新しい拠点
拠点で朝を迎えて、背伸びをすると鈍い痛みが走った。
「全然寝れないな……」
薄い木綿の布の上で初めて寝た。
船には備えつけのベッドがあったし、安い宿でもベッドがないということはなかった。
「ストーンはすごいな」
俺の横で熟睡し続けている。元冒険者の経験値というのか、このまま寝れない日が続くと、深刻な状況になるのではないか。
すぐにでもホーンに行って、ベッドなどの家具を揃えないと。
ストーンが起きると、俺たち二人でテーブルを囲い朝食をとる。
パンとスープだけ。少ないがないよりはましだ。拠点に移ることを優先していたので、食材などもない。
これもすぐに揃えないとな。
「それで、フェアはどうするんだ?」
「えっ?」
「ミーナが息子のお前を俺のもとに送ったということは、ミーナは俺のことを責めていないし、ちゃんと認めていることが分かった。俺も踏ん切りがついたし、再びモンスター退治をするつもりだ」
ストーンは前に進むことを決めたのか……。
俺はどうなんだろう。
母は平和のために戦ってほしいと思っているだろうな。だが、ホーンにいると、どこもかしこも平和に思えた。
モンスター退治をすることにそれほど興味はない。
なにせ、俺には武器もないし、攻撃魔法もほとんどない。
「まあ……とりあえずは、拠点の基盤整備をしようかなと」
「き、きば……きばせいび……」
「そうですね、水もでないみたいですし、キッチンもかなりひどい状況みたいですから」
「んー。そういうことか。たしかに、だいぶんガタがきちまってるからな……」
ストーンをギルドに送り出して、俺はとりあえず全部の家具を浮揚で外に出し、風力と水力で床やら壁やらを全て綺麗にする。
「うわー……めちゃくちゃ汚いな」
そういえば、女性専用エリアはどうなっているのだろう。
気になるが、スピカがいるからきっと大丈夫か。
汚れを外に出すと、床のタイルも綺麗に磨かれて新品同様になった。
「さて、ホーンに買い物に行くか」
金貨袋を持って、拠点を出る。
拠点には高さのある門があり、錠前もかなり立派なものだ。
「『開錠』が効かないな」
鍵と回転盤の二重錠になっているので、俺の魔法でさえ開錠できないようになっていた。アーシャがマトビアのために事前に強化していたらしい。
拠点の丘をおりて、ホーンに着くとさっさと家具やら食料を買い込んだ。もちろん、フードを被って顔が分からないようにした。
買い物も即決でどんどん買って、なるべく店主と目を合わせないようにする。
議長のバカ息子の一件があるからな……。俺がバレると、マトビアにも迷惑がかかるし。
すべて荷車に入れて浮揚をかけて軽くし、拠点の門に戻った。
俺は渡された鍵と暗証番号を使って門を開けると、施設に家具を並べて行った。
「あとは水だな」
枯れた井戸が施設の裏にあったので、水力で水脈を探る。
「よしよし、……手ごたえがあるぞ」
ぐっと、魔力を集中させると間欠泉のように水が井戸から飛び出てきた。
「おおっ……!」
土砂を押し上げた圧力で水が噴き出てしまった。
魔力を弱めて井戸を復活させ、とりあえず生活用水として使えるように、大桶へ水をためた。
「いずれタービンを使って自動化をしたいな」
施設には母が使っていた道具もあるので、それを使えばできるかもしれない。
もう日が暮れ始めたので、施設に戻るとスピカがキッチンに立っていた。
「朝はすみません。なかなかマトビア様に起きていただけず……」
「いや、スピカはマトビアの付き人なんだから、俺のことは気にしなくていい」
「いえいえ、そんなわけには……。しかし、キッチンが綺麗になりましたね!」
「そうなんだよ。食材も買って来たし」
「私も買って来たので、今日の夜は豪華にしましょう!」
スピカはそう言って、腕まくりをした。




