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棲影鬼  作者: ゆきあさ
8/9

来ていただいてありがとうございます!



神宮司剣道場は白上山の麓、町の北東に位置する場所にある。


透は祖父と姉に相対していた。透達の両親は海外で仕事をしており、現在日本にいる透の家族はこの二人だけだった。透は千十星(ちとせ)を守るために深夜の外出の許可を二人から得ようとしていた。


「お願いします」

黙ってこっそり深夜に家を抜け出すという考えは透には全く無かった。だから事情についても正直に説明した後に手をついて頼み込んだのだ。


「影鬼か……」

「…………」

祖父、(たかし)は一言呟いた後、そして姉の(あや)は目を閉じた後それぞれに無言だった。


(信じられないだろうな。僕だってこの目で見てもまだ信じられない。でも、千十星(ちとせ)さんは今夜も……)


透は正座した膝においた拳を握り締めた。


孝は何か覚悟を決めたように立ち上がり、奥の部屋へ行った。そして再び戻った時には一振りの日本刀と古紙を束ねた書物を一冊携えていた。


「その時が来たら渡すようにと代々我が家に伝えられたものだ。私も父からそう言付かった。恐らく今がその時なのだろう」

孝はその日本刀を透の前に置いた。

「あいまいな口伝ねぇ……お爺ちゃん。誰に渡すのか、「その時」っていつなのかって全然分からないじゃない」

五歳年上の姉は呆れたように両手を上げてため息をついた。姉の言い分はもっともだと透にも理解できる。しかしトワの存在を知り、話を聞いた後ではやはり、という思いが強かった。


「私も言われた時は同じように思ったよ、彩。理由は一緒に渡されたこちらの書物に記されていた。昔、神宮司の家は山の神に仕える家々の一つだった」

孝は刀とともに持ち出してきた書物をめくった。

「山の神を祀り、神の代行として人に害なす存在と戦ってきたらしい」

「え?神様の代わりなの?それって神様が戦えばいいんじゃないの?」

「影鬼とは人間の妄執や悪意が集まって生まれる化け物だ。そして人に憑りついて悪事を働かせる存在だと記してある。そして元来、山の神が浄化し沼の神が封じ込めていたといわれている。しかしそれでは足りずに地の底よりあふれ出してきたものを我々が倒し鎮めていたのだよ。」

「え?そうなの?それじゃあ神様を手伝わないと駄目ね。っていうか人間(私達)がやるべきなんじゃないの?」


(山の神と沼の神は協力関係にあったのか……。それなのにどうして沼の神は七菜星(ななせ)さんに呪いを……?)



透は渡された日本刀を抜いた。青白い刀身が美しいと感じた。ずっと見ていると目が離せなくなるような気がしてそっと鞘に戻した。

「その刀は神から我が家が賜ったものだ。神に仕える家に一振りずつ与えられたのだ」

「え?」


(あのトワから……)


「なるほど。その家の代表者一名が神様の代行者を名乗れるという訳ね!うーん私もその影鬼とかいうのと戦ってみたかったわ。残念……」

「透が神と出会ったという事は今がその時で、透がその刀を持つのにふさわしいという事だろう。その刀で町を守れ」

「はい」

祖父の言葉に力強く頷く透。

「ふふ。でも透は町よりもその千十星(ちとせ)ちゃんを守りたいだけよねー?わたしもその子に会ってみたいわ。あと神様にもね」

姉のせいで緊張感溢れる雰囲気が台無しだったが、目的は達成されたので透は満足だった。





✧--------✧--------✧--------✧--------✧--------✧--------✧--------✧





午前二時の町。明滅する街灯が一瞬消え、再び点くと暗く重い空気が辺りに漂った。


「え?正直にご家族に話したの?」

千十星(ちとせ)は透の話を聞いて驚いた。まず信じてくれたことに。そして大事な家族を危険な戦いに赴くことを許してくれたことに。

「はい。この刀を借り受けられました。うちも昔は千十星(ちとせ)さんの家と同じように神に仕える家だったようです。ああ、千十星(ちとせ)さんはジャージも似合いますね。中等部のジャージか……。幼い感じでいいです」

「やだ。なんかこの子怖い……」

透の家の事を聞いて驚きはしたが、昔はこの辺り一帯は山の神か沼の神に仕える家が殆どだったと父から聞かされていたので、すぐに納得できた。だが、ジャージについての透の感想については納得できないものがあった。どうやらトワも同じだったようだ。


「奇妙な感性だな……。まあいい。懐かしいな。それは俺が渡してやった(ちから)の一つだ」

「やっぱりそうなんだ……。神宮司の家は代々あなたに仕えた家だったと教えられました」

「ああ、覚えているよ」

トワは懐かしい友のように透の手にある刀を見つめた。


「神宮司君のご家族に一度ご挨拶に伺った方がいいかしら」

「婚約の挨拶ですか?」

真剣に考えこむ千十星(ちとせ)と嬉しそうな透。

「だから!そういうのじゃないでしょ。もう!」

「違うんですか……」

「怪我はもうなんともないから、その話はおしまい!!」

「…………」


七菜星(ななせ)が好きなのになんでこんなこと言うかな?)


千十星(ちとせ)は仕方無いなぁとばかりにため息をついた。透の肩をがしっと抱き、トワが小声で語りかけた。

「おい透、千十星(ちとせ)は信じられない程鈍いんだぞ」

「わかってるつもりです」

「もっとはっきり言ってやれ」

「簡単に言ってくれますね……。けど、そうですね」

ひそひそと話し合う二人を睨んで千十星(ちとせ)が叫ぶ。

「なにこそこそ話してるの?来たよ!」

トワの張った結界の中、湧いて来る影鬼達に二人はそれぞれに向かって行った。


「ほう、中々の腕前だな」

「うん。実戦は初めてだろうけど、慎重になりすぎず油断もしてないね」

千十星(ちとせ)は油断しまくりで危なっかしかったがな」

「小さい頃のことでしょ!!」

千十星(ちとせ)もトワも戦いながら、透の初陣を見守っていた。




この夜に出現した影鬼を全て倒し終え、千十星(ちとせ)と透は二人で朝の町を歩いた。ちなみにトワはすでに七菜星(ななせ)の待つマンションに帰っている。

「ありがとう。助かったわ。でも怖くないの?」

千十星(ちとせ)さんがこんなのと一人で戦ってると思う方がずっと怖いですよ」

「神宮司君は優しいね。でもトワもいるから大丈夫よ?」

「……僕は優しくはないです。千十星(ちとせ)さんには一度ちゃんと分かってもらう必要がありそうですね」

「?」

不思議そうな顔の千十星(ちとせ)を見て透は苦笑を浮かべた。










ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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