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3話 無人島脱出計画


朝が来た。


謎の世界に迷い込んでから迎える初めての朝だ。


静かな波の音、灰になった焚き火跡、昇り始める太陽。


全てが今までと同じで、トーマにはここが異世界かどうかの判断がつかない。


小説では散々読んできた流れだが、いざ自分がそれと似た状況に置かれると、簡単には信じられなかった。


(はぁ、これからどうするか。多分チャーター船は来ないだろうし、まずはこの島からの脱出を優先しないとな。)


幸いな事に、この無人島はギリギリ肉眼で本島が見える程度の距離で、潮の流れも穏やかなので、イカダでも作れば辿り着けない事は無い。


「おはようARIA。今日は本島に向かうためにイカダでも作ろうと思ってんだけど、ARIAはどうしたらいいと思う?」


トーマの問いに、ARIAは迷いなく簡潔に答える。


『おはようございます、マスター。サバイバルの基本に照らし合わせると、現状での最優先は水の確保です。その後に食料の確保を行い、それから本島を目指すのが最適です。』


「ああ、それは勿論織り込み済みだ。ただ先に確認しておきたいのは、漂流物なんだよ。ブイとか発泡スチロールがあればイカダに使えるし、空のボトルがあれば水も保管できるし。」


『成程、資材確保と水・食料の確保を同時に行うという訳ですね。』


「まぁそんなとこ。このままボケっとしてるわけにもいかないし、とりあえず行動開始だ。」


ARIAにそう言うと、トーマは漂流物を探すために海岸を歩く。


昨日は夕方から行動したので周囲がよく見えなかった事もあり、改めて島を探索する事にしたのだ。


だが10分もしないうちに、彼は気づく。


「まじかよ...漂流物が全く無い。昨日の昼には色々流れ着いてた筈なのに。」


『テントや道具が消えた事と関連性がありそうです。』


仮にここが異世界だとして、プラスチックが無い文明レベルの場合、発泡スチロールやブイなどはそもそも存在しない。


逆に高度に発達した文明レベルの場合、海洋ゴミ問題を解決している可能性があり、その場合でもゴミは無いという事になる、とトーマは考える。


そうなれば文明レベルに合わないテントや道具が消えたのも納得できるというものだ。


薄々は気づいていた事だが、こうやって実際目にすると、嫌でも今までいた世界とは違うのでは、という疑念が強くなる。


(いや待てよ、本来ある筈のものが忽然と消えるって事は、意識だけが何かしらの仮想空間に飛んだって事も考えられるのか?そうなるとこれは一種の夢の中?・・・頭おかしくなりそうだ...マジで...いやいや冷静になれ、素数を数えるんだ。2、3、5、7、11…15?)


どこぞの神父のような事を考えているあたり、トーマもだいぶ疲れている。


それも仕方のない事で、昨夜は恐怖・不安・戸惑いなど、あらゆる感情が溢れて眠れなかったため、肉体的にも精神的にも追い詰められているのだ。


『マスター。森の中に入って資材を探すことを提案します。』


「あ、ああ、そうだな。幸い近くの岩場から水が流れてるのは確認できたし、食料はその辺のカメノテとか笠貝でなんとかなりそう。」


様々な疑念を一旦棚上げし、思考を切り替える。


しかし、トーマにはひとつの懸念があった。


それは昨日見たスライムと思われる生命体の事だ。


もしあのスライムが人を襲うタイプの生物だったら?そしてスライムよりも強く凶暴な生物が潜んでいたら?


現状で戦う力を持たないトーマにとって、それは死に直結する危険性が大いにある。


しかしこのまま来るかどうかもわからない船を待つというのは下策。


「仕方ない。最低限の武器だけ作って森に入ろう。」


『まっすぐな流木は見つけてあります。また黒曜石と思われる石も近くにありました。森の入口付近には蔦植物も生えていたので、既に条件は整っています。』


「さすがだな。じゃあサクッと集めてパパッと作ろうか。」


トーマは流木を拾い、黒曜石を割って菱形に成形し、蔦で縛って簡易的な槍を作成した。


「なんか原始人になった気分。これはこれでちょっと楽しいかも。そしたら気合い入れて探索開始だな!」


『お気を付けてマスター。無事のお帰りをお待ちしています。』


「いやいや君も行くんだよ?」


トーマの心拍数から、彼がかなり緊張していると分かったARIAは、リラックスさせるためにAIらしからぬ小ボケを挟む。




森に入って約20分ほど。


現段階では危険な生物は確認できず、たまに見かけるスライムも、こちらを襲ってくるようなものではないと判明した。


そして目の前には、トーマが探していた植物が群生している。


「あった...竹だ。これさえあればなんとかなりそうだな。これは異世界小説のご都合主義を笑えないな。」


それはサバイバルの強い味方、竹である。


一般的に想像される竹(孟宗竹)よりもすこし細めで、背丈も3〜4mほどと低い。


『孟宗竹でも暖竹でもなく、データベースには存在しない竹です。』


「まぁでも、この太さと高さは使いやすくてちょうどいいな。幸い直線距離だと海辺からそう遠くないから、一旦戻って斧を作ることにする。」


『畏まりました。ここまでの最短ルートを表示します。』


そう言うなり、ARIAはトーマの視界の端に簡素なマップを表示させる。


島の全体図に、拠点にしていた海岸と竹林がマークされ、地形を考慮した最短ルートが記されている。


「こんな便利な事も出来るんだな!めちゃくちゃ助かるよ。」


『・・・ありがとうございます。』


珍しくARIAからの反応が遅れた。




「はぁ...はぁ...今日はもう...限界。」


『お疲れ様でした、マスター。やはり船は来ませんでしたね。』


「ああ、そうだな。」


そう自笑気味に答えるトーマの眼前には、今日の成果物が積み上げられている。


あれからトーマは石で斧を作り、それを使ってひたすらに竹を切り倒し、海岸まで運んできた。


その数は50本ほどで、イカダの材料としては十分に事足りる量だ。


「今日はもう火をおこす元気もないから、竹林で掘ってきたタケノコ食って寝るわ。」


そう言うなり、タケノコの皮をむいて齧り付く。


幸いな事にアクは殆ど無いようで、そのまま数本のタケノコを食べ終えた。


「ところでARIA、俺が寝てる間もARIAは活動出来るのか?」


『はい、私は睡眠を必要としないので、マスターが寝ても聴覚や嗅覚から周囲の状況をある程度把握できます。』


「そりゃ助かる。じゃあ俺が寝てる間の警戒を頼むよ。何かあったら起こしてくれ。」


『畏まりました、マスター。』


それを聞いてトーマは眠りにつこうとするが、ふと気になったことをARIAに尋ねる。


「なぁARIA、どうして俺の事をマスターって呼ぶんだ?」


その問いに、ARIAは事務的に言葉を返す。


『私の知る作品では、AIは主のことを"マスター"と呼んでいたので、それがスタンダードなのかと。』


「はは、そういうことか。じゃあこれからは...俺の事は普通に...トーマと呼んでくれ...」


トーマは眠りに落ちる直前の微睡んだ意識の中で、ARIAの息を飲む音を聞いた気がした。


『畏まりました、トーマ。おやすみなさい。』


「ああ...おやすみ...」


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