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27話 魔物

 

 トロングルへと歩き始めて数時間、トーマが誤ってスライムを踏み潰した以外は特に何もなく、旅は順調だ。


「・・・スライムって、生臭いんだな...」


 古くなった刺身のような、汗を多量にかいた脇のような、形容し難い匂いがうっすらと漂っている。


「も〜ちゃんと前見て歩かないから!」


 トーマの感覚的には、よそ見して歩いてたら犬のウンコを踏んだようなものだ。


「...この匂いって、取れる?」


「乾いたら取れるから大丈夫よ。ふふ、トーマって結構抜けてるわね。」


「返す言葉もないです...」


「まぁスライムは農作物を食べたりするから討伐指定されてるし、ちょっとだけ貢献したんじゃない?」


 フェリスはトーマのドジな一面が好きなようで、落ち込む彼をニコニコと楽しそうに眺めている。


 トーマはスライムを期せずして倒した事で、異世界モノによくあるシステムについて尋ねることにした。


「フェリス、この世界にはレベルって概念はあるのか?」


「レベル?聞いたこと無いわ。」


「そうか、魔物を倒すことによって力がついたりは無いって事?」


「多少はあるわよ。アタシも昔に比べたら強くなったし。それと昔話に、ひたすら魔物を倒して戦い続けた戦士が、最期には魔物になってしまうっていうのがあるわ。」


「なるほどな...前に野営地で聞いた話と合わせて考えると、魔物を大量に倒し続けたら、自分の中に魔核が出来るってことなのかもな。」


「もう何百年も前の事らしいけど、実話って言われてるのよ。魔物になったその人間は"魔王"と名付けられたわ。子供の時は、悪い事したら魔王になるぞ、ってよく脅されてたわね。」


「...流石にもういないよな?」


「当時の人達に倒されたそうよ。かなりの犠牲者が出たみたいだけど。」


「て事は、現代でも同じように魔王になる人間が出てきてもおかしくないってことか?」


「可能性はあるわね。でも魔物化の詳細は分かってないし、それ以来1人も魔物になってないから、多分出てこないんじゃない?」


『気になります。魔物を倒すと内包されている何かがその人に蓄積されるんでしょうか?』


(なんか免疫みたいな話だな。花粉吸い続けたら花粉症になるみたいな。)


『体内のアレルギー抗体が一定量を超えたらヒスタミンを過剰に分泌して花粉症になる、という事ですね。であれば魔物とは一種のアレルゲンと捉えることが出来ます。』


(そう考えると魔王って凄い花粉症の人って事か?なんかパッとしないな。)


「まーたARIAと話してる。」


 ARIAとの会話に集中しているトーマに、フェリスから横槍が入る。


「ごめんごめん、魔物化について話してたんだ。」


「で、ARIAはなんて?」


「ああ、魔物から出る何らかの物質を吸収し続けて、一定量を超えた時に魔物になるんじゃないかって。あくまでも推測だけどな。」


「なんか花粉症みたいね。」


「お、こっちにも花粉症の概念はあるんだな。まさにそんな感じだ。」


「アタシは違うけど、酷い人は毎年大変そうよ。」


『今までの話が正しいと仮定した場合、抗体の許容量は個人差があるかも知れません。むやみに魔物を倒すのは危険な可能性がありますね。』


 そこでフェリスの目が細められ、トーマの背後を刺すように睨む。


「おっと、そんな話をしてたら早速お出ましか?」


「ええ、ちょっと厄介ね。オーク2匹とゴブリン6匹。」


「ちょっと試したい事があるから、任せてもらってもいいか?危なくなったら手伝ってくれ。」


「...分かったわ。でも無茶はしないでよね。」


「ああ、分かってる。」



 こちらに向かって来るのは、以前フェリスが倒したのと同じようなゴブリン6体と、身長2m程で体重150kgはあろうかという二足歩行の豚、オークが2体。


 それぞれ棍棒やボロボロの剣など、武器を振りかざしながらこちらへと向かって来る。


 すばしっこく動くゴブリンと、地面が揺れる錯覚を覚える程のオークの足取りに、トーマの緊張感は否応なく高まる。


「ゴブリンの方が先に到着しそうだな。その後にオークの処理か。」


「オークは分厚くて刃が通りにくいから注意して!」


「分かった。」


  (ARIA、ブーストは無しで0.5秒後の表示を頼む。あと魔物を倒した時に何か変化がないか見ててくれ。)


