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11話 悪夢再び

 

 ーー何度言ったら分かるのよ!


 誰よりも大好きで、何よりも怖い声が響く


 ごめんない・・・



 ーーいい加減泣き止みなさい!


 高く手を振り上げる影に、足が震える


  ごめんなさい・・・叩かないで・・・



 ーーなんでアンタなんか産んだんだろ...


 頬の焼けつくような痛みに、自らの生を恨む


 生まれてきてごめんなさい・・・



 ーーもういい、私の前から消えて。


 愛情の欠片もない態度に、心が深く沈んでゆく


 おかあさん・・・ごめんなさい・・・





『トーマ、起きてください。トーマ。』


「ん...ARIA…どうした?」


 意識が覚醒し、背中を押す地面の感触が戻ってくる。


『トーマの脳波に著しい乱れを確認しました。呼吸も荒く、うなされているようでした。それに...』


「それに?・・・ああ、また泣いてたのか。」


「ちょっとどうしたのよ、なんで泣いてるの?それに誰と喋ってるのよ。」


 枕にしていたガントレットを装備しながら、フェリスが怪訝そうな顔でトーマを見る。


(あ、ヤベ!口に出してた!)


「あ、ああ。なんだか悪い夢を見てたみたいだ。」


「...ふーん、まぁ大丈夫なら良いけど。」





 野営地で迎える朝。


 悪夢のせいでトーマの寝覚めは最悪だ。


 忘れたいと願っていた過去は、異世界に来ても彼を暗い場所に引きずり込もうとする。


(最近はこの夢も見なくなったのに。こっちに来て精神的に追い詰められてたのかもな。)


 頬を伝う涙を拭い、気持ちを切り替えてフェリスに尋ねる。


「フェリス、今日はどういう予定で行くんだ?」


「日暮れまで歩いて寝る。以上。」


「まぁそうなんだろうけど、目的地とかは無いのか?」


「ファネに一番近い野営地ね。距離的に使う人が少ない穴場なのよ。野盗が出やすい場所でもあるけど。」


「野盗!?大丈夫なのか?」


「もし出たとしても、アタシが負けるわけないじゃん。」


「まぁ、そうだよな。」


(昨日よりは少しくだけた感じで喋ってくれてるな。距離が縮まったのか、さっきの件で気を遣われてるのか...)


「そしたらウィルオンさん達に挨拶してくるよ。」




 ウィルオンとガルグが出発の準備をちょうど終えたところで、トーマが彼らに近づく。


「ウィルオンさん、ガルグ、昨日は色々とありがとうございました。おかげで楽しい夜を過ごせましたよ。」


「トーマさん、こちらこそありがとうございました。私も貴重な経験をさせていただきました。」


「今度会う時はファネの酒場なんかどうだ?美味い飯と酒で盛り上がろうや。」


「ああ、ガルグ。もう泥団子はこりごりだよ。」


「がははは!そうだろうな!...じゃあまただな、旅人さんよ。」


 そう言うと、ウィルオン達は馬車を出発させる。


 ガラガラと座り心地の悪そうな音を立てながら少しずつ遠ざかる馬車から、ウィルオンがトーマに向けて声を張る。


「そうだ、トーマさん!商会主はコウスケ、ウッズ商会のコウスケ・ハヤシです!ではまたお会いしましょう!」


「ええ、またお会いしましょう!」


(ハヤシ・コウスケね、確実に日本人だな。農協を作った奴もそうだが、異世界転移者は日本人ばっかりなのか?)


 ほんの少しだけだが、この世界の真実に近づいた気がしたトーマは、フェリスと共に野営地を後にする。





「なぁフェリス、この国の外ってどうなってるんだ?」


 黙々と歩き続けて数時間、ただ歩き続ける事に飽きたトーマは、彼女に質問を投げる。


「さぁ?アタシは他の国に行ったことないし分からないわ。」


「そうか。俺はいずれガリアークを出て世界を旅してみたいと思ってるんだが、フェリスも一緒に行かないか?」


「はぁ?なんでアタシがアンタと?」


「いや、フォーシアにはフェリスみたいに強い奴もいるだろうから、興味ないかなと。それにフェリスは良いやつだから、一緒に来てくれたら安心だしな。」


 それを聞いたフェリスは、前を向いたまま「できるわけないでしょ...」と呟く。


『トーマ、それは性急すぎるかと。』


(分かってんだけどさ、多分フェリスはこのままここに居ても辛いだけなんじゃないかって思っちゃって...)


