを定め、原子の運動量を増やす。


 するとマイスは突如発生した高熱に身を焼かれる。


 熱で爆発的に膨張した空気が、周囲に衝撃波を生む。


「グ、オオオオォォォ!コロ...ス...」


 オレンジ色の光に包まれながらマイスは膝をついた。


 暫く呻きながら耐えていたが、やがて両腕を力無く垂れさせた。


「オヤクニ...タテナ...カ...ッタ...」


 その言葉を最後に、マイスは炭のようになって崩れた。


 光が止むと、マイスのいた場所の地面は黒く焦げ、煙を上げている。


「よし、なんとか間に合ったか...」


「光の色から判断して、温度はおよそ1500℃に達したと思われます。」


「そうか...ってちょっと待て!ARIAの声が耳から聞こえてるぞ!」


「はい、先程から音声で話しています。」


「まじか...いやいや今はフェリスだ!」


 トーマは急いでフェリスの下へと駆け寄る。


「フェリス!大丈夫か!?」


 しかしフェリスの反応は無い。


 トーマは慌てて抱き抱えるようにフェリスの上体を起こす。


「フェリス!おいフェリス!」


「...ふふふ。」


 フェリスの口角が上がり、満足そうな笑い声が漏れる。


「...おい、猫のくせに狸寝入りかよ。」


「あ!アタシのこと猫って言ったな!狸でもない!」


「死んだふりしてる方が悪い!心配しただろ!」


「へへ、ごめんね?でもトーマがいてくれて助かったよ。」


 トーマに心配して欲しくて、フェリスは気絶したふりをしていた。


「はぁ〜、ほんとに勘弁してくれよな。心臓に悪いってば。」


「イタタ...流石に蹴られたとこはダメージ大きいね...」


「大丈夫なのか?ARIA、治癒魔法って使えるか?」


「はい。損傷箇所をエコーで調べます。」


 そう言うと、ARIAは超音波でフェリスの体内を調べる。


「エコーって確か超音波だよな?て事はARIAが喋れるようになった事と関係ありそうだな。」


「ご明察です。この声も音波を操って出しています。」


 そこで、ポカンと口を開けてフリーズしていたフェリスが再起動する。


「ちょ、ちょっと待って。ARIAなの?」


「はじめましてフェリス。私はARIAです。魔法理論を習得した事によって、言葉を話す事に成功しました。」


「そう...なんだ。なんかよく分からないけど、ARIAと話せて嬉しいわ。」


「はい、私も嬉しいです。ところでフェリスの状態ですが、内臓の損傷は無さそうです。蹴られた腹部の筋肉に断裂と内出血を確認しましたので、治療します。」


 そう言うと、ARIAはトーマの意思を介さずに魔法を行使する。


「切れた筋繊維と血管の修復に成功しました。ただ漏れた血は消すことが出来ないので、暫くは軽い痛みと痣が残ります。」


「え、ほんとに痛みが無くなってる!ARIAすごい!ありがとう!」


 フェリスはARIAの治癒魔法を受け、トーマの腕の中で興奮している。


「凄いな。本物のチート能力じゃないか。俺にも使えるのか?」


「魔素の緻密なコントロールが出来れば可能ですが、現在のトーマでは残念ながら...」


「そっか。まぁARIAが使えれば問題ないな。」


「私の行使する魔法ですが、あくまでもトーマの身体を介在して使用しているので、身体的なリスクを考えるとあまり多用は出来ません。先程ハーマンが言っていたように、魔法の連続使用にはリスクが伴うようですので。」


「て事はこの声も連続使用は出来ないのか?」


「現在検証中ではありますが、この魔法に関してはトーマの身体への負担が殆ど無いようです。恐らく使用する魔素が極端に少ない為かと思われます。勿論、場合によっては使わないという選択肢を取る事もあるかと。」


「なるほどな。とにかく一旦事態は収束した事だし、そろそろ離すぞフェリス。」


「なんか痛くなってきたからもうちょっとこのまま〜。えへへ。」


(やっぱ猫だな。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