24話 孤児院救済大作戦 6
ーー息が詰まる。身体も自分のものじゃないみたいだ。
デレク達はトーマの様子を見て嘲笑を浮かべている。
ーーヤバい、敵はもう目の前なのに動けない。
手下達がニヤニヤしながら、ゆっくりと近づいて来る。
ーーこのまま死ぬんだろうか。ダサい最期だな...
恐怖に支配されたトーマは、敵を目の前にしてもただ震えて立っていた。
『トーマ、動いてください。4秒後には敵の攻撃が始まります。』
「・・・」
『トーマ!・・・仕方ありません。一時的にあなたの身体をコントロールさせていただきます。ご容赦ください。』
(え、コントロール...?)
そう言うと、ARIAは行動を開始した。
トーマの身体が動く。
震えが止まり、呼吸は落ち着く。
ただ目の光だけは戻っていない。
デレクの手下がトーマに向かって剣を振り下ろすが、右手に持ったナイフを紙一重で剣線に滑り込ませ、ガードする。
ARIAの独断によって、既にブースト2を使用しているトーマの身体能力では、ゴロツキに押し負けるようなことは無い。
(何が起こってる!?俺の身体が勝手に!)
『トーマ、申し訳ありません。現在神経系にアクセスして、代わりに身体を動かしています。同時にブースト2も使っています。』
(何で、って言いたいけど、俺を守ってくれたんだよな。)
『...一応そのつもりです。』
脳内で会話をしながらも、トーマの動きは止まらない。
敵に足払いをかけて仰向けに転がし、間髪入れずに喉に一撃。
ビクンと身体を震わせて、相手は絶命。
デレク達に動揺が走る。
その隙を見逃さず、フェリスのような低い体制でダッシュし、棒立ちになっている2人目と3人目の喉を掻き切る。
(ARIA、待ってくれ!全員殺す必要はないんじゃないか!?黒幕を突き止める必要もあるだろ!)
『もう黒幕はギルで確定かと思いますので、今は相手の全滅による子供達の安全確保を優先します。』
(分かってるけど!でも命をこんな簡単に扱っていいのか!?こんなに軽いのか!?)
頭では分かっていても、心が追いついていない。
倒れた敵と、ガトーに殺されかけた自分が重なる。
しかしARIAは攻撃の手を緩めず、4人目へと向かう。
相手は剣と盾を持った、攻守のバランスが良さそうな戦士だ。
右手で横なぎに振るうトーマのナイフを左手の盾で防ぎ、その後ろから剣を突くように伸ばす。
トーマは上体を後ろに逸らしてそれを躱し、そのままバク転して盾を蹴り上げる。
着地すると同時に、宙を舞う盾に気を取られて慌てる相手に迫り、ガラ空きの心臓にナイフを深く突き立てた。
「お、おい聞いてねぇぞ!なんでこんなに強い奴がいるんだ!?ギルの野郎騙しやがったな!」
1人残されたデレクが、困惑しながら吠える。
『ギルとの関係性の言質を取りました。排除します。』
(他に方法は...無いんだな...)
トーマはARIAの説得を諦めて、勝手に動く身体に全てを委ねる。
「クソがっ!!」
デレクは覚悟を決めたのか、持っている剣を構え、トーマに向けて走り出す。
しかし途中で方向を変えてトーマの横をすり抜け、子供達へと向かう。
子供達が人質にされる最悪の事態を幻視したトーマだが、実際にはそうならなかった。
手に持ったナイフをデレクの背中に向かって投げつけると、彼の肺に深々と刺さる。
そのままデレクはヨタヨタと数歩歩き、子供達の2m程手前でうつ伏せに倒れた。
肺を損傷してヒューヒューと苦しそうな息をしながら、デレクの意識はゆっくりと途切れていく。
子供達は怯えながらも、敵が全滅した事に少し安堵の表情を見せる。
ARIAは身体のコントロールをトーマに返し、報告する。
『敵、殲滅しました。身体の損傷はありません。』
それを受けてトーマはゆっくりと歩き、子供達に声をかける。
「2人とも大丈夫か?怖い思いをさせて悪かったな。」
「は、はい...大丈夫です。守ってくれてありがとうございます...」
「あ、ありがとう...」
ノルンが無意識に1歩下がり、トーマとの距離を取る。
2人のトーマを見る目には、怯えも含まれていた。
それがトーマの心を深く抉る。
「そうか、良かった...一旦孤児院に戻ろうか。」
2人に背を向け、歩き出す。
孤児院にノルンとジャンを送り届けたトーマはイリナに事情を説明し、ギルを捕まえるため兵士の詰め所へと向かっている。
(ARIA、助かったよ。手を下したのは俺の身体だけど、俺の意思じゃないってのは正直複雑だな...でもいつからあんな事が出来るようになったんだ?)
