新しい仲間たち
北の樹海から数日かけて拠点まで移動したあと、一度リオン達は拠点近くの雑木林に身を隠してもらうことにした。
いきなり大量のモンスターとアーシャたちを会わせるのはマズい。俺は移動の間に、リオンの紹介の仕方をストーンと話し合って決めていた。それもこれも、大量のモンスターを拠点に住まわせてもらうためだ。
その日の夕食前、食事の部屋でアーシャとマトビアが雑談していた。
ちょうどいいタイミングだ。
スピカの料理がくるまで、俺とストーンは今回の冒険の成果を説明した。
「しかし、北の樹海の奥までよく踏み込んだわね。フェア皇子を連れているんだから、こんなに深く入り込まなくても……」
アーシャは今回の探索で書き込まれた地図を見てつぶやいた。
「まー思っていた以上にガーゴイルを倒せたからな、見つかるリスクはほぼなかった。それでだ……北の樹海に入りこんでみたらな、あるモノに出くわして」
「え……? なによ、ドラゴンとかいうんじゃないわよね」
おお……。
さすが魔女の勘、恐るべしといったところか。
遠からずもほぼ正解だな。
ストーンもちょっとびっくりしている。
「ま、まあ……そうだな……」
「え! 冗談で言ったつもりなのに! で、大丈夫だったんでしょ?」
アーシャが驚く一方で、マトビアが目を見開く。
「まぁ! あの伝記や物語に登場するドラゴンですか!? 実在するのですね!」
好奇心旺盛なマトビアとアーシャは対照的だ。
吸い寄せられるマトビアと引くアーシャ。
「……それで、まあ、あれだな……なんだったか……」
と、ストーンが言いにくそうに俺を見た。
あたふたしているわけでもなく、ぽかんとした顔で、俺に全振りした様子だ。
説明を諦めるのが早すぎる……事前に長い時間をかけて、ストーンに覚えてもらったのに……。
大量のモンスターたちを拠点に住まわせるためには、ストーンの熱心な説得が一番なのだ。
女性三人はモンスターと一緒に暮らすとなると、絶対に拒否するだろう。
だが、大量のモンスターを雑木林にずっと隠すわけにもいかない。拾って来た猫じゃないから、食料だっていっぱい必要になるし、どこかの冒険者にみつかれば町に噂が拡がる。
だから、どうしても拠点に住処を用意する必要があった。その承認を得るための説得方法をストーンには何度も説明した、はずだが……。
「はあ……。しょうがないな」
俺は立ち上がると、外に繋がるドアを開けた。
ぴょこっと入ってきたのはリオンだ。
「……えっ?」
「わあっ!」
アーシャとマトビアの反応は、驚きと困惑。
本当はストーンから経緯を説明してもらい、了承をもらってからの流れだったが、もう見てもらった方が早いだろう。
俺は用意していたいくつかの対応案のなかで、マトビアに標的を変えた。
「リオン、自己紹介をしてくれ」
「オオッ。私はマリアに育てられた元魔人の、リオンだ」
「『どうぞ、よろしくお願いします』」
「どうぞ、よろしくお願いしまス」
事前にリオンに仕込んでおいたように、リオンは頭を深々と下げる。
アーシャは硬直したままリオンを遠くから覗き込んでいた。しかし、マトビアは駆け寄ってきて満面の笑顔をリオンに浴びせた。
「カワイイー! 髪が綺麗ねーっ! 私よりも肌が白い人を初めて見たわ!」
「オオ……」
マトビアのはしゃぎように、リオンも面食らっているようだ。
よしよし。イイ感じだ。
俺はリオンに片目を閉じて合図すると、リオンはそれに気づいて、仔犬みたいに頭を傾けて可愛い素振りをする。
「まー、ドラゴンにやられちまったあと、助けられたんだ。ミーナが育てていた『元魔人』に」
「ミーナが助けた……あの子ね……まさか、また会うなんて」
過去を振り返るアーシャを背に、マトビアはリオンに触れたくて仕方がない様子だ。
「ねぇねぇ、このツノ触ってもいいかしら?」
「アア、いいけど、リボンは触らないでクレ」
二人のじゃれ合う様子を遠目にしているアーシャにストーンが話しかける。
「なー、リオンに助けられたってのもあるんだが、こいつを拠点に住まわせてやろうかと思うんだ。なんか、ドラゴンに追い出されたみたいで。それにミーナが亡くなる直前まで、面倒をみていたそうだから……」
「もちろん、私はいいわよ」
一番気になっていたアーシャが頭を縦に振る。
「マトビア様も気に入っているようだし……」
よし!
待っていたアーシャの言葉を頂いたあと、俺はリオンに目配せする。
すると、リオンは目の前にいるマトビアの手を握った。
「ジツは……私のシモベ達もいるんダ。みんな可愛くて、いい子だから、一緒に住まわせてくれないカ?」
潤ませた目でマトビアに上目遣いをすると、そっと両手で手を包んで嘆願する。
「えっ……? そうなの? 私は構いませんが……」
すると、リオンの目がキラリと光り、幼げな表情が策士のような、したり顔に変貌した。
外のドアが開くとそこからぞろぞろとゴブリンたちが入ってきた。
「うわっ! モンスターだ!」
慌てて魔法を唱えようとしたアーシャをストーンが止める。
「待て待て、攻撃するな。リオンの家来なんだよ」
ずらっとゴブリンたちが整列すると、食事をとっていた部屋はゴブリンで満杯になった。しかも入れなかったモンスターたちが、ドアの外にずらっと並んでいる。
「これが私のシモベ達ダ。どうぞ、よろしくお願いしまス」
リオンの言葉に続いて、律儀にモンスター全員が頭を下げた。
「さあ! できましたよー。今日は多めに作りました!」
と、キッチンからドアを開けたスピカは、大量のモンスターを目の前にして卒倒してしまった。