どんぐりとリス
冬に目覚めてしまったリスのポッケは巣穴から外を眺めた。
外の世界はとてもしんと静かで、夏の間では考えられないくらい暗くて寒い。お腹がすいたけれど貯め込んでいたどんぐりはもうなくなってしまった。
秋にあんなに食べたのに、どうしてお腹がすくのかな。
試しに外に出てみた。
秋は下草や落ち葉で埋め尽くされていた森の地面は、今は雪に閉ざされていた。
どんぐりなんて見つかりそうにない。
ポッケはしばらく歩いて池の畔に出た。
池も凍りついて雪に埋もれていた。
夏には生命に溢れ、精霊達がイタズラに風を吹かして虫やポッケのように小さな生き物達を池に落とそうとする。けれども、今は姿を潜めているようだ。
冬には冬の精霊が現れるのだと聞いたことがある。だから、夏の生き物達も精霊も息を潜めて隠れているのだ。見つかったら一瞬で凍りつき生命をとられてしまう。
冬の精霊に注意しながら、ポッケは前に進んだ。
森の端っこにある丘の頂に辿り着いた。ここも雪で覆われて食べ物なんて見つかりそうにない。丘の上は風が冷たくて凍りついてしまいそうに寒かった。きっと冬の精霊が近くにいるんだ。ポッケは急いで丘の斜面を降りた。もっと進むもっと進む。
森を抜けた先には街がある。人が多く住むので、普段はあまり近づかない。けれども、民家に灯る光はとても暖かそうで近づいてしまった。
民家の窓から覗くと、暖炉のそばに椅子に座った老人がうとうと居眠りをしていて、側に犬がうずくまっていた。
ポッケは犬が嫌いだ。鼻が利いて遠くからでも吠えてくる。今もポッケが覗いているのに気がついたのか、目を開けて低く唸り始めた。
ワンワンワン!ワンワンワン!
犬に吠えられて、ポッケは大慌てで屋根の上に駆け上がる。
老人の「どうした」犬を宥める声が聞こえてきたが、しばらく犬は興奮したまま吠え続けていた。
あんなに大きな身体をして、こんなに小さな僕に吠えるなんて気が小さいやつだと悪態をつく。
屋根の上にも雪がたくさん積もっていて、冷たかった。足が凍えながら屋根の上に駆け上がるともう一つ窓があることに気がついた。
窓の中にはカラフルなパッチワークの掛けられたベッドが2つ。小さな女の子が2人、奥の小さな机に座って楽しそうにおしゃべりをしていた。
ふと、女の子の1人がポッケに気付いたようだった。
ポッケは慌てて隠れた。
しばらくして、その部屋の窓が開き、白い女の子の手からどんぐりが3つぽとりぽとりと雪の上に落ちた。
「秋に拾っておいたの。あなたにあげるわ」
そう言って窓を閉めてしまった。
ポッケはありがたくどんぐりを抱えて森の家へと持って帰った。
おしまい