兵舎をつくろう
なるべく早くモンスターたちのすみかを作るために、急いで設計図を仕上げた。
一方で、ストーンが記録した北の樹海の地図について、リオンが補足する作業を行う。
というのも、何年も樹海の一部を縄張りにしていたリオンは、北の樹海の半分近くを詳細に記録することができ、今回の探索の結果として提出してしまおうという話になったからだ。
俺は兵舎の建築に取り掛かるため、拠点の空き地で目印の杭を打っていると、荷車を引いて街から戻ってきたアーシャとスピカに会った。
「ギルドに地図を提出したら大騒ぎになったんですよ!」
と、スピカがうれしそうに報告する。
どうやら、北の樹海の探索がこれほど進んだことはなく、ホーンの開拓という観点で北へ領土を拡げられるきっかけになったらしい。
アーシャは荷車にかけられた布を取った。
「それで、この報酬をいただいたわけ」
荷車には金塊と麻袋がたくさん積まれている。
「もう金貨じゃなくて、金塊になったのか」
俺は作業を中断して、アーシャの荷車を覗き込んだ。
「数えるのに時間がかかるから、ですって!」
金塊を見たことがないのか、スピカは興奮状態だ。
しかし、よくこんな重い物を浮揚なしで運んでこれたもんだ。
「その麻袋は何が入っているんだ?」
「ああ、リオンにモンスター達の食べ物を聞いたら、肉とキノコって言わたんで買ってきたんだ。まあ、この報酬はリオンが半分稼いだと言っても過言じゃないからね」
多少、疑心暗鬼になっていたアーシャも少しずつリオンとの距離を縮めているようだ。
まあ、初対面が散々だったスピカは全然だが……。
魔人やモンスターをすんなり受け入れられないのは、しょうがないことではある。
「ニワトリを買ってきてくれたのカ」
急に後ろからリオンが現れて、俺は驚いて振り向いた。
思わずスピカが「ヒッ!」と小さく悲鳴を上げる。
ギャッギャッ、とガーゴイルが空を飛び去るところを見ると、空から落ちてきたようだ。
「ニワトリというか、肉だね」
アーシャは麻袋の紐をほどいて中身を見せる。
「ニク!」
リオンは袋の中の肉と笑顔で対面すると、腕を振り回して小躍りした。
「ところで……フェア、私は暇になっタ! 何かすることないカ?」
「そうだな……石切場があるんだけど、そこから床材になる石を運んでくれないかな」
「わかっタ!」
肉を見て元気いっぱいになったリオンは、モンスター達を集まらせる。
ワラワラと雑木林から、寝ていたモンスター達が集まるのは圧巻だ。いったいどこに紛れていたのか、裏山の斜面や近くの茂みからモンスターが姿を現す。
これだけ人手があれば、すぐにできるだろう。
俺はリオンを通じてモンスターたちに指示を出した。
日を追うごとに着々と兵舎の形ができていく。
ある日、基盤と石柱を打ち込んだ敷地を前にして、リオンと屋根のつくり方について話し合った。
基本的には柱や梁に立って作業をするのだが、屋根の骨組みはガーゴイルに任せることにした。そうすれば機材も不要だし、かなり工期も短縮できる。
さらに、地上で骨組みを作っておいて、一気に屋根部分を結合させれば最短の工期でいけるのだが、ガーゴイルにも運搬重量の制限というものがある。
浮揚を使うと魔法を解いた時に屋根が崩れるかもしれないので、安易に使いたくない。
そうなるとどう考えても、今のガーゴイルの数では足らないのだ。
「ガーゴイルってこれ以上増やせないよね?」
「アア、増やせナイ」
断言するリオンを見て、ふと気になった。
「前々から不思議に思っていたんだけど……モンスターってどうやって増やすの?」
「……気合ダ」
気合って……。
俺が首を傾げていると、リオンが付け足す。
「魔力が体いっぱいになって、いけるナーってなったら、地面から呼び出す感じダ」
「……なるほど。とにかく、魔力が貯まらないとダメなんだね」
「そうだナ、今はまだいっぱいじゃナイ。ところで、マトビアだったカ、あの魔人はモンスターをつくれないのカ?」
「えっ?」
唐突な質問に、困惑した。
マトビアが魔人……?
「いや、マトビアは人間だよ。俺の異母妹だし」
「? イボマイ? イボマイってなんダ?」
「まあ、父親が一緒で母親が違う、腹違いの妹ってことだね」
「ウウ、よくわからナイ。人間には見えないガ……」
まあ、モンスターを怯えず、リオンを難なく受け入れるところが常人ではないんだが。
しかしそれでも、リオンは『マトビアが人間』ということに納得していないようだった。




