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2◆新しい保護者?後見人?

◆新しい保護者? 後見人?


 ── キロウはただの専属侍女だけでも影だけでもない。家族でもあり姉の様だと言ったアルメニーにキロウは更なる忠誠と感謝をした ──






 私が公爵領に移動してから数日後。


「……そう言えば。アルが懸念していた通りのようだ。王都の元公爵邸だったタウンハウスに、不穏な輩が無理矢理入り込んだそうだ」


 執事の半蔵から、元公爵家のタウンハウスだった邸の後始末や、不動産から通いの管理人などの手配が終わったと言う連絡と共に、紙一重の差で叔父の男爵家族の情報が祖父の下へ入った。


 半蔵たちを筆頭とする影たちは、独自の能力やギフト持ちがいるようで、通常なら馬などを使う郵便物や輸送物なら数週間かかるし、馬車を使えば下手をすれば1か月以上かかる情報のやりとりを、こうして数日でもたらしてくれるのだ。


 どうやら原作と同じように現実世界での叔父の男爵家族も、アルメニーが幼くて公爵家の後継手続きのこともわからないだろうし切り盛りするのが大変だろうと、勝手に王都の元公爵邸だったタウンハウスに入り込んだらしい。


「おやまあ。しかもご丁寧に、請求書をわざわざ領地まで時間と料金を使って送りつけてくるとは」


「恥知らずにもほどがありますわね。お祖父様。お祖母様。


 カゲロウ。手間を取らせるけれど、タウンハウスの賃貸契約書を管理人に。管理費、維持費、新雇用人の給料、損害賠償請求書など、クロハラ男爵領と奥方のご実家へ送り届けてあげて頂戴」


「うむ。男爵の妻の実家はそこそこの商会だったはずだな」


「今後はあちらへ自動的に転送されるようにしておけばよろしいわ」


「かしこまりました、お嬢様、大旦那様、大奥様」


 カゲロウは、祖父母と私の3人分のお茶を用意しながら、王都にいる知人に連絡してくれるみたいだ。






 さらに数日後。


 領地の執務室で、王都にいる影たちから情報を受け取った半蔵が、最新の報告をしていた。


「クロハラ男爵は先週、タウンハウスで小さな宴会を開きました。招待されたのは主に側妃タビー派の貴族たちです。その席で、『近々公爵家の正式な後見人となる』と発言したとの情報が入っています」


 祖父は机を軽く叩いた。


「愚か者が。あの家はすでに賃貸物件だというのに」


 祖母が優雅に紅茶を一口すすった。


「あの家にはアルの両親達の思い出がたくさん詰まっているわ。汚されるのは我慢ならないけれど……時期を見計らわなければ」


 アルメニーは窓の外を見つめながら言った。


「彼らが支払わなければならない代償は、ただ金銭的なものだけではないわ。彼らが汚したもの ―― 両親達の思い出、公爵家の名誉、すべてを清算してもらおうかしらね」


 カゲロウが入ってきて、丁寧にお辞儀をした。


「お嬢様、大旦那様、大奥様。お言いつけ通り、タウンハウスの管理費と損害賠償の請求書を、クロハラ男爵領と男爵夫人の実家である商会に正式に送付いたしました」


「返事は?」


 祖父が尋ねた。


「男爵夫人の実家からは驚きと困惑の返信が、男爵領からは……無視という形の返事が返ってきております」


 アルメニーの口元がほんのりと上がった。


「そう。では次は、もう少し直接的な方法でお知らせしなければならないわね」






     *****






 一方その頃王都では。


 叔父のクロハラ男爵家族達は不動産屋の管理人しかいないのを不思議とも変だとも露ほども思わず、誰もいないのをいいことに図々しくも上がり込み、叔父は勝手に『公爵代理人』だと側妃の承諾だけで名乗っているそうだ。


 ここで口が酸っぱくなるくらい何度も説明して申し訳ないが。通常の貴族家当主の交代や代理や後見人についてなら、ある程度の権力を持った誰か一人に承認してさえもらえれば問題ない。


 問題なのは、本来の公爵家当主に関する任命は、王家と宰相と全四公爵家を筆頭とする元老会と当主が交代する公爵家の全親族達とで、国を挙げての会議が必要なのにも拘わらず、現実世界でも側妃タビーと手を結んだおかげで後ろ盾を得た叔父は、名目上だけでの公爵代理人を勝手に名乗って我が物顔でいるらしい。


