23話 孤児院救済大作戦 5
翌日、再び商業区へと訪れたトーマ。
後ろには、ヘイデンが急ぎ作ってくれた制服を着たお手伝い班の子供達が控える。
動きやすさと涼しさを考慮して、薄い麻布で出来たベストだ。
背中には"公共事業作業員"の刺繍がされている。
「さて、今日はまだ商店からの依頼を受けてないから、街の掃除をしよう。場所はこの商業区一帯、時間は4時間くらいで切り上げよう。」
「アタシは子供達を見守る役ね!任せて!」
今日は初日という事もあり、念の為フェリスが同行している。
「ああ、頼んだフェリス。商業区の奥には危ない路地もあるってイリナさんが言ってたから、その辺りを作業する子達を重点的に護衛してくれ。」
「分かったわ!」
「そしたら、作業開始だ!」
「はい、頑張ります。」
「はーい!」
「ゴミいっぱい拾うね〜。」
トーマの合図に、お手伝い班リーダーのノルンを筆頭に子供達が元気に返事をして作業に取りかかる。
「じゃあ俺は商店に営業に行ってくるか。」
「お手伝い?ウチは特に必要ないなぁ。」
「人工に回すお金の余裕がないんだよ、スマンな。」
「う〜ん、今は間に合ってるから必要ないわね。」
(・・・中々上手くいかないな。定期作業の契約が出来れば最高なんだが、スポットすら難しいか...)
トーマの営業は難航していた。
『やはり初日なので信用の問題もあるのかも知れません。個人商店ではなく、大店に話を持ち掛けては如何でしょうか?』
(やっぱそうなるか...よし、まずはウッズ商会に行ってみよう。攻めるなら本丸からってか。)
方針を変えて、トーマはウッズ商会1階のインフォメーションを訪ねる。
「すみません、パージルト男爵からのご依頼で商業区のお手伝い作業をしている者なんですが、こちらの商会で子供達に出来る作業などはありませんか?」
「領主様からのご依頼ですか?担当者に確認して参りますので暫くお待ちください。」
「ありがとうございます。」
(さて、担当者とやらは聞く耳を持ってくれるか...)
すると1分足らずで、奥の方からバタバタと走ってこちらに向かってくる人物が。いや肉まんが。
「すみませんお待たせ致しました!ウッズ商会ファネ支店、副支店長のギルと申します!」
やってきたのは、顎にも腹にもたっぷりと脂肪を溜め込んだ、50歳前後と思われるヒューマンだ。
身長は160cm程で、クリームパンのように張った手を揉んで、過剰に媚びへつらうような愛想笑いを浮かべている。
(うわ、この人苦手だなぁ...)
トーマはそう思いながらも話を始める。
「...なるほど、そういう事でしたら是非お願いしたい作業がございます。」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「実は当店には少し離れた所に廃倉庫がございまして、新しく建て直すために中の荷物を全て処分する必要があるのです。荷物自体は軽い物ばかりなので、子供達でも安全に作業出来ると思います。」
「なるほど、分かりました。あとは費用の問題ですが...」
「はい、成果報酬という形で、作業が全て終わった際に金貨2枚という形で如何でしょうか?」
「金貨2枚ですか!?多く頂きすぎなんじゃ...」
(金貨1枚で大人1人が1ヶ月は暮らせるよな?)
「いえいえ、領主様肝入りの事業との事ですので、安い報酬では失礼に当たります。それに当店のスタッフの手が要らないという事はそれだけ販売業に専念出来ますから、願ったり叶ったりなのですよ。」
「分かりました、お言葉に甘えさせてもらいます。」
「では早速契約書を作って参りますので、暫くお待ちください。」
そう言ってギルはバックヤードに消えた。
(案外良い人なのかもな。ARIA、どう思う?)
『まだ確実な判断はしかねますが、あの人物には注意した方が良いかと。行動心理学的に、嘘をついた時の特徴が幾つか見られましたので。』
(そうか、念の為武装して向かう事にするか...)
