12話 立ち上がる弱虫
「ここで会ったが百年目ってな。本当は金目の物だけいただくつもりだったが、お前は殺す。」
(なんか相当ヤバそうだな。少しでも時間を稼がないと。)
「あの〜、すみません。あなた方はフェリスとどういったご関係で?」
「あ?なんだてめぇは。」
(あぁ〜ヤバいチビりそう、なんとか冷静に話を繋げ...)
「俺は彼女の護衛でファネに移動中の旅人だ、よろしく。それで、明らかに彼女の様子がおかしいんだが、なんでだ?」
「まぁ良い、今は最高に気分が良いしな。お前達を殺すのはこのマヌケとの関係を説明してからにしてやるよ。」
そう言うと、ガトーは実に愉快そうにフェリスを見る。
「なぁフェリス、あれはお前がーー」
ガトーの声にフェリスの瞳が揺れ、彼女の意識は過去へと引きずられた。
==================
アタシは強い。
子供の頃はケンカで負けたことなんてなかったし、冒険者になっても、すぐに上位ランクに上がった。
計算は苦手だけど、腕には自信がある。
でも1人では限界がある事を知った。
アタシがどんなに強くても、ドラゴンは1人で倒せない。
前後左右を同時に攻撃する事はできない。
だからチームを組むことにした。
ガトーを中心とした8人のチームで、ガラの悪い奴は多いけど、ドラゴンも倒せるくらい強いチーム。
ある日、ガトーが未踏の遺跡探索の仕事を持ってきた。
報酬が美味しいらしく、みんな喜んで遺跡に向かって行った。
遺跡からは大量のお宝が見つかり、みんな喜んでいたけど、ガトーは別の事を考えていたらしい。
遺跡の中は誰の目もなく、何が起きても分からない。
誰が死んでも分からない。
だからガトーはお宝欲しさに、食事に毒を混ぜてアタシ達の皆殺しを計画してたみたいだ。
焚き火を囲んで成果物を見せびらかしながら、楽しく食事をしていた時、突然みんな泡を吹いて倒れだした。
アタシはあまり食べてなかったからか、何とか身体が動く。
「ハッハッハッハ!バカ共がまんまと騙されてやがる!」
高笑いをしながら、ガトーは手に持った剣で動けなくなった仲間を1人ずつ刺していく。
確かめるように、楽しむように。
ああ、今刺されたのは妻子持ちの気のいいヤツだ。
仲間内で唯一の家庭持ち。
もうすぐ2人目が産まれるって言ってたっけ。
「欲を!掻き過ぎれば!こうやって!死ぬ事に!なるんだよ!ハッハッハッハ!」
ガトーはそう言いながら、倒れた仲間の背中を何度も何度も刺してる。
刺された仲間と目が合った。
恐怖と憎悪に支配されたその目が、ゆっくりと光を失う。
怖い。
ガトーが怖い。
あんなに仲良くしてたのに、何で平然と殺せるの?
思うように動かない身体に鞭打ち、ガトーから逃げた。
幸い、アイツは他の仲間を葬る事に夢中で、アタシにはまだ気づいてない。
逃げなきゃ。
早く逃げなきゃ。
アタシは強い
そう思いたかった
でもアタシはあいつから
逃げる事しかできなかった
本当は誰よりも
弱かったんだ
==================
「とまぁ、そんなワケだ。俺が楽しんでる隙を突いてコイツはまんまと逃げおおせたのさ。」
「別にフェリスがアンタの命を狙ってるわけでもないのに、何故わざわざ殺す必要がある?」
「困るんだよなぁ、俺の事を知ってるヤツが生きてるのはよぉ〜。」
(ARIA、ブースト3の準備。)
『...畏まりました。30秒以内に終わらせてください。』
ガトーの話を聞きながらも、トーマは冷静さを失わずに淡々とプランを立てる。
「フェリスという証人が生きてるせいで、あれから半年以上俺は日陰の暮らしを余儀なくされたんだ、この礼は今ここで全部返してやるよ。」
「なるほど。要するに、アンタの杜撰な計画が発覚する事にビビって、追手からコソコソ隠れて、チンピラ共を束ねて野盗ごっこを楽しんでるってとこか。」
「ぁあ?なんだと?」
(煽り耐性は低いな。この調子であと少しだけあいつの思考を誘導する。恐らく最初に周りの手下をけしかる筈だから、その瞬間にブーストを始めてくれ。)
『畏まりました。』
「要するに卑劣な臆病者って事だよ。毒で確実に自分が優位に立てるようにしたり、1人じゃ戦えないからお友達を沢山集めたり。悔しかったらお前が1人でかかってこいよ。」
(初動が何より大切だ。敵のヘイトをフェリスから俺に変えさせ、最初の一撃でガトーを倒す。後は戦意喪失した手下を倒すか逃すか...)
「ハッハッハッハッハ!言うじゃねえか旅人さんよ〜。だがそんな安い挑発には乗らないぜ。...お前ら、やれ。」
そう言うと、ガトーの手下が武器を構えて近づこうとする。
「ARIA!今だ!」
『ブースト3、開始。』
別の仲間がいると思わせるため、トーマはわざと声に出してARIAに指示する。
その瞬間、トーマの肉体と感覚は極限まで研ぎ澄まされ、世界がスローに見える。
トーマの声に、ガトー達が周囲を警戒して一瞬固まる。
その隙にフェリスに近づき、彼女のナイフを拝借して両手に装備する。
そして完全に油断しているガトーの首めがけ、ナイフを振るう。
しかしガトーはナイフの軌道に剣を割り込ませ、この攻撃に反応してみせた。
全力のフェリスとそう変わらないスピードについてきたのだ。
「ハハァッ!お前面白ぇな!」
(クソ、失敗だ!こうなったら時間はかかるが弱い奴から順番に狙う!)