『推察ですが、今日トーマがうなされていた事と関連があるのですね?』


(確信はないよ。でも、フェリスは全てを諦めているような感じがするんだ。昔の俺がそうだったようにな。)


「まぁ、答えは急いでないからゆっくり考えてくれ。きっと俺には言えない悩みもあるんだろうしな。」


「...フン。」


 短く鼻で返事をしたフェリスはトーマとの会話を切り上げ、どこか思案顔で野営地を目指し歩く。





「はぁ〜、やっと着いた...こんなに歩いたのは西表島縦走以来だよ。」


 疲労困憊で、野営地に入るなり大の字で茜色に染まり始めた空を仰ぐトーマ。


『やはりランニングを日課にした方が良さそうですね。』


(明日から本気出すから、今は勘弁してください...)


「だらしないわね。そんなんじゃ世界を旅する前に死ぬわよ。」


 一方フェリスは慣れているのか、特に疲れた様子も見せず、トーマに尤もなツッコミを入れて焚き火の準備をしている。


「お、今回は焚き火するんだな!火は良いよな〜。」


「この辺りは野生の狼が出るから獣避けよ。」


 それを聞き、四隅にあるクリスタルを眺めながらトーマが問う。


「そう言えば気になってたんだけど、野営地に魔物は入れないけど動物は入れるって事だよな?魔物と動物は何が違うんだ?」


「体内に魔素を取り込むための魔核があるのが魔物。それがないのが動物よ。」


「なるほど...この世界の人間には魔核があるのか?」


「無いわよ。野営地に入れないじゃない。」


「あ、そうか。じゃあ魔核は何のために存在するんだろ?」


「分かってるのは、魔核を持つものは詠唱なしで魔法を行使出来るって事と、ある程度大きな魔核は魔道具に使えるって事。」


 またひとつ、トーマはこの世界のシステムを知る。


「魔法か...フェリスは使えるのか?」


「使えないわ。使えるのは魔術師の連中くらいなもんよ。」


「へぇ、じゃあ魔法は一部の人間の特権みたいな感じなのか。」


 そう言いながら、バッグから取り出した火打石で器用に火を着けるフェリスをぼんやりと眺める。


 そしてこの世界の文明レベルを知るためにも、フェリスに質問する。


「火打石を使うんだな。ライターは無いのか?」


「あるわよ。でもあんなの使うよりは結局火打石使った方が早いし。」


「フェリスの知ってるライターってどんなやつなんだ?油は使うのか?」


「使わないわ。穴に枯葉を詰めてバネで火花を落とすやつ。」


(それって確か平賀源内が発明したやつだよな。)


『刻みたばこ用点火器ですね。1772年に平賀源内が発明したライターで、ゼンマイバネで衝撃子を火打石に打ち付け、もぐさに点火する方式の物です。』


(てことは、少なくともこの国の文明レベルは1700年代くらいはあるって事か?)


『発展の仕方が異なるため、一概にそうとは言い切れません。魔法での点火方法も気になります。』


(まぁ今考えても仕方ないか。)


 トーマが思考モードに入っている間に、フェリスは段取り良く焚き火の火を大きくしていく。


 そして、薪をくべる彼女の手がピタリと止まり、ゴブリンと会敵した時のような冷たい雰囲気を纏わせる。


「どうした、狼でも...」


「シッ!・・・どうやら野盗に囲まれたみたいね。数は10人ほど。」


 そう言いながら武器を腰から抜き、体勢を低くして戦闘体勢に入るが、なにやらフェリスの様子がおかしい。


「なん...で...」


「フェリス、どうした?」


 小声でトーマが尋ねるも、立っているのがやっとという様子だ。


 焚き火に照らされた手はカタカタと震え、青い瞳は恐怖に染まり焦点を失っている。


(嘘だろ...フェリスがこんなに怯えるなんて。)


 野盗達は下卑た笑い声を漏らしながら、トーマ達に顔が見えるほどの距離まで近づいてきた。


「おい、フェリス。大丈夫か?」


 明らかに動揺しているフェリスに声をかけるが、彼女からの返事はなく、ハッ、ハッ、という呼吸だけが小さく聞こえてくる。


「おいおいおい、まさかこんなとこで再会たぁな。」


 野盗のボスと思われる人物が、ゆっくりと前に出てくる。


 長い金髪を後ろで束ね、くたびれた黒のダスターコートに身を包み、腰には刃渡1mほどの剣を佩いている。


 一見長身痩躯に感じるが、コートの上からでも分かるほど、身体は鍛えられている。


 そしてその昏く鋭い眼光は、その男が只者ではないという事を十二分に伝えてくる。


「ハッハッハッハッ!ようフェリス、元気でやってたか?」


 見下すような、しかし妙に親し気な雰囲気に、トーマは強烈な違和感を覚える。


「・・・ガトー・・・」


 フェリスは絞り出すように、その男の名前を口にした。


 先程までの強い戦士の雰囲気は霧散し、そこにいるのは膝から崩れ落ち、怯える少女だった。


 震える手から武器がすり抜け、乾いた音を立てて地面に落ちる。


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