『ブーストが出来るようになった時からです。隠していて申し訳ありません。トーマは嫌がると判断し、今まで黙っていました。勿論多用するつもりはありません。』
(ああ、そうしてくれ。)
納得はしていないが、ARIAが行動を起こしていなければ死んでいたのも事実で、トーマは簡単な返事しか出来なかった。
『トーマの中に、以前は見られなかった迷いが確認できます。』
トーマは少し震える自分の手を見る。
(そりゃそうだろ。されて嫌な事はするなって教えられてきたからな。誰も殺されたいなんて思わないだろ...)
『仰っている意味は理解できます。しかしこうしなければ逆にトーマが死んでいたかもしれません。私の判断は間違っていないと思います。』
(ああ、全く間違ってないよ...でも間違えるのが人間なんだよ、ARIA。)
『・・・』
その言葉にARIAは沈黙する。
兵士の詰め所に到着したトーマは事情を説明し、数人の兵士を連れて廃倉庫に向かう。
やはりここの兵士も猫獣人だった。
「う、こんなに死体が...」
新米と思われる兵士が動揺を見せる。
「なるほど、コイツはデレクだな。中々尻尾を掴めず我々ももどかしい思いをしていたんだ。」
うつ伏せで倒れているデレクを足で転がし、兵士の1人がそう言う。
「信じてもらえましたかね?」
「ああ、だがウッズ商会の者の関与についての証拠が無い。」
「確かに...じゃあここで隠れて待機してて貰えませんか?ギルを連れて白状させますので。」
「分かった、暫く待とう。」
そう言うと、トーマはウッズ商会へと向かう。
商会のドアを乱暴に開けて、慌てた風を装いトーマはギルを探す。
「ギルさんはいますか!?緊急事態なんです!」
その声に、店の奥からギルが何食わぬ顔で出てくる。
「どうされましたか?緊急事態とは一体...」
「子供達が、数人の男達に連れ去られたんです!」
「ほ、本当ですか!?」
「ええ、とにかく廃倉庫に一緒に来てください!」
「...分かりました、向かいましょう」
ギルは一瞬だけ逡巡し、トーマについていく事に決めた。
腹を揺らして走るギルを連れながら、トーマはこの先の展開についてプランを練る。
(まずは死体と対面させて、動揺したところを揺さぶるか...)
今はARIAの助言を聞きたくないと思い、意識のパスを意図的に切っている。
(出たとこ勝負になるけど仕方ない。)
「こ、これは...」
デレク達の死体を目の前にしたギルは明らかに動揺している。
「ああ、言い忘れてましたね。連れ去られそうになったんですが、俺が全員返り討ちにしたんですよ。」
「な、なん...」
「そうそう、コイツらはハッキリとあなたからの指示だと言ってましたよ。まさか自分が死ぬと思ってなかったんでしょうね、ベラベラと喋ってましたよ。」
「い、い、一体何の事でしょうか?」
「はぁ〜。もうしらばっくれんなよ。今回は穏便に済ませてやっても良いと言ってるんだ。」
その言葉に、皮一枚で首が繋がったと思ったギルはトーマに取り引きを持ちかける。
「か、金か?いくら欲しい?」
(よし、釣れた。)
「あんたの言い値で構わないが、認めるんだな?さもないとあんたも一緒にここに転がる事になるかもな。」
「くっ...分かった、認めよう。コイツらは私が指示をした連中だ。」
「それでいい。でも何故こんな事をしたんだ?」
「ハッ!あのクソ領主に一泡吹かせてやるためだよ!犬風情が偉そうにふんぞり返りやがって、汚いガキに回す金があるならそいつを頂くまでだ!」
「だから子供達を人質に取って領主から金をせびろうとしたってワケだな?」
「ああそうだ!ガキよりも私の方が金を有効に使ってやれるからな!獣は金の使い方さえ知らん!」
もう十分自白させたと判断したトーマは、隠れている兵士に声をかける。
「だ、そうですよ。これで証拠も揃いましたね。」
「ああ、本人がそう言ってるからな。」
そう言いながら、兵士達が姿を見せる。
「な、なん...騙したな!?」
「ああ、騙した。お前は法の裁きを受けるべきだ。」
(何とか上手くいったな...)
ギルは己の失態に気づき、青い顔をさせて力無くへたり込む。
兵士達はそんな彼を囲み、身体に触れようとするが、突然ギルが叫ぶ。
「触るな獣共!お前達のせいで私は!私の家族は!お前達さえいなければ!」
しかし兵士達はそれを無視して連行する。
(家族の身に何かあったのか?でもそれとこれとは話が違うだろ...)
垣間見えたギルの過去に一瞬だけ思いを馳せるが、気を取り直してトーマは詰め所へと向かう。