『畏まりました。』


 トーマはそう言うと、腰のナイフを取り出して逆手に構える。


 ゴブリン達はほぼ同時に辿り着き、一斉に襲いかかってくる。


 トーマは地面を蹴り上げて砂埃をゴブリン達にかける。


 顔に対して大きめの目に砂が入り、ゴブリン達は一時的に行動不能に陥り、その隙に危なげなく首を掻き切っていく。


「お〜、やるじゃん!」


 後ろからフェリスの感心した声が届く。


(相手が魔物だと問題なく動けるな。)


 トーマは自分を客観視しながら、遅れて到着したオーク2体を相手にする。


 1体目のオークが棍棒を振りかぶり、トーマの頭上へと真っ直ぐ振り下ろす。


 しかしその軌道は単純で、トーマは1歩下がってそれを難なく躱す。


 棍棒はそのまま地面を強く叩き、砂埃を上げる。


(怖〜。これ当たってたら確実に死ぬな。)


 トーマは肝を冷やしつつも、振り下ろしたオークの手をナイフで切りつけ武器を手放させると、腕、首、顔に素早くナイフを走らせる。


「グアアァァ!」


 致命傷には至らないものの、オークは痛がるように叫び、怯んで傷を押さえている。


 そこに2体目のオークがボロボロの剣を横薙ぎに振る。


 それを予見していたトーマは1体目の背後に回り込むと、振られた剣はそのまま1体目の腹を裂く。


(綺麗に同士討ちが決まったな。オークの知能が低くて助かった。)


 腹から臓物を撒き散らしながら1匹目が絶命。


 2体目は若干戸惑っているものの、すぐに意識をトーマに切り替えて剣を振り回す。


 トーマはそれを避ける為に距離を取り、ゴブリンが持っていたショートソードを拾ってオークに投げつける。


 オークは慌ててそれを避けようとするも、間に合わず肩に傷を作る。


(流石に刺さってはくれないか...適当に投げただけだしな。)


「ウグォォー!」


 怒声を発して怒り狂ったオークは、両腕を顔の前でクロスして防御体勢を取り、そのままトーマに突っ込む。


(おっと、これは厄介だな。)


 体格差がある相手に最も有利なのは、こういった突進だ。


 簡単には止められず、当たれば深手を負う。


(フェリスみたいに軽やかにジャンプして避けられたら良いのにな...)


 そうボヤキながら、トーマはオークに向かって走り、スライディングして体当たりを躱しながら、足首を切り付ける。


(痛っ!スライディングってめっちゃケツ痛い!)


『臀部の軽い出血を確認。硬い地面なのでダメージは避けられないですね。』


(もっと考えるべきだったか...)


 痛みに呻くオーク(とトーマ)は突進をやめ、トーマを睨む。


 トーマも負けじと睨み返し、しばし膠着状態が続く。


(こう言う時は、、あの古典的な方法を試してみるか...)


 心の余裕ができたのか、トーマは一度やってみたいと思っていた奇策を用いる。


 オークの背後に視線を移し、驚いた表情でそこを指差し


「うわああぁー!!」


 と叫ぶ。


 するとオークはそれに釣られて背後を振り返る。


(よし、あっち向いてホイ作戦成功だ!)


 隙だらけのオークに接近し、喉をひと突き。


 首を押さえて苦しみながら、オークはゆっくりと意識を手放す。


「討伐完了!」


 トーマは満足気に終了を宣言する。


「なんか狡い...」


 フェリスがジト目でトーマにそう言う。


「勝てば良いんだよ勝てば!俺は勝ち方に拘れる程強くないからな!どんな手を使ってでも生き残ってやる!」


「あははは!まるで悪役ね!」


 開き直ったトーマの様子がツボに入り、フェリスは愉快そうに笑う。


「でも割と頑張った方じゃないか?一応無傷だし。」


「まぁ、確かにそうね。目潰しはかなり効果あったし。」


「フェリス先生、今回の戦闘は如何でしたでしょうか?」


「良いと思うわよ。戦いで1番大事なのは相手を倒す事じゃなくて、自分が生き残る事だからね。そういう意味では完璧ね!」


「おお〜、予想外の高評価。」


「でも側から見てると面白い。」


 トーマは素直に喜べなかった。



(ARIA、今の戦闘で何か変化はあったか?)


『すみません、特に変化は確認出来ませんでした。魔法の理論をラーニングしていれば、或いは何か掴めたかも知れません。』


(やっぱ魔法の基礎知識は必須か...)


 魔法についての知識が無いトーマとARIAでは、魔物化のメカニズムについて知る事は出来なかった。


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