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第三話


 俺に石をぶつけた奴には、兄貴がいた。高校生の兄貴。しかも、素行が悪い兄貴。


 その高校生は仲間を三人連れて、早速、弟の報復に来た。


 当然だが、俺は滅茶苦茶にやられた。小学校五年の俺が、高校生四人に勝てるはずがない。必死に抵抗したが、手も足も出なかった。


 夜、母さんが帰宅した。俺の腫れ上がった顔を見て、青ざめた顔で「どうしたの!?」と聞いてきた。


 母さんは、俺を育てるために必死に働いている。まだ子供の俺を一晩中ひとりにはできないから、夜勤はしない。その分だけ、勤務時間を長くしている。


 働いて。必死に働いて。母さんだって疲れているんだ。


 もし、()()()()付き合っていた彼氏と結婚していたら。こんな苦労はしていなかっただろう。


 でも、彼氏との関係は、俺のせいで壊れてしまった。

 そんな俺が、母さんに心配をかけるわけにはいかない。


「クラスの奴と喧嘩したんだ。大丈夫だよ。四人相手だったけど、俺、勝ったから。俺以上に、あいつらをボコボコにしてやったから」


 無理矢理笑って、俺は嘘をついた。本当は、何もできなかった。高校生四人に、一方的に殴られた。


 そんなこと、正直に言えるはずがない。


 同級生の兄貴は、その日以降、頻繁に俺に暴力を振るうようになった。立場が上になって調子に乗った同級生が、暴行に加わることもあった。


 怪我をするたびに、俺は母さんに嘘をついた。


 老害共が俺達の悪評を吹聴していることは、母さんも知っている。そのせいで俺に友達がいないことも知っている。


 だから、母さんが俺の話を疑うことはなかった。


 とはいえ、母さんを心配させてしまうことに変わりはない。


 状況を変えるために、俺は、クラスの担任に相談した。同級生とその兄貴に、暴力を振るわれている。先に石をぶつけてきたのはあっちなのに、仕返しがあまりに陰湿で執拗だ。


 結論から言うと、これは悪手だった。担任は、同級生に軽く注意しただけだった。反省を促す注意ではない。ただ逆恨みを増長させるだけの注意。


 その日から、俺の本当の地獄が始まった。


 毎日毎日、同級生やその兄貴に待ち伏せされた。毎日暴力を振るわれた。顔が腫れ上がると母さんに心配を掛けるので、頭だけは必死に守った。体中に痣ができるほど、執拗に殴られ、蹴られた。


 悔しくて悔しくてたまらなかったが、俺は、逃げることを選択した。高校生を相手に喧嘩で勝てるはずがない。しかも、あいつらは数人で襲ってくる。


 俺は足が速い。大抵の場合は、自宅に逃げ帰ってやり過ごすことができた。


 反面、捕まったときは地獄だった。逃げられたときの鬱憤(うっぷん)を晴らすように、あいつらは暴力を振るってきた。必死に抵抗したが、どうにもならなかった。顔に怪我をしないよう守りを固めるだけで、精一杯だった。


 先生は役に立たない。相談した俺が馬鹿だった。


 それならと、俺は、近所の派出所に足を運んでみた。暴力は犯罪。子供ながらに、そんな知識はあった。


 結論から言うと、これも無駄だった。警察官は、あいつらの逆恨みを増長させることはなかった。しかし、救いにもならなかった。


「友達と喧嘩したなら、ちゃんと話し合って解決しなさい」


 突き放すように吐き捨て、俺の話など聞いてくれなかった。


 誰も頼りにならない。母さんに心配をかけたくない。でも、俺はあいつ等より弱い。


 俺にできるのは、逃げることだけだった。


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