転生(?)する前の世界
なにもない。
そう、ただただ平凡な人生だ。
クソブラック企業に入社し、毎日サビ残して家族も彼女もいない家に帰って寝る毎日。
転職したいが自分が周りより少し体が弱いせいで転職しても長く続かず結局クソブラック企業に戻ってくる。
やっと来た休日にやることもなくスマホで『現実から逃げる方法』などとくだらないことを調べてた。
大体こういうのにヒットするのは『新しい趣味を見つけよう』や『彼女を作ろう』などと言ったことだが俺には到底できない。だって飽き性だし。
そんな中に目を引くものがあった
『異世界転生』
とてもくだらない内容なのは知っているがアニメや漫画で見る異世界転生者はとても楽しそうだ。
興味がわいて詳しくしらべた。
やり方は簡単だった。ただ「この世界に飽きた!!」と叫べばいいらしい。
なのでちょっと叫んでみた。
『この世界に飽きた!』
だが、当たり前のように何も起きなかった。
くだらない、その時はそう思ってスマホを閉じて寝た。
次の日。楽しい休日はあっという間に終わりまたサビ残地獄の毎日が始まる
会社に行くために駅で電車を待っていた。
その時背中を押された気がした。
えっ?っと思っていると次の瞬間には全身に痛みが走った。
体が動かない。自分に何があったのかまったくわからない。
周りの悲鳴が聞こえる。なにがあったんだろう
意識が朦朧とする。死ぬのか?いいやそんなわけない。
でも体が思ったように動かず、動いたとしても痛い。
周りの悲鳴が聞こえるという状況からして自分に何かがあったことは確かだ。
これは絶対死ぬ。そんな気がした。
まだ死にたくない。彼女やまともな親孝行だってしたことないんだ。
その時一つ俺の中に浮かんだものがあった
それは昨日の異世界転生の話だその時の俺は必死に口を動かした。
痛みをこらえながら藁にも縋る思いで俺は途切れ途切れに叫んだ。
『この...世界に……人生に...飽きたんだ...!』
必死に言ったはいいが別のものが混ざっている気がする。
まぁ所詮気休めに過ぎない。
自分が死ぬ前なのにこんなに良く冷静でいられたなと自分を褒める。
痛みも何も感じなくなってきた。
ここで治った!と思うやつはいないだろう。
眠気が俺を襲う。
今までに感じたことのない眠気に俺は勝てなかった。
ここで俺の意識が闇に落ちた。そのあとの自分の事なんてさっぱりわからない。
だが、次に目が覚めた時には冷たい牢屋で自分の姿がいくらか若返っていることに気が付いた。
そして見た目も何かおかしい。
俺は生粋の日本人のため、黒髪だ。
しかし、今の俺はオレンジ色の髪だ。
ここまで来て一つの答えに至った。
ここは異世界なのかもしれない。
転生が成功したんだ!
それが、ここに、刑務所に来て初めて思ったことだった。