表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/51

26話 トロングルへ

 

 トーマとフェリスがファネで迎える最後の朝。


 天気は良好で、絶好の旅日和だ。


「イリナさん、色々とお世話になりました。」


 孤児院の玄関前で、トーマがイリナに礼を言う。


「いえ、こちらこそ孤児院を自立させる道を示していただき、感謝の念に絶えません。」


 そう言うと、トーマに向かい深々と頭を下げる。


「領主様も協力的ですし、きっと上手くいきますよ。」


「院長、チビ達を宜しくね。」


「ええ、お任せください。」


 イリナの後ろに控える子供達も、別れの挨拶をする。


「フェリス、頑張ってね!」


「トーマさんありがとうございました。美味しいお菓子を作ります。」


「フェリス行っちゃうの...?」


「ありがとう!頑張って働くね!」


 思い思いに別れの言葉を口にする。


 子供達の中には、目に涙を溜めて別れを惜しむ子もいる。


(フェリスと引き離すのはちょっと罪悪感あるな...でもすまん、俺の旅には彼女が必要なんだよ。)


『出来ることは十分やったと判断します。子供達には申し訳ありませんが、いつか立派に自立してくれる事を願いましょう。』


(そうだな、この子達ならきっと大丈夫だ。)


『別れの涙というのも、事象としての理解は出来ますが、感情を理解するのは難しいです。』


(感情...か。まだ理解出来なくても大丈夫だよ。)


 トーマはARIAの小さな変化を感じながら、孤児院の皆に別れを告げる。


「じゃあそろそろ行きます。みんなお元気で。」


「はい、旅の無事をお祈りしています。」


「みんな!行ってくるね!」


 2人はイリナと子供達の別れの言葉を背に受けながら、歩き出す。




「なぁフェリス、泣かないでくれ...」


「だ、だっでぇ...ヒック...ざみじぃもん...」


「そうだな、イリナさんも子供達も街の人達もみんな良い人だったからなぁ。」


「ゔん...」


 耳と尻尾を力無く垂れさせ、涙腺崩壊しているフェリスと共に、街の入り口まで辿り着く。


 そこには、ヘイデンとケニスがいた。


「よう兄ちゃん!今日街を出るって聞いたんでな、待ってたんだ!」


「おはようございます。もう行かれるのですね。」


「領主様、ケニスさん...わざわざありがとうございます。まさか見送っていただけるとは思ってませんでした。」


「水臭せえ事言うなよ!あんた達はこの街の恩人だ!最後くらいは見送らせてくれ!」


「ははは、そう言われるとなんだか照れますね。そんな大した事じゃないんですけどね。」


「いえ、あのパイは革命です。毎日買いに行きます。」


 ケニスはブレない。


「そうだ、兄ちゃんに渡しときたいモンがあってな。これだ。」


 そう言って、ヘイデンはトーマに1通の封書を渡す。


「これは?」


「俺のお墨付きってやつだ!これを見せれば多少は融通が効く事もある筈だからな!」


「ありがとうございます。もしもの時は使わせてもらいますね。」


「トーマさん、領主様のお墨付きというのは、犯罪すらお咎め無しにできる程の力を持ちます。使い所だけはお間違えのないよう気をつけてください。」


(県知事が一市民に免罪符を渡すようなもんか...?)


「そうなんですね...分かりました、ありがとうございます。」


「ありがとう、じゃあ行ってくるね!」


 気持ちを持ち直したフェリスが、元気よく別れを告げる。


「気をつけてな!またいつでも戻って来てくれ!たこ焼きサービスしてやるからな!」


「ぜったいだよー!」




 2人の姿が見えなくなる程の距離まで歩いたトーマは、改めてフェリスに尋ねる。


「フェリス、後悔はしてないか?」


「後悔?なんで?」


「ファネに残してきたものも多いだろうからな。」


「確かにみんなと会えなくなるのは寂しいけど、後悔なんて全然ないわよ。ファネに残った方が一生後悔してたと思う。」


「なるほど、寂しさと後悔は別ってワケだな。」


「そういう事。それに昨日言ったでしょ?アタシがトーマの道を切り開いてあげるって。」


 その言葉を聞いて、トーマはどうしても聞きたくなった事を彼女に尋ねる。


「なんでフェリスは俺の事をそこまで信用してくれるんだ?ガトーの件からってのは何となく分かるけど...」


 それを聞き、前を歩いていたらフェリスが足を止め、トーマに振り向いて応える。


「アタシさ、ほんとは1人が嫌いなの。でもガトーに裏切られてから誰も信用できなくなって、仕方なく1人で過ごしてきたの。でもトーマがそれを変えてくれた...アタシを1人にさせなかった。」


 フェリスは嬉しそうにはにかみながら続ける。


「だから今度はアタシがトーマを1人にさせない。それが今一番大切なこと。」


「そうか、ありがとう。フェリスが居てくれると心強いよ。」


『トーマ、フェリスの瞳孔や心拍数、仕草等を総合的に判断すると、恐らくあなたに尊敬とは別の感情を抱いているのではないでしょうか?』


(そうか...けど本人は自覚してなさそうだし、今はそっとしておくか。)


『こういうのを日本では"罪な男"と呼びます。』


(悪かったな!俺もまだ踏ん切りがつかないんだよ!プリーズコールミーチキン!)


「あ、またARIAと話してるでしょ!」


 フェリスは頬を膨らませてトーマを睨む。


「ごめんごめん。それで、次のトロングルまではどれくらいかかるんだ?」


「そうね、歩きなら2〜3日ってとこかな。」


「結構かかるな...まぁ急いでるわけでもないし、のんびり行くか。」


「今日は中間地点にある宿場町までを目標にしよっか。」


「了解。」


 そうして2人はまた歩き出す。





 ーーおい、アイツらだ。


 ーー見失うなよ、ガトーの仇どもが。


 ーーそうじゃないだろ、あの方の敵かどうかを判断するんだ。


 ーー分かってる、それまで手は出さねぇよ。まぁ何かあってもこっちには心強い味方もいるしな。


 ーー...どこまで信用して良いものか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