『畏まりました。今から敵の行動を予測し、0.3秒後のイメージを視界に表示させます。』
(助かる!)
そう言うと、トーマのすぐ横に迫る手下の0.3秒後の姿が視界に表示される。
(右手の剣を水平に薙ぐ、か。)
トーマは姿勢を低くして剣戟を交わし、立ち上がる勢いに乗せて、剣を振りきった相手の脇腹に深くナイフを刺す。
(今は何も考えるな!プログラムの構築と一緒だ!淡々と最適解を組み上げていくんだ!)
手に伝わる嫌な感触に悪寒を覚えながらも、努めてそれを無視する。
次は少し離れた場所で弓を構える敵に向かう。
トーマが駆け出した瞬間を狙って矢を放つが、ARIAのおかげで矢の軌道が見えるトーマは、飛んできた矢を空中で掴む。
矢の勢いに掴んだ掌の皮が剥がれるが、痛みを無視する。
慌てて次の矢を構えようとする野盗の腹部に、掴んだ矢を深く突き刺してすぐに引っこ抜く。
(最小限の動きで、最大限のダメージを叩き込む。効率化だ。)
相手のダメージを冷静に観察しながら、フェリスの近くに立つ別の手下に向かう。
手に持ったままの矢を手下の膝に刺し、ナイフで首を切りつける。
『10秒経過。』
(たった10秒がこんなにキツいとはな...それに)
「フェリス!しっかりしろ!」
焦点の合わない目でへたり込むフェリスに声をかけるが、彼女からの反応は無い。
呼吸が荒くなり、腕の筋繊維がプチプチと切れる感触がするが、トーマはそれを無視する。
ガトーが出てこない事が不気味だが、とにかく今は数を減らすためにひたすら走って敵を切り伏せる。
ーーアイツが戦ってる...
フェリスはぼんやりとその光景を眺める。
ーーなんで...戦えるの?...ガトーは確実にアタシ達を殺すわ...
手下の振るった剣がトーマの頬を掠める。
ーーアタシは...裏切られるのが怖い...
「フェリス!今は自分の身を守れ!」
ーー護衛対象のくせにアタシを守ってる...アタシが守らないとダメなのに...
フェリスの目に、少しずつ光が戻ってくる。
残る手下はあと2人というところで、トーマの動きが突然止まる。
(ああ、視界がボヤけてきた。あ、小指が反対に曲がってる...はは...)
『トーマ、右に避けて!』
左右から挟み撃ちにされたトーマは、手下の剣をかろうじて避けるが、投げられたナイフに反応出来ず、左肩にナイフが突き刺さる。
自分の死期を悟ったように、息も絶え絶えでトーマがフェリスに言う。
「フェリス...逃げろ...」
その瞬間、フェリスの中で何かが弾けた。
気づいたら脚に力を込めてトーマの方に走り出していた。
「ふざけんじゃないわよ!護衛対象は黙って守られてなさい!!」
両腕のガントレットを身体の前で交差させてから大きく振るうと、シャキンと音をさせて3本の長い金属製の爪が出てきた。
(はは、カッコよすぎるだろ...ウ⚪︎ヴァリンかよ...)
今にも倒れそうなほどボロボロになりながらも、トーマはフェリスが復活した事に安堵する。
フェリスは、膝立ちで動けないトーマの上を飛び超え、左右から彼に向かって再度剣を振るおうとしている手下2人を爪で同時に切り伏せる。
そして音もなく着地し、トーマに向けて小さく「ごめん」と漏らす。
「ははは...やっぱフェリスはそうでなくちゃなぁ。」
『トーマ、30秒経過したのでブースト3を解除します。もう動かないでください。』
ARIAが懇願するようにトーマに言うと、ブースト解除と共に全身の痛みが広がる。
「グゥッ、30秒でこれか...」
「もう大丈夫だから、アンタは休んでなさい。アタシはガトーと決着をつける。だから、見ててね...トーマ。」
(今、俺をトーマって...)
強い意志を感じるフェリスの言葉を聞き、トーマは安堵しながら尻もちをつく。
「クソ共がぁぁ!!悉く俺の計画を邪魔しやがってぇぇ!!もういい、殺してやる!」
ガトーが吠える。
フェリスは彼の全身から黒いオーラが出ているような錯覚を覚え、先程までの恐怖が身体を支配しようとする。
(あれはアタシの中のイメージよ!飲まれてはダメ!)
しかしフェリスはトーマを絶対に守るという覚悟を全身に満たし、勇気を振り絞ってガトーに向かう。
「その武器は初めて見るなぁ。お前も少しは成長したって事か?」
一転して急に冷静さを取り戻したガトーは、先程までの余裕の態度をやめ、研ぎ澄まされた刃のような雰囲気を纏う。
「ガトー、決着をつけるわよ。」
フェリスは自分を苦しめてきた悪夢と決別すべく、走り出す。




