麻痺コワイ
「あっ、起きた!」
目を開くと、アーシャが俺を見下ろしている。
「ううっ……」
少しの間、気を失っていたようだ。
「約束を守らないからだよ」
「はい……」
「麻痺はかなり弱くしておいたから、今度から注意するように!」
たしかに、気を失っていたのは三日三晩というわけではなく、ほんの一刻の間だけのようだ。
「すみませんでした! 以後、気をつけます!!」
「よろしい」
アーシャはそう言って、拠点を出て行った。
ふーう……容赦ないところがアーシャさんらしいな……。
「あら、お兄様。おはようございます。今日も天気がよろしいですね」
「やあ、マトビア。……もう少し早く起きるようにしたほうがいいんじゃないか……?」
「……もしかして何かありましたか……」
女性専用エリアに立ち入ったことは話せないので、愚痴はこの程度にして、マトビアから送信器を受け取った。
母の作業部屋に持っていき、ちょっとだけ分解してみる。
複雑な機構だな……。
タービンと同じようにハンドルをグルグル回すと、一時的に活性化されて動き出すようだ。
部屋に保管されていた設計図を見つけると、その一時的な動力が電気といつものであることが分かった。
「電気か……それが金属を伝って、伝文を飛ばすんだな。たぶん、受信塔も同じ仕組みで電気が必要ということか」
今度は、外にある受信塔に行ってみる。
原理はよく分からないが、送信器と比べてみておかしな点はない。いわば受信塔は送信器を大きくしたものだ。
「同じように電気というものが必要なのでは?」
ところがどこにもタービンのようなものはない。
代わりにつながっているのは樽のような容器で、金属の棒が2本刺さっている。
樽に入っている液体は、水じゃないな。
「ぬおーっ! よく分からないな!」
下手に触らない方がいい。
もう少し調べてからにするか。
「何をしてるの?」
急に耳元で声がして振り向くと、すぐ近くにアーシャの大きな瞳があった。
「うわぁ! なんでここにいるんですか」
「いやーもしかして、フェア皇子がまた女性専用エリアに入ってこないか監視していたの」
こわ!
「あの件は、マトビアがもっていた送信器が必要だったからですよ!」
「あれ、そうなの? なんだ、てっきり下着でも盗みにきたのかと……」
「違います!」
アーシャは俺がいじっていた機械を上から覗いた。
「あー……これ、よくミーナに充電してって言われてたな」
「じゅうでん……?」
「うん。こうやって……麻痺!」
ビジッと硬いものを叩きつけるような音がすると、受信塔の横についている木箱のなかの小さなランプが光った。
「おおお! すごい!」
「エヘッ! すごいでしょ」
送信器を回して、小さなハンマーを叩くと、木箱にある太鼓のような膜から打撃音が響いた。
大きな音で、思わず俺とアーシャは耳を塞いだ。
「音でかいな……」
「うるさーい」
たぶん近すぎるからだろう。
もし伝文がフォーロンから送られてきても聞こえるに違いない。
「あとは、暗号みたいな打撃音を言葉に変換すればいいわけか」
変換表を取りに拠点に戻ろうとすると、打撃音を聞きつけたマトビアと鉢合わせになった。
「さすがお兄様ですわ! 受信塔を直したのですね!」
「へへ……。偶然だけど、アーシャの麻痺が必要だったようだ」
「うふふ……これで手紙がやりたい放題に……」
思わずマトビアの口端からよだれが垂れる。顔を真っ赤にしたマトビアは慌ててハンカチで拭った。
面白かったら、ブクマ、★評価をお願いします。