 そのため、宰相はじめ、他公爵家や元老会はもちろん、サファイアブルー公爵家の寄り子である親族達からも嘲笑され、警戒されているのにも気づいていないようだ。


 こうして男爵である父方の叔父家族達は、元公爵家だったタウンハウスを手中にした。


 賃貸料やら維持費やら雇用した使用人の給料などを、何処の誰が払い続けているのかを把握もしないで。





     *****






 数日後、アルメニーは影たちを集めた。執務室には半蔵、才蔵、十蔵、カゲロウ、キロウ、さらにその下に付く見習いたちが整然と並んでいる。


「そろそろ動き始める時期が来たわ」


 アルメニーは一人一人の顔を見渡した。


「ただし、直接的な対決ではない。彼ら自身の行動が彼らを滅ぼすように仕向けるの」


 十蔵がうなずいた。


「宰相補佐として、元老会での動きを調整できます。クロハラ男爵の『公爵代理人』自称が、いかに法的手続きを無視しているか、そっと囁いて回りましょう」


 才蔵が続いた。


「神殿でも、神の名の下に正しい継承の重要性について説く機会を作ります。側妃タビーがどれだけ世俗的な権力に傾倒しているか、ほのめかす程度に」


 アルメニーは満足そうに頷いた。


「半蔵、カゲロウ、キロウ。あなたたちには別の任務を。王都のタウンハウスに、私たちの『目』を入れてちょうだい。ただし、絶対に気づかれてはいけないわ」


 3人と見習いの4人。7人が一斉にお辞儀をした。


「かしこまりました」


 計画は静かに動き始めた。十蔵の働きかけで、元老会ではクロハラ男爵の行動に対する疑問の声が少しずつ上がり始めた。才蔵の影響で、神殿関係者の間でサファイアブルー公爵家の正当な後継者についての話題が囁かれるようになった。


 そして影たちの手によって、タウンハウスには目立たない使用人として、アルメニーに忠実な者たちが潜入した。彼らは何もせず、ただ観察し、記録した ―― 男爵一家の浪費、無断での邸宅の改変、使用人への不当な扱い、すべてが細かく記録されていった。






 ある夜、アルメニーは祖父母と共に書斎で報告書を読んでいた。


「叔父は先月だけで、タウンハウスの改装に金貨を500枚(白金貨5枚相当)も使ったようよ」


 アルメニーはため息をついた。


「すべて自分の好みに合わせて。あの家の調度品の多くは、代々の公爵家当主が集めた美術品もあったのに」


 祖父の目に怒りの色が浮かんだ。


「あの愚か者め。次の請求書には、損害賠償額を三倍にしろ」


「そうしましょう」


 アルメニーは静かに同意した。


「でもそれ以上に重要なのは、彼らがどれだけ多くの敵を作っているかということよ。側妃タビーの派閥以外の貴族たちは、すでに彼らを軽蔑し始めている」


 祖母がアルメニーの肩に手を置いた。


「あなたはよく我慢しているね、アル。本来ならすぐにでも追い出すべき相手なのに」


「感情的に動いてはいけないわ」


 アルメニーは窓の外の暗い夜空を見つめた。


「影たちから学んだことの一つよ。最も効果的な一撃は、相手が最も油断したとき、自分自身の重みで転ぶのを待ってから与えるものだって」


 その言葉に、部屋の隅に控えていたキロウの目がわずかに輝いた。彼女はアルメニーの成長を誇らしく思っていた。わずか数年で、無力な少女から冷静な戦略家へと変貌を遂げた主人を。


 月が雲の間から顔を出し、領地の城を銀色に照らした。遠く離れた王都では、自分たちの没落の種をまき続ける男爵一家が、まだ勝利の宴を開いていた。


 アルメニーは知っていた。時期が来れば、すべての糸が一つにまとまり、彼女の手の中で完璧な網となることを。その時まで、影たちと共に、静かに力を蓄え続けるだけだ。


「キロウ」


「はい、お嬢様」


「明日の朝は早く起こして。格闘の練習をしたいから」


「かしこまりました」


 主従の会話が夜の静寂に消え、公爵領は再び深い眠りについた。しかし闇の中では、影たちが常に目を光らせ、忠実に主人たちを守り続けていた。


 アルメニー達は全ての情報を知ったが、あえて動かなかった。時期が来るまで、じっと力を蓄えるためだ。

 





     *****






 しかし実際8歳になると原作通りに、王命による第二王子との婚約届と顔合わせのための招待状が届けられた。


 日時は1か月後の2時。


 さあて、では領地から王都までかかる日数。新たな王都のタウンハウスの手配や、どの使用人を何人連れて行くのか。それと祖父母たちは長旅に耐えれないかもしれないし、領地のことがあるので、私と使用人と、道中の護衛騎士を新たに増やすための手配などを相談し合った。


 さらに招待状と同時にもたらされた情報は、国王陛下自らが承認した玉璽付き……は表向き。正妃が亡くなってから気落ちして病床についている王は動いていない。とは影から。


 現在、国王陛下に代わって執務を行っている側妃による要望なので、解消も破棄も認めてもらえないだろうと。


「むう……これでは王家だけが得をするではないか。可愛い可愛いアルを、身分が低い側妃の息子の、しかも評判も悪いクズ王子と婚約させるわけなかろうが」


「待ってください、お祖父様。


 第二王子がとても我が儘で癇癪持ちな上、側仕えの使用人たちに暴力を振るうと言う噂がありますが、噂はあくまでも噂。もしかしたら王家に敵対する神殿派や貴族派が流した悪意のある噂かもしれないでしょう?