ギルの持ってきた契約書にサインし、廃倉庫へと案内を受ける。
老朽化が進んだ木造平屋の倉庫で、広さはバスケットコートくらいだろうか。
倉庫内には汚れた布やセールの紙など、確かに子供でも作業出来る物ばかりが置かれている。
「では宜しくお願い致します。期日は特にございませんので、焦らず安全にお願いします。」
そう言うと、倉庫の鍵をトーマに預けてギルは店に戻った。
「さてと、2人ほどこっちの作業に回すか。」
トーマは先に孤児院に戻って武器を携え、ノルンとジャンを連れ、廃倉庫の作業を始める。
「ハッ!何が公共事業だ!ふざけやがって...犬風情が...」
そう呟きながら、商業区近くにある路地裏を歩くギル。
目の前には、開閉式の覗き窓がついた鉄の扉が。
3回、2回、4回とノックをすると覗き窓が開き、ギルの姿を確認した中の人物がドアを開け彼を通す。
「よう旦那、今日は何の用だ?」
低い声でギルにそう訪ねるのは、如何にも路地裏の住人という風貌のイカついヒューマンの男だ。
盛り上がった筋肉を見せつけるように肌の露出の多い服を着て、身体中に入れ墨を彫っている。
「ああ、犬畜生のクソ領主が新しく公共事業と称してガキ共に金をばら撒いているんだが、少し思い知らせてやろうかと思ってな。」
「ほう、それはどういう方法で?」
「奴らに廃倉庫の片付けを依頼したんだが、あの場所は人目につかない。誰かに攫われても気づかれる事はないだろうな、ふっふっふ。」
「つまり、ガキを人質に取って領主から金をせびる、と?」
「そういう事だ。報酬は身代金の5割でどうだ?」
「小さい荷物は慎重に扱う必要があるんでな、6割だ。」
「ふむ、まぁ良いだろう。但し商品は傷物にするなよ。」
「分かった、引き受けよう。」
「頼んだぞ、デレク。獣混じりが偉そうにしやがって...」
「旦那の獣人嫌いは筋金入りだな。」
デレクと呼ばれた男は不遜な笑いでギルに返答し、依頼の遂行を開始する。
「ふう、中々大変だな。軽い物ばっかりだと思ってナメてたか...」
片付け作業を始めて1時間ほど、トーマ達は苦戦していた。
「トーマさん、このペースだと4日くらいはかかりそうですね。」
ノルンが冷静に分析してトーマに話す。
「ま、焦らず安全にいこう。」
「トーマさん、俺休憩したい...」
がむしゃらに動いていたジャンの体力が限界を迎えたので、トーマ達は休憩を挟む事にした。
「2人はこの辺りには良く来るのか?」
「いえ、この辺りは人が少なくて危ないからって、院長に止められてます。」
「そうなのか...確かに人気が無いな。」
「その通り、人攫いには都合が良い場所だな。」
唐突に、太く低い声が響く。
トーマ達が声のする方に向くと、そこには筋骨隆々のヒューマンの男を筆頭に、5人のゴロツキがこちらへ向かって歩いてくる。
(ああ、やっぱり嵌められたか...)
「あの、何処かでお会いしましたか?」
「い〜や初対面の筈だぜ。もう会う事も無いだろうがなぁ。」
そう言ってその男、デレクは笑う。
「俺たちに何の用だ?こっちはあんたらに用事なんてないけど。」
「いやな、ちょっと俺たちの仕事に付き合ってくれたらそれで良いんだよ。」
「仕事...?」
「ああ、そこのガキ共をこっちに寄越せ。さもないと...」
(ARIA、予想的中だな。間違いなくギルの差し金だ。)
『はい、残念ですが戦闘は避けられないと判断します。』
「もし断ったら...いや、どっちにしても俺はあんたらに殺されるわけか。証人はいない方が良いもんな。」
「ハハハハ!良く分かってんじゃねぇか!物分かりの良い奴は好きだぜ!」
「まだ死にたくないんでね、全力で抵抗させてもらうよ。ノルン、ジャン、後ろに隠れてろ。」
そう言うと、トーマは腰に佩いていたフクロナガサを取り出して構える。
(...あ、あれ?身体が上手く動かない...)
しかしトーマの様子がおかしい。
呼吸は荒く、膝は笑い、歯はカチカチと音を立てている。
『トーマ、大丈夫ですか?もしかしてガトーの時のトラウマが...』
(わ、分からない...でも身体がいう事を聞かないんだ!)
ガトーの仲間を切った時の感触や飛び散る血飛沫、光を失っていく目を思い出し、トーマは恐怖に支配されていた。
「ハハハハ!そんなに震えて可哀想になぁ!安心しろ、すぐ楽にしてやるからな。」
震えるトーマに、デレク達が武器を携えゆっくりと近づいて来る。




