エピローグ
帝都を見下ろせる城のバルコニーで、朝日に照らされつつある街並みを眺めていた。
見張り台が燃えるように朝日で輝くと、少しずつ城壁を越えた日差しが家々を照らしていく。
戦場の街から共存の街へ、帝都は少しずつ変化していた。
共和国の同盟国となり、峡谷の方からたくさんの商人が街を訪れるようになった。
あの夜、俺たちが玉座の間で対決している間、キョウリのモンスター軍団とビョール率いる反乱軍との戦闘が、この眼下の街で起きていた。
そこには、リオンのモンスターたちも微力ながら参戦して、助けられた人間もいた。
まだ小さいが、リオンを筆頭に、モンスターたちもベギラスの基盤を支えてくれる存在になるだろう。
しかし、ほんの少し前まで戦争をしていた国だ。
眺めるうちに、手を入れたい箇所がいくつも出てきて眺めるのをやめた。
「お兄様……いえ、皇帝陛下、そろそろ時間です」
マトビアが俺を玉座の間に呼んだ。
玉座が置かれた壇上に上がると、整列した多くの帝国兵が見渡せる。壇上の脇に立つ執行官は少なくなったが、目を輝かせて俺を見上げていた。
俺は魔人から国を救ったことが認められて、皇帝となった。もともと平和論を唱えていたこともあり、俺のことを信じてついてきてくれる者は多い。
玉座に続く中央の道から、真新しい鎧を装備したアルフォスとリオンが、恭しく頭を下げながら壇上に上がった。
マトビアが二人を認めると、透き通ったよく響く声で高らかに出陣を宣言する。
「我が帝国の将軍である、アルフォスとリオンは、共和国とともに北の果てへ今より出陣する。大いなる成果と、遠征軍の無事を祈ります」
俺は白銀の剣をとり、跪いたアルフォスが上に開く手のひらに置いた。
アルフォスの耳元で俺は囁く。
「とにかく、無事で帰ってきてくれ。リオンは詳しいから、よく協力するんだぞ」
「……兄さん、手を尽くしてくれてありがとう……必ず戻ります」
アルフォスはキョウリによりバジデルク皇帝と同じように操られていた。しかし、その理由だけで無罪放免にすることはできなかった。
アルフォスは皇室から除名され、一般人となったのだが、俺が遠征と抱き合わせて、将軍に取り立てたのだ。
「リオン、アルフォスを頼む」
「わかっタ、心配して泣いたりするなヨ」
ニコッと笑顔になったリオンは、中道を戻って中庭に出ていった。アルフォスもそれに続いて、玉座の間を出ていく。
「マトビアの送信器を渡したから大丈夫だろう?」
と、マトビアに振り返ってみたが、そこには誰もいない。
「あれ? マトビアはどこだ?」
近くにいた執行官に尋ねると、バルコニーを指さす。
嫌な予感がした。
マトビアの婚約者を公言する議長の息子の顔が浮かぶ。マトビアには内緒で、いずれ食事会を開くことを条件に、色々と共和国側で動いてもらったのだ。
「しまった。バレてたのか……」
予感は的中して、バルコニーにマトビアの姿はなかった。代わりに、長い紐がバルコニーの手すりに結ばれて、ぷらぷらと踊っていた。
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