 それに王命ですから。貴族の義務として、お断りするのは公爵家にとって良い事とは思えません。


 ですから実際に会ってみて、為人を判断してからでも遅くないと思いますの」


「確かにねえ。高位貴族であるわたくしたちが、噂だけで判断を早まってはいけないわね。


 アルが貴族として前向きに考え、覚悟しているのならいいわ。そう言う事なら、どちらに転んでも対処できるように何とかしましょう」


 ただ前世や乙女ゲームの強制力のせいで何れ婚約が破談になるだろうことは説明できないので、


「でも実際に第二王子が噂通りの性格で、公爵家にとっては利にならないと判断しましたら、例え王命とは言え、この婚約をいずれ解消か破棄して、婚姻まではできないだろうと考えてはいます」


 と、最悪の場合の考えをはっきり祖父母に主張した。


「お嬢様。でしたら丁度キロウが王都の知人の元にいるのですから、あの子にも動いてもらいましょう。


 宰相補佐をしている知人の邸で世話になっているはずなので、すぐに連絡しておきます」


 傍に控えていたカゲロウが、祖父母の目配せで心得たと案を出してくれた。


「ああ。ならば、王都のタウンハウスを新たに用意せずとも、あやつの下に世話になるのが良作だな」


「それもそうですわね。アル、新たに護衛や新居を用意するくらいなら、彼らの元の方が安全だし心配が少ないと思うわ。是非そうして頂戴な」


「それもそうですわね。でも、その知人に迷惑じゃないですか? もし、そうしていただけるならありがたいけれど……キロウには本当に助けられてばかりだし」


「なにを仰います。容姿のせいで虐待されていた地獄から救い出してくれたお嬢様に感謝と、返し切れない恩をあの子なりに返そうとしているだけなのですよ」






     *****






 あれは、私が4歳の頃のことだった。


 領地を視察中、薄汚れた路地裏で、赤い瞳の少女が何人もの子供達に囲まれ、罵声とともに髪を引っ張られ、蹴られたり石をぶつけられていた。彼女の瞳は、この国では『忌み子』とされる赤い色。そのせいで、孤児院でも町でも虐げられていたらしい。


 私は護衛騎士に命じて彼らを追い払い、少女 ―― キロウを保護した。


 保護したばかりの当初は、痩せ細り、瞳には諦めの色が浮かんでいた。抵抗もせずに素直に従う彼女を連れ帰り、食事と治療を施し、やがて彼女の持つ優れた観察力と忠誠心を知った。彼女は、自分を救ってくれた私に、一生をかけて仕えると誓ってくれたのだった。


 以来、キロウは最初は下女やメイドたちの見習いから。やがてカゲロウ達の下でアルメニーと共に教育を受け、公爵領と王都を行き来しては情報収集の任に就くことになった。


 彼女の白い髪は今ではわざと染めず、瞳も隠さずに、むしろ『特徴』として活用されている。王都の闇に紛れながら、私のために動いてくれているのだ。






     *****






 久々に訪れた王都で専属侍女となったキロウとの思い出にふけったアルメニーだったが、意気込んで婚約式の顔合わせを覚悟して王都にある宰相補佐官のタウンハウスに着いたのに、途端、知恵熱みたいなものに罹って寝込んでしまった。


 不本意ながら、計算したわけでなく侍女のキロウが私のふりをすることに決まってしまった。


「ごめんなさいね、キロウ。不甲斐ない主人で……」


「何を仰います、お嬢様。全てキロウにお任せくださいませ。必ずやお嬢様の本来の目的通りに、第2王子の人となりを見極めてきてごらんに参りますから。


 お嬢様は一刻も早く、ご病気を治すことにだけ専念してくださればよろしいのですから」


「そうですぞ、お嬢様。この半蔵がキロウの傍に控えます故、ご安心して快癒に勤めてくださりませ」


「ごほっ……ごほっ……ありがとう2人とも……婚約の事よろしくね……」


 私は侍女のキロウと執事の半蔵を始め、護衛騎士や影たちに婚約の事を頼むと、安心したのと医者に処方された薬の効果のせいで眠りについた……






     *****


※作者ルール異世界貨幣価値、他の人の作品では違うようだが、だいたいこんなもん?

※青貨   十円

※銅貨   百円

※銀貨   千円

※大銀貨  1万円

※金貨   十万円

※大金貨  百万円

※白金貨  1千万円

※大白金貨 1億円


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