22話 孤児院救済大作戦 4
「じゃあ早速作るぞ〜。カイはメモを取ってくれ。」
「分かりました。どんなものが出来るのか楽しみです。」
孤児院の厨房で、トーマはお菓子班の子供達を集めてパイ作りを始めた。
「まずはパイの生地からだな。小麦粉とバターを混ぜて、塩をひとつまみ溶かした水を少しずつ足しながら捏ねます。」
カイが熱心にメモを取る。
他の子供達も興味津々だ。
「こうやってよく混ぜて、これくらいの硬さになったら、後はこれを薄く伸ばしてパイ生地は完成だ。」
「パイ生地は簡単に作れそうですね。」
「そうだな、分量さえ間違えなければ誰でも作れるぞ。次はリンゴを少し小さめに切って、バター、砂糖と一緒に炒めます。」
暫くすると、リンゴの焼ける良い匂いが漂ってくる。
「水分が無くなったらこれも完成。冷めるまでお皿に置いておきます。」
『トーマ、何故敬語で説明するのですか?』
(料理を3分で紹介するTV番組を見続けてたせいだなきっと。)
トーマは意外にも料理好きだった。
「ついでにカボチャも作っておこう。ここに軽く茹でたカボチャがあります。これに砂糖とバターを加えて良く混ぜると、カボチャペーストの完成です。」
気分は完全に某3分クッキングである。
「後は油を塗ったフライパンにパイ生地を敷いて、リンゴとカボチャを半分ずつ入れます。その上から格子状にカットしたパイ生地を乗せて、溶き卵をハケで塗ります。そしてこちらに用意しているオーブンに入れて、20分くらいで完成です。」
オーブンは薪を使う原始的なものなので、火加減に気をつけるようカイに伝える。
「今回は試作だから1つのパイにリンゴとカボチャを半分ずつ入れたが、本来はそれぞれ1つずつ作るからな。あと炒めた挽肉を入れて作ったりも出来るからな、応用はみんなで考えてくれ。」
「はい、分かりました。」
カイは真剣な眼差しでそう答える。
「おお〜!ちゃんと出来てる!」
出来上がったパイは、トーマが日本で作ったことのある物と遜色ない。
『今回はシンプルなパイですが、カスタード入りのものを作れば飽きられずに売り続けられますね。』
(さすがARIA、実は俺もそのつもりだったんだよ。)
「じゃあ早速食べてみようか。」
そう言ってパイを切り分け、お菓子班の皆で試食する。
「いっただっきまーす!」
何故かフェリスもいる。
「・・・美味しい。こんなの食べたことないです!」
「あたしはこっちのリンゴのやつが好きー!」
「カボチャも美味しいよ!」
カイを筆頭に、子供達がパイの味を絶賛する。
「ん〜!美味しいにゃあ〜!」
「え、フェリス今にゃあって...」
フェリスはハッとして顔を赤らめ、慌てて否定する。
「ち、違うから!言ってない!言ってないってば!」
どうやら語尾に"にゃあ"と付けるのは、この世界の猫獣人では子供だけに許されたものらしい。
なので成人しているフェリスはそれを恥ずかしがった。
「そういうもんなのか、初めて知ったよ。ところでフェリスって何歳なんだ?」
「う〜...22歳...」
(もっと幼く見えたが、それを言ったら怒られそうだな...)
