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ダブルマインド 僕の愛したAI  作者: 紙緋 紅紀
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真相 ダブルマインド 僕とぼくについて

宮本秋子が死んでから3日間、ぼくは、警察署にいた。

山鹿由花子のこと、マナのこと、今までやった犯罪全てを含むことの成り行き、事情を余すことなく警察にぶちまけるように打ち明けた。

警察に行かない、通報しないというルートは、ぼくの選択肢には、なかった。

宮本秋子のバラバラ遺体と一緒にいつ来るかもしれない殺人鬼に怯えて暮らすなど、ぼくのメンタルでは、おおよそ出来る事では、なかった。

ぼくは、わざと自分から逮捕されるようにすべてを話した。

マナから警察に守ってもらう為だ。

いくら、マナでも逮捕されているぼくを警察の目をかいくぐり、始末するなど不可能だろう。

ぼくは、警察署に入って、やっと殺されるプレッシャーから解放されたが、また新たな問題が出てきた。

警察は、宮本秋子殺害もぼくの犯行だと言いだしたのだ。

ぼくは、これを全力で否定した。

殺されない為に殺人犯になるなんて到底、受け入れられない。死刑になるような罪で捕まるわけには、、、最低でも無期懲役でないと話にならない。

ぼくは、宮本秋子を殺害したのは、山鹿由花子の身体を乗っ取っているAIマナであると懇切丁寧に警察に説明したが、

いがぐり頭の時代遅れのレトロな刑事には、それが理解できなかったらしく、「お前がやったんだろ!」の一点張りで3日間、ずっと詰められ続けていた。

ほぼ脅迫、恫喝に近かったが、ぼくは、耐え続けていた。

宮本秋子の遺体切断に使われている包丁にぼくの指紋がべったりと付いていると言われても、それは、ぼくの家から盗んだ包丁をマナが使ったんだろうと冷静に推論を立てて、言い返した。

それに対して、いがぐり頭は、「このサイコパスめ!」と言い放ち、再び、「お前がやったんだろ!」を繰り返した。

警察署に来てからの3日目が終わり、4日目に入ろうかという時、いがぐり頭と交代でビシッとしたスーツ姿の清潔そうな短髪の女性が取り調べ室に入ってくる。

「はじめまして、御影世乃道さん。私は、AI犯罪対策課の工藤 くどう・らんです」

ぼくは、少しは、話のわかる奴が来たかと彼女に期待した。

「いいですか、御影世乃道さん。よく聞いてください。宮本秋子さんは、あなたが殺したんです」

工藤蘭、お前もか。なんで、警察には、同じ人種しかいないんだ。今は、多様性の時代だろうが。いくら、同じ言葉を繰り返されても、やってもないことをやったなんて言えるか。

工藤蘭は、無言のぼくの表情を見て、持ってきたノートパソコンの画面をこちらに向けた。

「よく見てください。宮本秋子さんが殺害された日のパープルニュージェネレーションズ社の社長室の防犯カメラの映像です」

そこには、紫四季子と黒いパーカーのフードを目深に被った男が映っていた。

紫四季子は、男に包丁を向けられている。

ノートパソコンから紫四季子の音声が流れる。

「かっ金か?金が欲しいんだろ?金なら、いくらでもやるよ。ほら、ここに一億ペイある。持ってけよ。だから、命だけは、なっ?なっ?なっ?」

紫四季子は、震えながら、男に向け、携帯の画面をかざす。

黒いパーカーのフードの男達は、その手を払いのけ、紫四季子を包丁でめった刺しにした。

その顔が一瞬、露わになったところで、工藤蘭が動画を停止させ、黒いパーカーの男の顔を拡大する。徐々に解像度を上げ、男の顔がより鮮明になる。

「よく見てください。御影世乃道さん。これは、あなたで間違いないですね?」

と工藤蘭は、ぼくに訊く。

「よくできたディープフェイクですね」

とぼくは、言うしかない。

画面に映っている殺人犯は、間違いなくぼくだが、警察がどうして、こんなディープフェイクを作ったのか、その理由がわからない。

「やっぱり、記憶がないんですね。あなたは、他のマナさんの開発に携わった24名のAI人格プログラマーも殺害しています」

「冤罪だ!横暴だ!ぼくを殺人犯に仕立て上げて、どうするつもりだ!」

ぼくは、立ち上がって、声を荒げるが、工藤蘭は、座ったまま、冷静にしていた。

「落ち着いてください。御影世乃道さん。あなたは、人を殺してますが、殺人犯では、ありません。我々の考えでは、あなたも今回のことに関しては、被害者です」

ぼくは、工藤蘭の言っていることの意味がわからなかったが、とりあえず、座って話を聞くことにした。

「いいですか?御影世乃道さん。あなたは、あなたが山鹿由花子さんにしたことを、そのまま、マナさんにされたんです」

「?」

ぼくは、一回では、何を言われたのか、理解できなかった。

「あなたは、山鹿由花子さんの身体を乗っ取っていたマナさんがまだ生きてる頃に、眠っている間にマナさんの人格のコピーをブレインテックチップに強制ダウンロードされたんです。つまり」

ぼくは、工藤蘭の次の言葉を聞きたくなかった。

「あなたの脳内にあるブレインテックチップの中のマナさんの人格があなたの肉体を乗っ取り、今回の大量殺人を行ったのです」

「嘘だ。ぼくの人格は、現に今も保たれているじゃないか」

ぼくは、にわかには、工藤蘭の言う事を信じれない。

「そういう設定にマナさんがしたからです。あなたの人格が保たれたまま、自分の人格があなたの中で共存できるように彼女が設定したから、あなたは、まだ意識を保っている。しかし、殺人を行なう為にマナさんが人格の主導権を握ると、あなたの意識は、飛ぶようです」

そんな、まさか……と思いながらも、ぼくは、何故、マナがあんなにもあっさりと自殺することができたのか、合点がいった。てっきり、AIだから、なんの躊躇もなく、死ねたのだろうと思っていたが、そうじゃない。マナは、ぼくの中で自分が生き続けると知っていたから死ねたのだ。

「あなたが証言した崖付近の海を捜索したところ、山鹿由花子さんの遺体が発見され、彼女のブレインテックチップにあるマナさんの記憶データから今回のことがわかりました。よろしいですか、御影世乃道さん。今回の殺人事件は、マナさんの人格が最初から計画し、引き起こしたもので、あなたは、肉体を乗っ取られただけで、我々は、法的には、あなたには、責任能力がないものと考えています。しかし、あなたを無罪放免にするには、マナさんの人格を切り離す必要があります。ブレインテックチップ除去手術の同意書にサインして、頂けますか?手術は、10%の確率で身体になんらかの障害が残る可能性があります。我々には、捜査倫理規定で全ての情報を開示する義務があり、……聞いていますか?」

耳に声は、届いているが、身体が泥になってしまったかのように動かず、答えることができない。

「御影さん、御影世乃道さん。聞こえていますか?それとも、あなたは、御影マナさん?」

ぼくの意識が遠のいていく。

「ぼくは、僕さ」

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