建造
人類はその日、真の絶望を知った。前触れもなく空に現れた巨大な円盤。それが何者で、どこから来たのかはわからない。さらにそこから放たれたものが何で、どういう仕組みなのかも不明だった。もしかすると、ただの圧縮した空気の塊だったのかもしれない。
だが、結果は明白だった。
凄まじい爆風が発生し、円盤の真下を中心に半径数十キロが一瞬で更地と化したのだ。
街は消滅し、人々は吹き飛ばされた。範囲内にいた者は言うまでもなく、範囲外の者でさえ飛び散る瓦礫に巻き込まれ、無惨な姿を晒した。肉は裂け、目にはガラス片が突き刺さり、飛び出した内臓がまるで虫のように瓦礫や地面にこびりついていた。
そして、巨大な円盤――おそらく母船――から無数の小型円盤が飛び出し、四方八方へと散っていった。
彼らは山を削り、大地に穴を開け、海を吸い上げ始めた。その目的は誰にもわからない。迎撃に向かった戦闘機は、いとも簡単に撃墜された。
未曽有の脅威を前に、各国は核ミサイルの使用を検討した。しかし、爆心地を抱える被害国が強く反対した。冗談じゃない。迎撃されて爆発すれば、被害がさらに拡大するだけだ。
とはいえ、有効な対抗手段もなく、ただ国民を遠方へ避難させ、事態の推移を見守るほかなかった。
各国は被害国の意思を尊重し、支援物資や偵察部隊の派遣にとどめる一方で軍備を強化していった。強硬手段を避けた理由はもう一つあった。宇宙人たちは、今すぐ全世界を侵略しようとしているわけではない。そう判断したのだ。しかし、安心などできるはずもない。爆心地には、彼らの手によって何かが建設され始めていたのだから。
「いったい、奴らは何を作っているんだ?」
「きっと、大量破壊兵器ですよ」
「そんなものを現地で作るか? 駐屯地に決まっている」
「駐屯地なんて作らなくても、地球侵略など彼らには造作もない。どうにか和平の道はないものか……」
「弱気になるな!」
「他にどうしようもない。しかし、交渉しようにも迎撃装置が配備されていて、ガスが噴射されて近づけないのだ」
「しかも、円盤から降り立った連中の体格は我々の十倍はあるぞ。戦力の差は圧倒的だ……」
繰り返される会議もむなしく、宇宙人たちの工事は淡々と進行していった。
そしてついに、人類がその正体を知るときが訪れた。
建設されていたのは、巨大な駐車場――いや、駐船場だったのだ。
上空からさらにいくつもの宇宙船が次々と着陸し、完成した施設へ収容されていく。
その光景に人類は再び絶望した。これで明白だ。彼らは地球を植民地化しようとしているのだ。さらなる戦艦が続々とやってくるに違いない。征服の象徴として掲げられるいくつもの旗。再び動き出す巨大な母船。それがまた新たな被害を生むだろうと考えるだけで、人々は無力感に打ちひしがれた。
一方、その宇宙船内では……
「急げ、急げ! ああ、工期にだいぶ遅れが出ているぞ! これから会場を作らなければならないのに!」
「しかし、もう何人も過労死しています!」
「それでもやらなければならん! 上が決めたことだ!」
「あの中抜き大好きなお偉いさんどもめ。作業員にもっと報酬を回せってんだ」
「ああ、まったくだ……。何が『スポーツの祭典』だ。こんな金と労力がかかる催し、他の宇宙種族もやりたがらないのにな……」