フォーシアでは18歳で成人らしく、フェリスは立派なレディだった。
「フェリスがにゃあっていった〜!」
「にゃあ〜!」
「にゃあ〜!」
「ま、真似するなー!」
子供達にも煽られ、厨房で追いかけっこが始まった。
「あら、なんだか良い匂いがしますね。」
そこへ、屋台の出店許可を取ってきたイリナが帰ってきた。
「イリナさんもどうぞ。リンゴとカボチャを使ったパイというお菓子です。」
イリナは興味津々な態度を上手く隠してパイを試食する。
「まぁ!これはとても美味しいですわね!素晴らしいですわ!」
隠せてなかった。
「ところでイリナさん、屋台の場所はどこになりましたか?」
「商業区の奥の方、領主邸に近い場所になりました。ウッズ商会のお店があるあたりです。」
「そうですか、その辺りなら治安も良さそうだし安心ですね。販売はいつから出来るんでしょうか?」
「明日以降いつでも出店可能です。」
「じゃあ早速明日から始めましょう。みんな、今から沢山パイを焼くぞ!」
「はい!」
「おー!」
「わーい!リンゴのやつをいっぱい作るね!」
子供達が口々にやる気を漲らせ、パイの大量生産が始まった。
「新商品!リンゴのパイでーす!」
「カボチャのパイもあるよー!」
「美味しいよー!」
屋台の前で、子供達が呼び込みをしている。
手に持ったトレーの上には、一口サイズに切ったパイが並んでいる。
今までに無いものなので、まずはパイがどんなものかを知ってもらうために試食を用意したのだ。
「良かったらどうぞ。甘くて美味しいですよ。」
トーマも子供達と一緒に、道ゆく人に試食を促す。
「おお、なんだこれは!美味しいな!」
「パンとは違って甘いのね!」
「中のリンゴが甘くて最高だな!」
最初は怪訝な顔をしていた街の人々も、試食後は大半が購入していった。
4分の1カットで銅貨5枚(50アーク、日本円で1,000円ほど)と割高ながら、パイは飛ぶように売れた。
「ほう、なにやら珍しいものを売っているようですね。」
トーマの背後から、やけに冷静な声がかかる。
「あ、ケニスさんこんにちは。これはパイと言います。良かったら試食してください。」
そこにいたのは、トーマの取り調べを担当した書記官のケニスだった。
「せっかくなのでいただきましょう。」
そう言うと、リンゴのパイを手に取り口に運ぶ。
「...これは1ついくらですか?」
相変わらず読みにくい表情でケニスがトーマに問う。
「4分の1カットで銅貨5枚です。少し高めにはなりますが、卵やバターを沢山使ってるんでこれくらいになるんですよ。」
「でしょうね...これを4ついただいても?」
「はい、ありがとうございます。」
(ケニスさんって甘いもの好きだったんだな...)
『もしかしたらお詫びの意味もあるのかも知れません。』
しかしパイを手にする彼の表情は緩んでいる。
単純にケニスも甘いものが好きなのだろうと、トーマは当たりをつける。
「明日もここで営業されるのですか?」
「はい、週末2日は休みますが、それ以外は基本的に営業する予定です。」
「...お願いがあるのですが、明日このパイを切らずに丸ごと1つ用意していただけないでしょうか?」
「勿論大丈夫ですよ。」
思わぬところで太客をゲットしたお菓子班。
お菓子文化が進んで無いフォーシアでは、パイは手頃に買えて美味しい、市民の強い味方になりそうだ。
「あ、そう言えばケニスさん。この世界では開発者の権利と利益を守るような制度はありますか?」
「開発者を守る制度ですか...魔道具には登録制度がありますが、食品では聞いたことがないですね。」
(なるほど、じゃあレシピは秘匿するのが1番だな)
『特許権や商標権は無さそうですが、魔道具というのが気になりますね。』
(そうだな、まだこの世界で1度も魔法らしい魔法に出会ってないしな。)
そんな事を考えながら、トーマ達はパイを次々と売り捌く。
ケニスはカボチャのパイも試食して、追加で4つ購入していった。
「まさかこんなに早く売り切れるとはな...まだ2時間くらいしか経ってないぞ。」
新しいものに飢えていた街の人々の注目を浴び、リンゴとカボチャのパイはあっという間に売り切れた。
「本日の売り上げは...なんと16万アークです!」
「おおー!凄いです!」
「いっぱい売れたねー!」
「16まん?ってどれくらい?」
「金貨1枚と銀貨6枚だよ。暫く何もしなくてもご飯が沢山食べられるくらいだ。」
トーマがそう言うと、子供達はワッと歓声を上げる。
「でもこれは皆で稼いだお金だからな。イリナさんに上手く使ってもらうんだよ。」
(原価を差し引いても半額以上は残る...予約販売や配達なんかも出来たらもっと伸びるだろうな。)
『トーマ、目的をお忘れではないですよね?』
(も、勿論分かってるさ。これでフェリスも心置きなく旅に出られるってもんだ。)
商売っ気をチラ見せしたトーマに、ARIAの鋭いツッコミが入る。
「さて、次はお手伝い班だな。こっちは特に心配無いだろうけど、ちゃんと見届けないとな。」
お菓子班の成功を確認したトーマは、お手伝い班の仕事について思考を切り替える。




