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棲影鬼  作者: ゆきあさ
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来ていただいてありがとうございます!



(はあ、また送ってもらってしまった……でも今日は一応助けてもらったし、仕方ないかな……って、なんで私があそこにいたのを神宮司君が知ってるの?佳乃が教えたとか?)


学校からの帰り道、千十星(ちとせ)は隣を歩く透をちらっと見た。


(でも、そろそろ本当に私に関わるのをやめさせないと、この子の為にならないわ)


「神宮司君、今日もうちに寄ってく?」

「今日は七菜星(ななせ)さんは?」

「さあ?もう帰って来てるかもしれないし、まだかもしれないわ。あ、そういえば部活見学に行くって言ってたような気がする」


七菜星(ななせ)に会いたいのね。やっぱり七菜星(ななせ)はモテるわね……)


「……誰もいないんですね。……いいんですか?」

「ええ、いいわよ。七菜星(ななせ)もそのうちに帰ってくるでしょ」

「……じゃあ、お邪魔します」

何故かため息をついた透を見て不思議そうな顔をする千十星(ちとせ)だった。


「はいどうぞ。今日のおやつはおせんべいと緑茶」

木と暖色系の家具でまとめられたリビングルーム。ソファに腰かけた透は湯呑を手に取ってから千十星(ちとせ)を見つめた。

「ありがとうございます。いただきます」


(あ、やっぱりこの子は緑茶が似合うわ。所作がきれい)



突然、風が舞い起こった。

「おい、千十星(ちとせ)七菜星(ななせ)が男ばかりの部活のまねーじゃーになろうとしてる!俺は全力で止めるからな!」

「え? ちょっと!トワ……?!なんでその姿で……?」

トワは本来の姿で突然部屋の中に現れたのだ。千十星(ちとせ)は慌てて透を見たが、彼は平然としておせんべいを割って小さな欠片を口に運んでいる。

「大丈夫です。千十星(ちとせ)さん。彼から少し事情を聞きました」

「へ?」

「ああ、聞きたいというから話した。俺の結界をかいくぐり今朝の戦闘を見たそうだ」

「……!」

巻き込まないように関わるなと説得するつもりだった千十星(ちとせ)はすぐに言葉が出なかった。


「いくらでも言い訳できたでしょう?なんで正直に話しちゃうの?!無関係な人に話すなんて!」

「無関係」の言葉に少しムッとする透の表情に千十星(ちとせ)は気が付かない。

「そろそろ限界になってきてる。協力者が必要だ。じゃあな。俺は七菜星(ななせ)の元へ戻る」

「あ、ちょっ、トワ!!……っもう!!」

「もう、いなくなってしまったみたいですね」

「…………」

透の落ち着き払った様子に千十星(ちとせ)は当惑する。


(この子なんでこんなに冷静なの?)



「あのね、神宮司君」

「透でいいですよ」

「そ、そうじゃなくて、トワから話を聞いたのなら私達に関わるのは危ないって分かるよね?」

「とわ君は従弟じゃなかったんですね」

「っ!そ、それは……。とにかく、もう送り迎えとかは……」

「危険なのは千十星(ちとせ)さんも同じですよね?」

「わ、私は慣れてるからいいの!」

「そんなの理由になっていません。危ないというのなら、千十星(ちとせ)さんも彼に関わるのは止めるべきでは?」

そんな言い争いがしばらく続いた。




「神宮司君て頑固ね」

千十星(ちとせ)さん程ではないです。千十星(ちとせ)さんが戦いを続けるというのなら僕も一緒に戦います」


(最悪だわ……。この子には剣の技術がある。そして強い。だから関わってほしくなかったのに……)


千十星(ちとせ)は悠長だったことを悔やみ、唇をかんだ。

「私には引けない理由がある。神宮司君にはそれが無いでしょう?もしもの事があったらご家族が悲しむわ。だからもう」

「理由って七菜星(ななせ)さんにかけられた呪いですか?」

「……トワはそこまで話したの?!もう……!」


(そっか……。七菜星(ななせ)のことが心配過ぎて意固地になってるのね。七菜星(ななせ)は愛されてるわね……)


千十星(ちとせ)は長く息を吐き、少し肩を落とした。そして透の隣にぽすんと座ると膝を抱えた。いきなり近づいた距離に透の頬が少し赤らんだが、千十星(ちとせ)は全く気が付かなかった。

「詳しく聞いてもいいですか?」

「うん」

千十星(ちとせ)はそう言うとぽつりぽつりと話し始めた。


「白上山の山頂に神社があるの知ってる?あと白上町には沼があるでしょ?あそこにも。昔からこの町には二柱の神様がいて仲が悪かったの。


うちの家は代々山の神様に仕える一族だった。今は私達しかいないんだけどね。昔は町中がどちらかの神様を信仰してたんですって」


「聞いたことがあります。それぞれの神社にも説明書きがあったと思います」

透は自分の家は白上山の麓にありトワの姿が見えたことからも、自分の家は白上山を信仰する家だったのではないかと推測した。


「うちはね、そういう家の中でも中心的な立場の家だったみたいで、代々血筋の中から神様に仕える巫女が選ばれてたんですって。先代は私の母よ。そして今は私が巫女になるはずだった。長女だしね」

七菜星(ななせ)さんが選ばれたんですか?」

千十星(ちとせ)は首を振った。

「巫女は選ばれなかった。七菜星(ななせ)はトワの花嫁に選ばれたの。八歳の時よ」

「八歳で花嫁に?」

「あ、でも、お嫁に行くのは十六歳になってからよ?今は許嫁ってことかな。……そして同時に沼の神様に呪われたの」


「神様が人を呪う……信じられない……」

「うーん。正確に言うと呪いじゃないのかも。沼の神様は七菜星(ななせ)の力を封じただけだから。でも影鬼達は強い力に魅かれてやってくる。この町で今一番力が強いのは七菜星(ななせ)だから影鬼達は七菜星(ななせ)を狙ってやってくるの」

「そうか、七菜星(ななせ)さんは力を持ってはいるけど、封じられてるから使えない」

七菜星(ななせ)は戦うことが出来無いの。だから襲われたらひとたまりもないのよ」

「確かに、それは呪いと同じですね」


「ね?わかったでしょ?七菜星(ななせ)の事を心配してくれるのはありがたいんだけど、あなたが命を危険にさらす必要は無いと思うわ」

透は千十星(ちとせ)の話を聞いてしばらく黙り込んでしまった。何かを考え込んでいたようだったが、やがて立ち上がり、

「今日はこれで失礼します」

と帰って行った。


(これで何とか諦めてくれるといいんだけど)


千十星(ちとせ)はそう願ったが、その夜、透の意思の強さ(頑固さとも言う)を思い知ることになるのだった。








ここまでお読みいただいてありがとうございます!

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