一緒の墓に入ろうか
注意事項1
起承転結はありません。
短編詐欺に思われたら申し訳御座いません。
注意事項2
恋愛部分増やしたいので、少し描写増やす予定です。
付喪神となって世を流離い、今は歳若い彼女が主人となった。彼女は日本刀から人型になった私の姿を一目見ると、なんの挨拶もせずに瞬き一つした。それからはまるで、私の存在など無いものとして、日々を過ごしていた。
起床して、出掛けて、戻って来て、床に就いて。その繰り返し。観察していたのは、起床と就寝のみ。けれども部屋の外から聞こえる物音は、彼女が何をしているかを、ありありと伝えて来た。早朝出掛ける時の引き戸の音も、昼時に台所で料理する音も全て。
ある時、何時もの様に彼女の寝顔を真上から見下ろしていると、唐突に目が見開いた。彼女は私の顏を暫く見詰めると、痺れを切らした様にぽつりと一言。
「何時まで見てるの」
「あぁ、知らないか。私の日課なんだ。君の寝顔をじいっと監察するのは。だから君が起きるまで」
当たり障りのない、にこにこの笑顔でそう返すと、彼女は不機嫌そうな顔でその場を去った。しかし襖から象られた影越しに、ぽつりと一言。
「次やったらお前の呼び名、『物干し竿』に変えるから」
その忠告を受けてからも、私は彼女の寝顔を監察し続けた。夢の内容をひっそりと胸に書き留めて、切り捨てた。時折顔に掛かった髪を払ってやると、擽ったそうに寝返りを打つ。
寝顔を見られたく無いのならば、部屋を変えればいい物を。しかし彼女は断固としてこの部屋を寝室と決めていた。必ず此処に戻ってきて、昼間に寄った眉を解し、子供のような顔で眠りにつく。その様を見て、憎らしいと思う事はなく。
「やぁ、おはよう」
「……なぁに。物干し竿」
二度目。二度目に目を合わせた時には彼女は宣言通り、私の事を『物干し竿』と呼んだ。仏頂面のまま、さっさとその場を去ろうとするのを裾を掴んで引き止める。日々の周期を監察するに、今日は何処へも出掛けないはずだ。どうやらその予測は当たったようで、彼女は私の手を振り払う真似はせず、大人しくしている。
「君の行動は不可解な物が多い。私を認識しているのに、あえて相手にしない。寝顔を見られたくない癖に、寝室は何時も此処を選ぶ。そうして何より気になったのは呼び名を『変える』。私の事、別の呼び名で呼んでいたんだろうね。さて、なぁぜ?」
彼女は溜息を着くと、脚を崩して此方を向き直る。今度は彼女の方から目を合わせてきた。目は歳若い割に精悍で、野武士のような眼光があった。威嚇したつもりだろうが、その目は見慣れている。
「じゃあ順繰り質問に返そうか。まず、お前を見て見ぬふりしていた理由。見られる事に、呼ばれる事に、存在が固定される。お前、私如きに縛られたくは無いだろう」
「いいや? 全く」
「……そっ。じゃあ次、寝室を変えない理由。お前がいると悪夢を見ないから」
「余計な物は全て斬り殺したからね」
胸に彼女の夢の内容を書き留めて、切り落とす。私が戦場を引退してから、この方法が主軸となった。なに、斬ることしか出来ない故。
「最後。確かにお前に別の名前を付けて呼んでいた。『物干し竿』なんて名前じゃない。本当はもっと……。でも教えてやらない。これは私の気持ちの問題」
彼女は陰りの差した目をした後、黙って目を合わせて来た。
「死ぬという行為は永遠に眠り続ける行為だ。私が死んだら、お前はきっとその形を保ったまま、この世界を流離うんだろう。……私の傍にはいない。悪夢を切るも者もいない。だから別れが苦しくないように、名付けた名前で呼ばない」
「じゃあ一緒の墓に入ろうか」
私がそう返した時の彼女の反応が今も忘れられない。
解読まではいきませんが、所々に小さな伏線を忍ばせました。
初めて会った時から、かなり気になってそうだなー。
でも相手人外だし、死んだらサヨナラしちゃうから、あえて目に入れないようにしてそう。
名付けると愛着が湧くから、何時か離れるものに名前を付けるもんじゃない。
って何処かの小説で読みました。確かお父さんが娘さんに言った話かと。
それは『縛られたくないだろ?』って聞いたところからもお分かり。
肯定してくれたら、きっと同じように見て見ぬふりしてそう。
でもあっさり否定されてしまったから。
今までの君の好意を、照れ隠しを全て肯定してあげよう。
という意味での、『一緒の墓に入ってあげる』です。